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第2章 少年期
30.新しい
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ノエルたちは学園入学の準備を進めるため、街を訪れていた。
本来はロイスとノエルの二人で行く予定だったが、その計画はルーベルトとローレンツにあっさり露見。気付けば一家総出の賑やかな外出になっていた。
「じゃあ、まず仕立て屋に行こうか。」
ロイスがそう提案すると、従者が軽く頷き、馬車がゆっくりと進み始めた。街並みを抜けてたどり着いたのは、学園指定の制服を誂える仕立て屋だった。控えめながらも気品を感じさせる店構えは、この街で最も評判の高い服飾店の1つだ。
「懐かしいな。俺もここで作ったんだ。」
ローレンツが眺めるように店を見上げながら言う。
「僕も。制服の採寸のとき、妙に緊張してね。」
ルーベルトが苦笑を浮かべる。
「兄さんたちもこのお店で仕立てたの?」
ノエルが目を輝かせて尋ねる。
「ああ。この見せは私が懇意にしている職人がいてな。それに仕上がりが丁寧で早い。」
ロイスが説明すると、ノエルは「すごいなぁ」と感嘆の声を上げた。馬車を降り、店の扉を開けた瞬間、甲高い怒声が響いた。
「どうしてあんな下級貴族の服を先に仕立てるの!順番なんて関係ありませんわ!私は伯爵家の娘ですのよ?」
振り返ると、華やかなドレスを纏った令嬢が、店の職人に向かって怒りを露わにしていた。
「申し訳ありませんが、当店では順番にお客様をお受けしております。いかなるご身分の方であっても例外は設けておりません。」
職人が毅然とした態度で応じるが、令嬢は収まらない様子だ。
「そんなことどうでもいいの!伯爵家が下級貴族より後なんてありえませんわ!」
ロイスが小さく咳払いをした瞬間、令嬢は声を止めたそして振り向き、ロイスたちを認めると、その場で硬直した。
「クーレル侯爵様……!それに皆様おそろいで…ご、ご機嫌麗しゅ、う……」
顔が青ざめ、令嬢は呆然とする。
「あらあら、いらっしゃい。お久しぶりね、ロイス坊ちゃん。」
店主の女性――ミッシェルは、そんな令嬢を尻目に、ロイスに対して懐かしそうに笑いかけた。
「坊ちゃんはやめてくれ、恥ずかしいから……」
ロイスは軽く頭をかきながら顔を赤らめる。
「昔からずっと『ロイス坊ちゃん』だったじゃないか。それとも大人になったつもりかい?」
ミッシェルがからかうように言うと、ローレンツとルーベルトは肩を揺らして笑った。そんなやりとりを経て場の空気が少し和らいだが、令嬢はその場に立ち尽くしたままだった。
「すみません、少し声が大きかったようだな。」
ロイスは令嬢を軽く一瞥した後、先程罵られていた若い男に目を向けた。
「そちらの方、どうぞ先に済ませてください。」
ロイスが声をかけると、先に注文をしていた男爵令嬢は、「あ、ありがとうございます!」と頭を下げると、仕立て屋と共に奥の部屋へ消えて行った。
先程まで金切り声をあげ、抗議をしていた令嬢は、その場にぽつんと取り残され、羞恥心から顔を赤く染め、体をプルプルと震わせている。
「さっ、先程は失礼いたしました!」
令嬢は顔を真っ赤にして謝罪すると、慌てて店を飛び出していった。
「ミッシェル、さっきのは捕まえておかなくていいのか?」
ルーベルトが問いかけると、ミッシェルは肩をすくめた。
「あんな客こっちから願い下げだよ。そこまで品位を落としているつもりはないよ。文句を言うのなんて100年早いんだよ。」
ミッシェルの吐き捨てるような言葉に、場の空気が和らぎ、兄弟たちは他愛のない会話を交わしながら店内で過ごした。その間にノエルの採寸も終わり、仕立てられた制服が手渡された。
「お父様、これすごいよ!兄さんたちとお揃いだ!」
ノエルは目を輝かせ、制服を大事そうに抱きしめる。その様子にルーベルトもローレンツも満足げに頷いた。
帰りの馬車の中で、ノエルは制服を膝に置きながらつぶやいた。
「これを着たら、僕も兄さんたちみたいになれるのかな……」
「僕たちに憧れてくれてるの?凄く嬉しいよ。」
ルーベルトはそう言ってノエルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「今とは全く違う環境で、新しい経験をして、ノエルは沢山成長するはず。僕もそんなノエルの成長を楽しみにしてるよ。」
ルーベルトが微笑みながら言い、ローレンツもこくりと頷いた。
「俺たちがいつでも支えてやるからな。」
兄たちの言葉を聞き、ノエルは安心したように微笑んだ。そして身にまとった真新しい制服を見つめながら、これから始まる新しい生活に思いを馳せた。
___________________
今回で2章完結です。
ここまでお付き合いありがとうございました。
3章もよろしくお願いいたします!
