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第3章 学園生活 前期
2.入学式
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ノエルとリュカは、指示された通りの教室へ足を踏み入れると、指定されたそれぞれの席に腰を下ろした。幸いなことに、ノエルとリュカの席は隣ではないものの近くに配置されており、ノエルはほっと胸を撫で下ろした。
「僕、リュカと近い席でよかったよ。一人だったらどうしようかと思ったぁ……」
ノエルが安心した表情で言うと、リュカは微笑みながら応じた。
「うん、僕もノエルと近くの席で嬉しいよ。」
談笑しながら周囲を見回していると、教室内にはすでに同年代の生徒たちがそれぞれの席で話に花を咲かせていた。統一された制服が今までには無かった、新しい生活の幕開けを感じさせる。
やがて扉が開く音が響き、教室内のざわめきが一瞬にして静まり返る。
「まずは入学おめでとう。君たちを心から歓迎しよう。俺の名前はカール。これから2年間、お前達の担任になる。よろしく頼む。」
そう語りながら教室の前に立ったのは、がっしりと鍛えられた体格を持つ男性だった。短髪で鋭い目つきだが、親しみやすい笑顔が印象的である。彼は軽く腕を組みながら、教室全体を見渡すと再び口を開いた。
「ああ、それと俺の担当は水魔法だな。もし該当する奴がいたら、これからよろしくな。」
その発言に教室内に小さなざわめきが起こった。
――えっ? 魔法科?
一瞬、教室内に困惑した空気が流れる。誰もが、その鍛え上げられた体格から剣術科の担当しだと推測していた。けれどその実際は違ったようで、教室の大半の人間はぽかんとしている。
「お前ら全員、俺のこと絶対剣術学科だと思っただろう? まぁ、見た目に反して剣は振れないんだがな!」
ガハハと豪快に笑うそのテンションの高さに、ノエルはついリュカの方を振り返る。リュカも同じように苦笑いを浮かべながら、微妙に肩をすくめる仕草を見せた。
カールはそんな和やかな雰囲気を保ちながら、入学にさしあたっての、学園の基本的な説明を始めた。
「さて、この学園に入学したからには、お前たちはまず2年間、剣術、魔法、基礎学問の三分野を満遍なく学ぶことになる。それぞれの適性を確認したうえで、3年目から中等部として本格的に専門分野へ進む形なことは理解しているだろう。」
ノエルはその説明に耳を傾けながら、「やっぱりお父様が言ってた通りだ」と小さく頷いた。リュカも同様に真剣な顔つきで聞き入っている。
「もちろん、専門分野が決まるまではクラス編成は変わらない。だから、この2年間は同じ仲間と一緒だ。今の仲間たちと協力しながら学んでいくことが大事だぞ。……さて、それじゃあ本題に入ろうか。」
カールの声が再び教室を引き締める。
「お前たちにはこれから魔力測定を受けてもらう。」
魔力測定――それはこの学園に入学して最初に行われる重要な試験の一つである。自分の魔力の量や属性を把握するための測定であり、今後の学びや進路を決定する上で欠かせない行程だ。
「基本的に魔力の属性は『火』『水』『土』『風』『聖』の五つに分かれる。ただし、『聖』の属性を持つ者は非常に稀で、30年、いや50年に1人現れれば良いほうだな。」
カールは黒板に簡単な図を描きながら説明を続けた。
あれは人間、のイラスト…?カール先生ってあんまり絵を描くのは上手じゃないんだな…
それぞれの属性には独自の特性があり、例えば火属性は攻撃力に優れ、水属性は治癒や補助に強い、などその特性を詳しく説明された。
「この後実際に測定をして貰うから、その心構えをしておくように。」
カールの言葉に教室内が少しざわついたが、彼はすぐに笑みを浮かべて手をパンと叩くと、教室全体を落ち着かせた。
「はいはい、続きを話すから静かに。これからの行程だが……」
***
オリエンテーションが終わり、休憩時間を知らせる鐘の音が響き渡った。教室を後にしたノエルとリュカは、測定をする部屋へ移動するため、廊下を歩いていた。
「ねぇ、リュカって兄弟はいるの?」
「うん。兄が一人いるよ。」
「そうなんだ! お兄様は何科なの?」
「剣術科だよ。一応強い?らしい。あんまりよく分かってないんだけどね。あの人テキトーだから。」
ははは、と乾いた笑いを零すリュカに、ノエルは目を輝かせながら頷いた。
「僕の兄さんも剣術科にいるよ!去年までは魔法科にもたんだ。…もしかしたら知り合い同士かも?」
「いや、流石に知り合いって言うか……僕でも知ってるよ、『ローレンツ・クーレル』でしょ?」
「えっ!なんで知ってるの!?」
「ローレンツ様って今年学生分隊の団長になったよね?多分この学園で知らない人は居ないレベルだと思うよ。多分入学したての僕たちの学年を含めてみんな知ってる。……あと兄が居るって言ったけど、その兄って『ハンス』ね。」
ハンス……ハンスって、あのハンスさん!ロイ兄さんの見学に行った時に会った!
