気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ

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第2章 少年期

21.誕生日

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ローレンツとテオの関係は、ここ数日でさらに険悪さを増していた。二人が顔を合わせるたび、互いに突き刺すような視線を交わし、些細な会話も火種となりかけていた。そんな空気を察した屋敷の使用人たちは、なるべく二人を接触させないように気を配っていたが、ローレンツもテオも隠そうとはせず、周囲の気遣いもあまり効果がなかった。

だが、当のノエルはというと――。
そういった家の不穏な空気など気にもとめず、件の誕生パーティーが近づいていることに胸を躍らせていた。

明日はいよいよ当日だ。家中が準備で忙しく動き回り、ノエルの部屋の近くまで華やかな装飾や料理の香りが漂ってくる。

「明日が待ち遠しいなぁ……」

ノエルはそう呟きながら、ベッドに身を沈めた。家族や来客がどんな風に祝ってくれるのだろう。思い浮かべるだけで、心が弾む。

どんな人が来るのかな?どんなご馳走が並ぶんだろう?

楽しい妄想を巡らせつつ、ノエルは目を閉じた。明日に備え、今夜はしっかり眠らなくてはならない。すべてがきっと素敵な一日になる――そんな期待を胸に、ノエルは眠りについた。


翌朝のクーレル家は、さらに賑やかだった。
厨房ではたくさんの料理が仕上げられ、屋敷内外には色とりどりの装飾が施されている。次々と運び込まれる花や贈り物が、使用人たちによって手際よく並べられていく。その華やかさに、ノエルも目を輝かせていた。

「すごいね、ルーベルト兄さん!これ、みんな僕のために?」

「そうだよ、ノエル。」

ルーベルトは柔らかく微笑み、「今日の主役は君なんだからね。」と言うとノエルの頭を撫でた。

「そっかぁ……!」

ノエルはうれしそうに笑うと、鏡の前でくるりと一回転してみせた。今日のために仕立てられたクリーム色のタキシードは、彼の青い瞳や白い肌に映えている。胸元の青いリボンもとても可愛らしく、まるで童話に出てくる王子様のようだった。

そして、会場へ向かう時間がやってきた。
ノエルはロイス、ルーベルト、ローレンツとともに会場の入り口へ向かう。途中、ローレンツとテオが廊下で短い言葉を交わしていたが、それはノエルには聞こえなかった。

「……無駄に騒ぎ立てるなよ。」

「騒いでるのはあなたでしょう?」

互いに険悪な視線を向けたまま、二人はすれ違った。ノエルがそんな二人の気配に気づくはずもなく、胸を高鳴らせながら大きな扉の前に立っていた。

この扉の向こうに、どんな世界が広がっているんだろう。中からは既に大勢の人々の話し声や笑い声が聞こえてくる。その音に、ノエルは緊張をおぼえ、足が少し竦んだ。

「ノエル、準備はいいか?」

ローレンツが隣で優しく声をかけてくる。

「うん……たぶん。」

「大丈夫だよ。君は今日の主役なんだから、堂々と。」

ローレンツが肩に軽く手を置いてくれる。その温かさに少しだけ緊張が解け、ノエルは頷いた。

そして、扉が開かれる。
眩しい光とともに、ノエルの目の前に壮大な会場の光景が広がった。豪華な装飾が施された部屋には、あちこちで談笑する貴族たちの姿。壁際にはたくさんのご馳走が並び、天井から吊るされたシャンデリアがその全てを煌びやかに照らしている。

「すごい……!」

思わずノエルは声を漏らした。
中にいる貴族たちは一斉にこちらに注目し、大きな拍手が沸き起こる。父や兄たちと一緒に中央の円卓へと進むノエルは、誇らしい気持ちと少しの恥ずかしさを抱えていた。

テーブルに着席すると、ロイスが立ち上がり、会場全体を見渡して口を開く。

「本日は、我が息子であるノエル・クーレルの生誕を祝うためにお集まりいただき、ありがとうございます。どうぞ短いひとときを存分にお楽しみください。」

その言葉を合図に、会場の空気が一気に賑やかになる。ノエルの元には次々と人が挨拶に訪れ、彼を祝福してくれた。
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