本来はロイスとノエルの二人で行く予定だったが、その計画はルーベルトとローレンツにあっさり露見。気付けば一家総出の賑やかな外出になっていた。
「じゃあ、まず仕立て屋に行こうか。」
ロイスがそう提案すると、従者が軽く頷き、馬車がゆっくりと進み始めた。街並みを抜けてたどり着いたのは、学園指定の制服を誂える仕立て屋だった。控えめながらも気品を感じさせる店構えは、この街で最も評判の高い服飾店の1つだ。
「懐かしいな。俺もここで作ったんだ。」
ローレンツが眺めるように店を見上げながら言う。
「僕も。制服の採寸のとき、妙に緊張してね。」
ルーベルトが苦笑を浮かべる。
「兄さんたちもこのお店で仕立てたの?」
ノエルが目を輝かせて尋ねる。
「ああ。この見せは私が懇意にしている職人がいてな。それに仕上がりが丁寧で早い。」
ロイスが説明すると、ノエルは「すごいなぁ」と感嘆の声を上げた。馬車を降り、店の扉を開けた瞬間、甲高い怒声が響いた。
「どうしてあんな下級貴族の服を先に仕立てるの!順番なんて関係ありませんわ!私は伯爵家の娘ですのよ?」
振り返ると、華やかなドレスを纏った令嬢が、店の職人に向かって怒りを露わにしていた。
「申し訳ありませんが、当店では順番にお客様をお受けしております。いかなるご身分の方であっても例外は設けておりません。」
職人が毅然とした態度で応じるが、令嬢は収まらない様子だ。
「そんなことどうでもいいの!伯爵家が下級貴族より後なんてありえませんわ!」
ロイスが小さく咳払いをした瞬間、令嬢は声を止めたそして振り向き、ロイスたちを認めると、その場で硬直した。
「クーレル侯爵様……!それに皆様おそろいで…ご、ご機嫌麗しゅ、う……」
顔が青ざめ、令嬢は呆然とする。
「あらあら、いらっしゃい。お久しぶりね、ロイス坊ちゃん。」
店主の女性――ミッシェルは、そんな令嬢を尻目に、ロイスに対して懐かしそうに笑いかけた。
「坊ちゃんはやめてくれ、恥ずかしいから……」
ロイスは軽く頭をかきながら顔を赤らめる。
「昔からずっと『ロイス坊ちゃん』だったじゃないか。それとも大人になったつもりかい?」
ミッシェルがからかうように言うと、ローレンツとルーベルトは肩を揺らして笑った。そんなやりとりを経て場の空気が少し和らいだが、令嬢はその場に立ち尽くしたままだった。
「すみません、少し声が大きかったようだな。」
ロイスは令嬢を軽く一瞥した後、先程罵られていた若い男に目を向けた。
「そちらの方、どうぞ先に済ませてください。」
ロイスが声をかけると、先に注文をしていた男爵令嬢は、「あ、ありがとうございます!」と頭を下げると、仕立て屋と共に奥の部屋へ消えて行った。
先程まで金切り声をあげ、抗議をしていた令嬢は、その場にぽつんと取り残され、羞恥心から顔を赤く染め、体をプルプルと震わせている。
「さっ、先程は失礼いたしました!」
令嬢は顔を真っ赤にして謝罪すると、慌てて店を飛び出していった。
「ミッシェル、さっきのは捕まえておかなくていいのか?」
ルーベルトが問いかけると、ミッシェルは肩をすくめた。
「あんな客こっちから願い下げだよ。そこまで品位を落としているつもりはないよ。文句を言うのなんて100年早いんだよ。」
ミッシェルの吐き捨てるような言葉に、場の空気が和らぎ、兄弟たちは他愛のない会話を交わしながら店内で過ごした。その間にノエルの採寸も終わり、仕立てられた制服が手渡された。
「お父様、これすごいよ!兄さんたちとお揃いだ!」
ノエルは目を輝かせ、制服を大事そうに抱きしめる。その様子にルーベルトもローレンツも満足げに頷いた。
帰りの馬車の中で、ノエルは制服を膝に置きながらつぶやいた。
「これを着たら、僕も兄さんたちみたいになれるのかな……」
「僕たちに憧れてくれてるの?凄く嬉しいよ。」
ルーベルトはそう言ってノエルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「今とは全く違う環境で、新しい経験をして、ノエルは沢山成長するはず。僕もそんなノエルの成長を楽しみにしてるよ。」
ルーベルトが微笑みながら言い、ローレンツもこくりと頷いた。
「俺たちがいつでも支えてやるからな。」
兄たちの言葉を聞き、ノエルは安心したように微笑んだ。そして身にまとった真新しい制服を見つめながら、これから始まる新しい生活に思いを馳せた。
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今回で2章完結です。
ここまでお付き合いありがとうございました。
3章もよろしくお願いいたします!
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