ノエルは目をまん丸に開いて納得!と言わんばかりに、両腕を組みうんうんと頷いた。
そんな他愛ない会話をしているうちに、目的の部屋に到着した。部屋の中には測定器が並び、これから始まる本格的な検定に向けて生徒たちは列を作り始める。
「リュカは何属性だと思う?」
「僕はお父様もお母様も風属性だから、多分僕も風属性だと思う。ノエルはどうなの?」
「僕は火か水かなぁ……お父様と、一番上の兄さんは水属性なんだ。でもロイ兄さん――ローレンツ兄さんは火属性なんだよね…」
そんなやり取りをしているうちに、白い衣装を身に纏い、顎にたっぷりと髭を蓄えた、いかにも聖職者然とした人達がぞろぞろと入ってきた。
「それではこれより、順に皆さんの魔力測定を行います。こちらに並んでください。」
その聖職者の内の1人が、測定器のために、丸みを帯びた大きなクリスタルの前に並ぶように促した。その声に従い、ノエルとリュカもその列に加わった。
「僕、リュカと近い席でよかったよ。一人だったらどうしようかと思ったぁ……」
ノエルが安心した表情で言うと、リュカは微笑みながら応じた。
「うん、僕もノエルと近くの席で嬉しいよ。」
談笑しながら周囲を見回していると、教室内にはすでに同年代の生徒たちがそれぞれの席で話に花を咲かせていた。統一された制服が今までには無かった、新しい生活の幕開けを感じさせる。
やがて扉が開く音が響き、教室内のざわめきが一瞬にして静まり返る。
「まずは入学おめでとう。君たちを心から歓迎しよう。俺の名前はカール。これから2年間、お前達の担任になる。よろしく頼む。」
そう語りながら教室の前に立ったのは、がっしりと鍛えられた体格を持つ男性だった。短髪で鋭い目つきだが、親しみやすい笑顔が印象的である。彼は軽く腕を組みながら、教室全体を見渡すと再び口を開いた。
「ああ、それと俺の担当は水魔法だな。もし該当する奴がいたら、これからよろしくな。」
その発言に教室内に小さなざわめきが起こった。
――えっ? 魔法科?
