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「……………………っ……?」

目が覚めるとそこには見覚えのない、白い木目の天井が広がっていた。

「あぁ!やっと起きられたんですね!本当に心配しましたよ…………」

そう言ってそばに居た女性がこちらの顔を覗き込み、額に乗せられていたタオルを手早く除けてくれた。

「あの後中々目覚めないわ、熱は出るわで大変だったんですから~」

「そ、それはすまなかった………。ところでここは……?」

新兵を庇って崖から落ちたところまでは覚えているけどそこからの記憶が曖昧だ………

「ここは私の家です。すみません、お名前も何も分からなかったのでとりあえず家に、と思って……」

…………そうだ、先日彼女に傷の手当をしてもらってポーションを……………っ!?!?

先日の出来事を思い出すと同時に、ニコラウスは目がこれでもかという程見開き、口元を押さえた。

「ど、どうしました…?体調でも悪いですか…?」

「い、いや………なんでもない。先日は、ありがとう。」

「いえいえそんな、礼には及びませんよ。」

彼女は謙虚な態度で、微笑みを浮かべている。


そんな彼女の様子に好印象を抱くと同時に、昨日とは異なるその瞳に意識が吸い込まれた。

「琥珀色………」

「…………っ、ごめんなさい。」


その瞳の色を口に出すと、今までの態度が嘘のように萎縮し、肩を震わせた。

「いや…その凄く、あの時の貴女の瞳が綺麗だったから………」

「……………久しぶりに言われました。その、凄く嬉しい、です。」


「…………名前を聞いてもいいかな?」

「あぁ、まだ言ってませんでしたね。私の名前はレ、レティシア………です。」 

何か一瞬躊躇いが伺えたが、レティシアはスカートを軽く持ち上げてぺこりとお辞儀をした。

「レティシア、俺は碧も琥珀も美しいと思うよ。」




「………ふふっ、ありがとうございます。私も名前を伺っても……?」


「………俺はニコラウス……。本当にレティシアには感謝してる、ありがとう。」


レティシアは先程までの萎縮した態度を解き、穏やかにこちらへ笑みを向けている。


俺に名前を聞いてくるってことは知らない、のか。

この部屋……屋敷を見る限り、彼女も爵位を……家名は、言っていなかったか。言いたくないのであればまぁ仕方が無いが……それに彼女の顔も初めて見た。ということは男爵や子爵辺りだろうか。

まぁ何にせよ、あからさまに媚びへつらう奴らに拾われ無くて良かった。


彼はニコラウス・シュテーデル。シュテーデル公爵家に次男として生まれ、現在は王宮騎士団の第2分団隊長としてこの国で名を馳せている。

彼はその実力と、端正な容姿も相まってか、縁談の話は絶えることなく届いているらしい。それなのに、この世に生まれてから22年、一切浮き立った話が無いと言う。


「……そうだ、お詫びに何か出来ないかな?欲しいものとか、行きたい場所とかない?」

そんな変わった態度を見せる彼女に、少し興味でも湧いたのであろうか。そう問いかけた。


「いやダメです!絶対安静です!さっき起きたばっかりですよね?」

「大丈夫。ほら、この通り元気………」

そう言ってニコラウスはベッドの傍に置いてあった、山集積みの分厚い薬学書達を、あっさりと片手で持ち上げた。

「だ、だだめです!!下ろしてくださいー!!!」

レティシアは若干涙目になりながら、ニコラウスの腰に縋り着こうと手を伸ばした瞬間、距離が足りなかったようで、レティシアの手は空を切った。

そのまま勢いよく倒れ込んだ所を瞬時に受け止めた。

彼女の態度や、少し鈍臭……天然な所も初めに会った時と変わっていないようだ。

彼女の変わらない態度にの安堵感を覚えつつ、そんな彼女を見ていると自然に口から笑みが零れた。

よく分からない感情に少々むず痒さを感じる。



「今から一緒に出かけないか、レティシア?」

ニコラウスはこの条件を絶対に譲る気は無いようで、レティシアに視線を合わせて逸らさない。

「わかりました……じゃあ私がニコラウスをお家の近くまで送ります……それならギリギリセーフ?」

レティシアは、自分が折れるより他仕方ないと思い、妥協したのか、送るだけと言うことで渋々首を縦に振った。


レティシアは玄関先にかけてあった麦わら帽子を手に持ち、ドアを開くとこちらを振り返った。


「行きましょ、ニコラウス!」


この時の彼女の飾らない笑顔と、陽光に照らされ、鮮やかに輝く瞳は今でも鮮明に覚えている。

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