上 下
7 / 39

4.

しおりを挟む
「ニコラウス様は………」

「ニコラウスでいいよ、堅苦しいのは嫌い。その代わりと言ってはなんだけど、俺もレティシアと呼ばせてもらっていいかな?」

「わ、っかりました……。に、ニコラウス……?」

「どうした?」

ニコラウスは動揺するレティシアに対し、明らかに意地の悪い顔で聞き返して来る。

「もう!やめてください………」

「ごめんね、つい面白くって。」

レティシアは顔を赤く染め、俯いてしまった。


「そ、そんなことより、ここから街に行くための馬車を捕まえないと!」

そしてエルナは少し小走りをし、少し大きい道へと駆け出した。

日中は普通に陽光が差しているので、特に瞳について気にする必要は無い。暗所にさえ入らなければ良いだけなので、至って普通の人と変わらず生活することは苦ではない。


「ニコラウス、こっち!」

レティシアがそう言いながらニコラウスの方を振り返ると同時に、脇にあった草むらから小さな蛇が飛び出してきた。

「いゃぁああ!!!」

レティシアは蛇に驚き、その場に尻もちをついた。


「………………………………っく、」

ニコラウスは、何とかそこまでは堪えていたがついに耐えられなくなったようで、手で口を覆うことを辞め、高らかに笑い始めた。

そんなに笑うことないじゃないでしょ!と内心思いつつも、中々笑い止まないニコラウスに釣られ、レティシアも笑いだしてしまった。


「どれだけ笑うのよ……もういいでしょ?」

「ごめんついね、はぁ……………こんなに笑ったのは久しぶりだよ。」

そうは言いながらも、屈みながらこちらに右手を差し伸べてくれている。


レティシアは立ち上がり、ワンピースの裾に着いてしまった土を手で払うと、2人は目を見合せた。

「そろそろ行きましょうか。」

「うん、そうしようか。」

地面に落ちてしまったポシェットを拾い上げ、2人は馬車に乗るため、開けた道に向かい歩き始めた。




♢♢♢




そこから馬車に揺られること数十分。レティシアの家がある、カルトレアの町の大広場に馬車が停車した。

 
2人は降車し、運転手に一礼すると、馬車は次の客を乗せ、早々に去って行った。


「ねぇ、レティシア。この辺に女性が喜ぶような土産が買える店ってないかな?残念だけどそう言うことには疎くて……」


……………はっ!さては彼女さんのために……。これまた出来た紳士だこと。そうと来たら、彼女さんのために飛びっきり可愛いお土産を選ばなきゃね!

「この道を真っ直ぐ行った所にある雑貨屋さんなんてどうかしら?最近この町で、あのお店を知らない女の子はいないのよ!……実を言えば私が行きたいだけなんだけれど。」

「レティシアがそう言うならそこに寄ろうかな?」

「本当ですか!………あっ、でも体調は……?」

「そんなこと今更でしょ?なんならまた本を…」

「分かった、分かりました!行きましょう。」

そう言うとレティシアはニコラウスの腕を取り、ずんずんと先へ進んで行った。


2人は、雑貨屋に向かう道中も他愛もない会話を弾ませていた。


「へぇ、そうなんですね。じゃあニコラウスはその『ぷでぃんぐ』とやらを食べたのですか?」

「あぁ、遠征に行った時にね。こちらの地方では食べたことの無い味でとても美味しかったよ。」

「私も1度食べてみたいですね………。」

お菓子好きの私にとってそんなに羨ましい話は無いわね……いつかその『ぷでぃんぐ』とやら、食さねば…うぅ、なんだか想像しただけでお腹が減ってきたわね。


そんなことを話しているうちにお目当ての雑貨屋の前に到着した。

うわぁ……!外から見るだけでも乙女心が擽られる!
あの羽根ペン物凄く可愛いっ……!!


「ね、ニコラウス早く入りましょう!」

「あ、あぁ……。」

そう言うと、レティシアはニコラウスの腕を掴み店の中へと入って行った。

ニコラウスが動揺するのもそのはず。この店は女性人気が非常に高く、ここから見る限り男女比は大体1:9と言った所だろうか。

ニコラウスはあまり女性が得意ではないのだ。

結果、ニコラウスはその場に棒立ちになり、非常に居た堪れない様になっている。

そんなことはつゆ知らず、レティシアの意識は綺麗に陳列された小物に引っ張られており、ニコラウスの様子を気にかけている余裕は微塵も無いようだ。


この店に来るべきではなかったのかも、と、少し後悔のため息を漏らすニコラウスであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

処理中です...