一瞬、教室内に困惑した空気が流れる。誰もが、その鍛え上げられた体格から剣術科の担当しだと推測していた。けれどその実際は違ったようで、教室の大半の人間はぽかんとしている。
「お前ら全員、俺のこと絶対剣術学科だと思っただろう? まぁ、見た目に反して剣は振れないんだがな!」
ガハハと豪快に笑うそのテンションの高さに、ノエルはついリュカの方を振り返る。リュカも同じように苦笑いを浮かべながら、微妙に肩をすくめる仕草を見せた。
カールはそんな和やかな雰囲気を保ちながら、入学にさしあたっての、学園の基本的な説明を始めた。
「さて、この学園に入学したからには、お前たちはまず2年間、剣術、魔法、基礎学問の三分野を満遍なく学ぶことになる。それぞれの適性を確認したうえで、3年目から中等部として本格的に専門分野へ進む形なことは理解しているだろう。」
ノエルはその説明に耳を傾けながら、「やっぱりお父様が言ってた通りだ」と小さく頷いた。リュカも同様に真剣な顔つきで聞き入っている。
「もちろん、専門分野が決まるまではクラス編成は変わらない。だから、この2年間は同じ仲間と一緒だ。今の仲間たちと協力しながら学んでいくことが大事だぞ。……さて、それじゃあ本題に入ろうか。」
カールの声が再び教室を引き締める。
「お前たちにはこれから魔力測定を受けてもらう。」
魔力測定――それはこの学園に入学して最初に行われる重要な試験の一つである。自分の魔力の量や属性を把握するための測定であり、今後の学びや進路を決定する上で欠かせない行程だ。
「基本的に魔力の属性は『火』『水』『土』『風』『聖』の五つに分かれる。ただし、『聖』の属性を持つ者は非常に稀で、30年、いや50年に1人現れれば良いほうだな。」
カールは黒板に簡単な図を描きながら説明を続けた。
あれは人間、のイラスト…?カール先生ってあんまり絵を描くのは上手じゃないんだな…
それぞれの属性には独自の特性があり、例えば火属性は攻撃力に優れ、水属性は治癒や補助に強い、などその特性を詳しく説明された。
「この後実際に測定をして貰うから、その心構えをしておくように。」
カールの言葉に教室内が少しざわついたが、彼はすぐに笑みを浮かべて手をパンと叩くと、教室全体を落ち着かせた。
「はいはい、続きを話すから静かに。これからの行程だが……」
***
オリエンテーションが終わり、休憩時間を知らせる鐘の音が響き渡った。教室を後にしたノエルとリュカは、測定をする部屋へ移動するため、廊下を歩いていた。
「ねぇ、リュカって兄弟はいるの?」
「うん。兄が一人いるよ。」
「そうなんだ! お兄様は何科なの?」
「剣術科だよ。一応強い?らしい。あんまりよく分かってないんだけどね。あの人テキトーだから。」
ははは、と乾いた笑いを零すリュカに、ノエルは目を輝かせながら頷いた。
「僕の兄さんも剣術科にいるよ!去年までは魔法科にもたんだ。…もしかしたら知り合い同士かも?」
「いや、流石に知り合いって言うか……僕でも知ってるよ、『ローレンツ・クーレル』でしょ?」
「えっ!なんで知ってるの!?」
「ローレンツ様って今年学生分隊の団長になったよね?多分この学園で知らない人は居ないレベルだと思うよ。多分入学したての僕たちの学年を含めてみんな知ってる。……あと兄が居るって言ったけど、その兄って『ハンス』ね。」
ハンス……ハンスって、あのハンスさん!ロイ兄さんの見学に行った時に会った!
ノエルは目をまん丸に開いて納得!と言わんばかりに、両腕を組みうんうんと頷いた。
そんな他愛ない会話をしているうちに、目的の部屋に到着した。部屋の中には測定器が並び、これから始まる本格的な検定に向けて生徒たちは列を作り始める。
「リュカは何属性だと思う?」
「僕はお父様もお母様も風属性だから、多分僕も風属性だと思う。ノエルはどうなの?」
「僕は火か水かなぁ……お父様と、一番上の兄さんは水属性なんだ。でもロイ兄さん――ローレンツ兄さんは火属性なんだよね…」
そんなやり取りをしているうちに、白い衣装を身に纏い、顎にたっぷりと髭を蓄えた、いかにも聖職者然とした人達がぞろぞろと入ってきた。
「それではこれより、順に皆さんの魔力測定を行います。こちらに並んでください。」
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