【完結】王宮騎士と元引きこもりな鈍感令嬢の文通記録

しののめ

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「はぁ…………………。」

「……さっきから思ってたけどため息止めろよ。」

「あー、はい。失礼しました。」

「おい、お前一応俺、第・2・王・子!!!」

ニコラウスが現在適当にあしらっているのは、この国が第2王子のレオンハルト・ディア・カルトレアである。

「こんな時ばかり肩書きを使うんですね。最低。」

そこに冷めた言葉を送るのは2人の親友であるカインツ・エルフィストンである。


何故こんなむさ苦しい面子で馬車に揺られているかと言うと、時は遡ること2日。

今年は北の郊外の街で例年より早く魔物が発生しているとの通達が入ったのだ。

そこでレオンハルトが、自分行くと行って聞かなかったために、一応騎士団の上位に属している俺がわざわざ出向かなければならなくなった、という訳だ。本当に、本当に、至極面倒である。


「そもそもレオンが行くなんて言わなければ普通に訓練生達を行かせた所だったんだけど。俺もニコラウスも余計な仕事が増えた。」

全くカインつの言う通り、本当に迷惑な話だ。

「一応この国を統べる者としては現地を回ってだなぁ…………」

「いや、その仕事するのはあんたのお兄様だろ。」

「…………………。」


カインツの猛攻は止まらないようだ。


「そんなことはどうでもいいだろ!違う!それよりニコラウスの話だろ!」

何故か急に俺の方に矛先が向いたんだけど……

「なんですか皇子様……………」

ニコラウスは至極面倒臭そうに声を発した。

「ため息だよ!どうせ彼女………ティアちゃんの事だろ?進展はあったのか?詳しく聞かせろよ。」

「ティアって呼ばないで貰って良い?」

正式には俺だってまだ呼べてないのに。


「嫉妬こえぇ~!目が鋭いよニコラウスくーん!」

「レオンは煽りすぎ。で、ニコラウスどうなの?」

「いや、別に……デート?何回かしたくらい……」


デート、と向こうが思っているかどうかは別だが、少なくとも俺はそう認識している。

デートか、そう言えばあの時レティシア噴水で……

その時のことを思い出すと自然と口の端が綻ぶ。


「うわぁ……あのニコラウスが笑ってるよ………」

「本当に世のご令嬢方に見せてやりたいよねコレ」

何故か生暖かい目で見られている気がするが、見なかったことにしておこう。

そんな冗談ばかり言っているが、唯一気兼ねなく何でも話せるのはこの2人だけだ。意外と頼りにしているんだよな。

そう改めて考えると何故か無性に照れくさくなってくる。


「お前らもいい歳なんだから相手見つけなきゃだなっ!」

そう言ってニコラウスは冗談交じりにレオンハルトとカインツの肩を正面から抱き寄せると、その反動で思い切り3人が乗っている車体が傾いた。

「いや、急にどうしたって!!傾いてる!」

「ちょ、やめろマジで車輪外れるって!!!!」


後から、ニコラウス達の馬車が傾いていたが何かあったのかと、先導の人に尋ねられたらしい。
 

 


♢♢♢





例年よりも魔物の出現が早いからと、今回の討伐は急を要したが、その出現数は例年通り。しかも毎年この村での襲来に対して組まれる討伐隊は殆どが訓練生で構成されている。

だが、今年はそこに加えて分隊のトップと戦闘に長けたレオンハルトの護衛、つまりはニコラウスとカインツが来ているとあれば、勿論早すぎるくらいに片付いてしまうのも訳ないだろう。


護衛対象とは言っても、レオンハルトは一応剣の道を志している。2人ほどではないが、並の兵士では歯が立たないほどには強いのだ。

そんな奴に護衛が必要なのかと聞かれたたら、ほぼほぼ要らないだろう。そんな訳でニコラウス達もなんでコイツのためにと、渋い顔をしていたのだ。

 
そんなこんなでニコラウス達は例年の5倍の速度で無事討伐を完了し、宿へと戻り広間にて祝賀会と言う名の飲んだくれ大会を開催していた。

そんな中ニコラウスは面倒臭い酔っ払っいが増えてきたところでその祝賀会から1人離脱し、部屋のベランダにもたれかかっていた。

レティシアは今何してるんだろう。

こんな事を考え出す時点で既に末期であろう。いつの日にかレティシアから贈られたハンカチを胸から取り出し、その端に軽く唇を落とした。


あまりに急ぎの任務で出てきたからレティシアからの手紙にも目が通せなかったんだよな。

ニコラウスはガサゴソとカバンの中を漁ると、白い封筒が見つかった。その封をペーパーナイフで丁寧に開け、その手紙を読み始めた。



クッキー………惜しいことをしたな。前にも1度焼き菓子を貰ったことがあるけれど、店で買ってきたような出来栄えに驚いたのを今でも覚えている。


もう手紙が届いてから5日、いや6日は経っている筈だから……

そう考えるとまたため息が1つ溢れた。


ニコラウスはその手紙を封の中に丁寧にしまい直すと、すっとその縁を撫でた。

レティシアは、文字の最後を右下に伸ばすのが癖だ。この数ヶ月間やりとりをする中で気づいた些細な癖。そんな小さな事にさえ愛しさを感じてしまう程に、今ではその気持ちが大きくなっている。

人と………、レティシアと出会って、こんなにも自分が欲深く、狂おしいほどに人を好きになることができることを初めて知った。


「会いたい、な………………」

ぽつりとこぼした言葉は、誰にも拾われることなく消えていった。

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