気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ

文字の大きさ
上 下
52 / 72
第3章 学園生活 前期

2.入学式

しおりを挟む
ノエルとリュカは、指示された通りの教室へ足を踏み入れると、指定されたそれぞれの席に腰を下ろした。幸いなことに、ノエルとリュカの席は隣ではないものの近くに配置されており、ノエルはほっと胸を撫で下ろした。

「僕、リュカと近い席でよかったよ。一人だったらどうしようかと思ったぁ……」

ノエルが安心した表情で言うと、リュカは微笑みながら応じた。

「うん、僕もノエルと近くの席で嬉しいよ。」

談笑しながら周囲を見回していると、教室内にはすでに同年代の生徒たちがそれぞれの席で話に花を咲かせていた。統一された制服が今までには無かった、新しい生活の幕開けを感じさせる。

やがて扉が開く音が響き、教室内のざわめきが一瞬にして静まり返る。

「まずは入学おめでとう。君たちを心から歓迎しよう。俺の名前はカール。これから2年間、お前達の担任になる。よろしく頼む。」

そう語りながら教室の前に立ったのは、がっしりと鍛えられた体格を持つ男性だった。短髪で鋭い目つきだが、親しみやすい笑顔が印象的である。彼は軽く腕を組みながら、教室全体を見渡すと再び口を開いた。


「ああ、それと俺の担当は水魔法だな。もし該当する奴がいたら、これからよろしくな。」

その発言に教室内に小さなざわめきが起こった。

――えっ? 魔法科?

一瞬、教室内に困惑した空気が流れる。誰もが、その鍛え上げられた体格から剣術科の担当しだと推測していた。けれどその実際は違ったようで、教室の大半の人間はぽかんとしている。

「お前ら全員、俺のこと絶対剣術学科だと思っただろう? まぁ、見た目に反して剣は振れないんだがな!」

ガハハと豪快に笑うそのテンションの高さに、ノエルはついリュカの方を振り返る。リュカも同じように苦笑いを浮かべながら、微妙に肩をすくめる仕草を見せた。

カールはそんな和やかな雰囲気を保ちながら、入学にさしあたっての、学園の基本的な説明を始めた。

「さて、この学園に入学したからには、お前たちはまず2年間、剣術、魔法、基礎学問の三分野を満遍なく学ぶことになる。それぞれの適性を確認したうえで、3年目から中等部として本格的に専門分野へ進む形なことは理解しているだろう。」

ノエルはその説明に耳を傾けながら、「やっぱりお父様が言ってた通りだ」と小さく頷いた。リュカも同様に真剣な顔つきで聞き入っている。

「もちろん、専門分野が決まるまではクラス編成は変わらない。だから、この2年間は同じ仲間と一緒だ。今の仲間たちと協力しながら学んでいくことが大事だぞ。……さて、それじゃあ本題に入ろうか。」

カールの声が再び教室を引き締める。

「お前たちにはこれから魔力測定を受けてもらう。」

魔力測定――それはこの学園に入学して最初に行われる重要な試験の一つである。自分の魔力の量や属性を把握するための測定であり、今後の学びや進路を決定する上で欠かせない行程だ。

「基本的に魔力の属性は『火』『水』『土』『風』『聖』の五つに分かれる。ただし、『聖』の属性を持つ者は非常に稀で、30年、いや50年に1人現れれば良いほうだな。」

カールは黒板に簡単な図を描きながら説明を続けた。

あれは人間、のイラスト…?カール先生ってあんまり絵を描くのは上手じゃないんだな…

それぞれの属性には独自の特性があり、例えば火属性は攻撃力に優れ、水属性は治癒や補助に強い、などその特性を詳しく説明された。


「この後実際に測定をして貰うから、その心構えをしておくように。」

カールの言葉に教室内が少しざわついたが、彼はすぐに笑みを浮かべて手をパンと叩くと、教室全体を落ち着かせた。

「はいはい、続きを話すから静かに。これからの行程だが……」


***


オリエンテーションが終わり、休憩時間を知らせる鐘の音が響き渡った。教室を後にしたノエルとリュカは、測定をする部屋へ移動するため、廊下を歩いていた。

「ねぇ、リュカって兄弟はいるの?」

「うん。兄が一人いるよ。」

「そうなんだ! お兄様は何科なの?」

「剣術科だよ。一応強い?らしい。あんまりよく分かってないんだけどね。あの人テキトーだから。」

ははは、と乾いた笑いを零すリュカに、ノエルは目を輝かせながら頷いた。

「僕の兄さんも剣術科にいるよ!去年までは魔法科にもたんだ。…もしかしたら知り合い同士かも?」

「いや、流石に知り合いって言うか……僕でも知ってるよ、『ローレンツ・クーレル』でしょ?」

「えっ!なんで知ってるの!?」

「ローレンツ様って今年学生分隊の団長になったよね?多分この学園で知らない人は居ないレベルだと思うよ。多分入学したての僕たちの学年を含めてみんな知ってる。……あと兄が居るって言ったけど、その兄って『ハンス』ね。」

ハンス……ハンスって、あのハンスさん!ロイ兄さんの見学に行った時に会った!

ノエルは目をまん丸に開いて納得!と言わんばかりに、両腕を組みうんうんと頷いた。


そんな他愛ない会話をしているうちに、目的の部屋に到着した。部屋の中には測定器が並び、これから始まる本格的な検定に向けて生徒たちは列を作り始める。

「リュカは何属性だと思う?」

「僕はお父様もお母様も風属性だから、多分僕も風属性だと思う。ノエルはどうなの?」

「僕は火か水かなぁ……お父様と、一番上の兄さんは水属性なんだ。でもロイ兄さん――ローレンツ兄さんは火属性なんだよね…」

そんなやり取りをしているうちに、白い衣装を身に纏い、顎にたっぷりと髭を蓄えた、いかにも聖職者然とした人達がぞろぞろと入ってきた。

「それではこれより、順に皆さんの魔力測定を行います。こちらに並んでください。」

その聖職者の内の1人が、測定器のために、丸みを帯びた大きなクリスタルの前に並ぶように促した。その声に従い、ノエルとリュカもその列に加わった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話

あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうじは、親に愛されたことがない子だった 親は妹のゆうかばかり愛してた。 理由はゆうかの病気にあった。 出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。 もう愛なんて知らない、愛されたくない そう願って、目を覚ますと_ 異世界で悪役令息に転生していた 1章完結 2章完結(サブタイかえました) 3章連載

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない

迷路を跳ぶ狐
BL
 自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。  恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。  しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。

処理中です...