37 / 72
第2章 少年期
17.屋敷で
しおりを挟む
本日は特段決まった予定がなく、のんびり過ごすことを決めていた。お気に入りのテラスで、昨日ルーベルトと共に借りてきた本を手にしている。一冊、また一冊と読み進め、気づけば二刻程が経過していた。
そろそろ目が疲れてきたので、お茶でも飲もうかた考え、同じく昨日買ってきたクッキーの缶を棚から引っ張り出した。
「エマ、いつもの紅茶をお願いしてもいい?」
「かしこまりました。」
乳母のエマは手際よく部屋の隅にある戸棚を開け、紅茶を準備し始めた。その間、ノエルは缶を開けてクッキーに手を伸ばす。
本当は昨日の夕食でお土産をみんなに渡す予定だったのだが、ロイスとローレンツは都合がつかず、ルーベルトと二人きりの夕食だった。そのため渡す機会を翌日に持ち越すことにした。今日の夕食で改めて、昨日選定したお土産を全員に渡そうと考えている。
そんなことを考えていると、芳しい紅茶の香りが漂ってきた。
「ありがとう。」
ノエルは礼を言い、カップに口をつける。そしてまた、本を手に取った。
流石に昨日借りてきたのを今日読み切っちゃうのももったいないし、この章を読み切ったら昼寝でもしようか、などと考えつつ、日差しが心地よい大きなガラスに向けひとつ欠伸をし、読書を再開した。
本を読み終えると、予定通り自室に戻り昼寝をした。その後も特に変わりない平和な時間が流れ、気づけば日が傾き始めていた。
「そろそろ夕食のお時間です。」
エマの声が扉越しに聞こえてきた。
「今行くよ。」
ノエルは軽く目をこすりながら立ち上がり、近辺を簡単に片付ける。そして、テーブルに置いていたお土産の入った袋を手に取り、食堂へと向かった。
***
今日の食堂には全員の姿があった。いつもの席は慣れ親しんだ姿で埋まり、賑やかな雰囲気が漂っている。
「それでは食べ始めようか。」
ロイスがそう言口にしたところで、ノエルが少し緊張した面持ちで口を開いた。
「ちょっといい?」
ノエルの言葉に3人の視線が一斉に向けられる。
「えっとね、昨日ルー兄さんと町に行ったときに、お父様とロイ兄さんにお土産を買ったんだ。」
ノエルは袋の中を探りながら、まずローレンツの元へと向かった。
「これ!兄さんの目の色と同じ青の刺繍が入ってるんだ。」
そう言いながら、深い青色の刺繍が施されたポケットチーフを差し出した。
「これ、ノエルが選んでくれたのか?」
ローレンツは椅子から立ち上がり、ノエルの目線に合わせて腰を落とした。
「うん!ロイ兄さんにピッタリでしょ?」
自慢げなノエルに、ローレンツは小さく笑みをこぼした。
「ああ、本当に。大切にするよ。ありがとう。」
彼はノエルの額に優しくキスを落とした。
しかしその余韻に浸る間もなく、ノエルは次の目的へとかけ出す。その背中を見送りながら、ローレンツがほんの少し肩を落とす。
「次はお父様だよ!」
ノエルはロイスの元へ向かい、硬質な箱を差し出した。
「これはね、白い水鳥の羽で作られたペンなんだ。」
箱を開けて中身を見せると、ロイスはふっと表情を和らげながら頷いた。
「ノエル、ありがとう。これで執務も捗るな。」
ロイスはノエルの頭を撫で、その言葉にノエルは照れくさそうに笑った。
「お土産、終わり!みんなでご飯食べよ!」
ノエルのはにかむような笑顔に、一同の表情も自然と緩み、夕食が始まった。
***
しばらくがして、ふとロイスが話題を切り出した。
「そういえば、来月の初めはノエルの誕生日だな。」
食事に夢中になっていたノエルは顔を上げ、ぱちくりと瞬きをした。
「うん、そうだね。」
「もうノエルも来月で8歳になる。今年はノエルのお披露目を兼ねて、盛大に客を招いて誕生パーティーを開こうと思う。」
この国では、学園入学の年齢が一つの節目とされている。ノエルにとって8歳になる今年が、その節目の年だ。
「え、本当に!僕のためのパーティーってこと?」
「そうだよ。」
ロイスの答えに、ノエルは目を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
「それと、そのパーティーに合わせてランドルフたちが泊まりに来るそうだ。」
「ってことは、テオも来るの?」
「もちろんだ。ノエルの祝いの日に家族総出で参加してくれるそうだ。」
ノエルはその言葉に飛び上がるほどの喜びを見せた。自分のためのパーティーだけでも十分に嬉しいのに、大好きなテオに会えることが決まり、幸せそうな顔を隠せない。一方で、ルーベルトとローレンツは複雑そうな表情を浮かべている。特にテオが来ると聞いた瞬間、不服そうに眉を寄せていた。
ロイスが「まぁまぁ。」と、目線で二人を宥める中、ノエルは早速テオへの手紙を書くことを決めた。ノエルの心は既に来月のパーティーに向かっており、喜びと期待で胸を膨らませていた。
そろそろ目が疲れてきたので、お茶でも飲もうかた考え、同じく昨日買ってきたクッキーの缶を棚から引っ張り出した。
「エマ、いつもの紅茶をお願いしてもいい?」
「かしこまりました。」
乳母のエマは手際よく部屋の隅にある戸棚を開け、紅茶を準備し始めた。その間、ノエルは缶を開けてクッキーに手を伸ばす。
本当は昨日の夕食でお土産をみんなに渡す予定だったのだが、ロイスとローレンツは都合がつかず、ルーベルトと二人きりの夕食だった。そのため渡す機会を翌日に持ち越すことにした。今日の夕食で改めて、昨日選定したお土産を全員に渡そうと考えている。
そんなことを考えていると、芳しい紅茶の香りが漂ってきた。
「ありがとう。」
ノエルは礼を言い、カップに口をつける。そしてまた、本を手に取った。
流石に昨日借りてきたのを今日読み切っちゃうのももったいないし、この章を読み切ったら昼寝でもしようか、などと考えつつ、日差しが心地よい大きなガラスに向けひとつ欠伸をし、読書を再開した。
本を読み終えると、予定通り自室に戻り昼寝をした。その後も特に変わりない平和な時間が流れ、気づけば日が傾き始めていた。
「そろそろ夕食のお時間です。」
エマの声が扉越しに聞こえてきた。
「今行くよ。」
ノエルは軽く目をこすりながら立ち上がり、近辺を簡単に片付ける。そして、テーブルに置いていたお土産の入った袋を手に取り、食堂へと向かった。
***
今日の食堂には全員の姿があった。いつもの席は慣れ親しんだ姿で埋まり、賑やかな雰囲気が漂っている。
「それでは食べ始めようか。」
ロイスがそう言口にしたところで、ノエルが少し緊張した面持ちで口を開いた。
「ちょっといい?」
ノエルの言葉に3人の視線が一斉に向けられる。
「えっとね、昨日ルー兄さんと町に行ったときに、お父様とロイ兄さんにお土産を買ったんだ。」
ノエルは袋の中を探りながら、まずローレンツの元へと向かった。
「これ!兄さんの目の色と同じ青の刺繍が入ってるんだ。」
そう言いながら、深い青色の刺繍が施されたポケットチーフを差し出した。
「これ、ノエルが選んでくれたのか?」
ローレンツは椅子から立ち上がり、ノエルの目線に合わせて腰を落とした。
「うん!ロイ兄さんにピッタリでしょ?」
自慢げなノエルに、ローレンツは小さく笑みをこぼした。
「ああ、本当に。大切にするよ。ありがとう。」
彼はノエルの額に優しくキスを落とした。
しかしその余韻に浸る間もなく、ノエルは次の目的へとかけ出す。その背中を見送りながら、ローレンツがほんの少し肩を落とす。
「次はお父様だよ!」
ノエルはロイスの元へ向かい、硬質な箱を差し出した。
「これはね、白い水鳥の羽で作られたペンなんだ。」
箱を開けて中身を見せると、ロイスはふっと表情を和らげながら頷いた。
「ノエル、ありがとう。これで執務も捗るな。」
ロイスはノエルの頭を撫で、その言葉にノエルは照れくさそうに笑った。
「お土産、終わり!みんなでご飯食べよ!」
ノエルのはにかむような笑顔に、一同の表情も自然と緩み、夕食が始まった。
***
しばらくがして、ふとロイスが話題を切り出した。
「そういえば、来月の初めはノエルの誕生日だな。」
食事に夢中になっていたノエルは顔を上げ、ぱちくりと瞬きをした。
「うん、そうだね。」
「もうノエルも来月で8歳になる。今年はノエルのお披露目を兼ねて、盛大に客を招いて誕生パーティーを開こうと思う。」
この国では、学園入学の年齢が一つの節目とされている。ノエルにとって8歳になる今年が、その節目の年だ。
「え、本当に!僕のためのパーティーってこと?」
「そうだよ。」
ロイスの答えに、ノエルは目を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
「それと、そのパーティーに合わせてランドルフたちが泊まりに来るそうだ。」
「ってことは、テオも来るの?」
「もちろんだ。ノエルの祝いの日に家族総出で参加してくれるそうだ。」
ノエルはその言葉に飛び上がるほどの喜びを見せた。自分のためのパーティーだけでも十分に嬉しいのに、大好きなテオに会えることが決まり、幸せそうな顔を隠せない。一方で、ルーベルトとローレンツは複雑そうな表情を浮かべている。特にテオが来ると聞いた瞬間、不服そうに眉を寄せていた。
ロイスが「まぁまぁ。」と、目線で二人を宥める中、ノエルは早速テオへの手紙を書くことを決めた。ノエルの心は既に来月のパーティーに向かっており、喜びと期待で胸を膨らませていた。
49
お気に入りに追加
2,611
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうじは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる