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第2章 少年期

15.町での

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馬車が石畳の道を進むと、町で一番大きな図書館が姿を現した。壮大なその佇まいは、遠目からも目を引く。彫刻を施された大理石の柱が堂々と入り口を支え、豪奢な装飾が施された看板が、ここが知識の殿堂であることを示している。馬車が静かに止まると、通りの喧騒が少し遠のいた。

建物の前では上品な身なりの人々がゆったりと出入りしている。ここで扱われる本は庶民の月給一ヶ月分に相当する高価な品々だ。そのため、この場所を利用できるのは限られた人々だけという、気品ある空気が漂っていた。

「ノエル、着いたよ。」

ルーベルトが先に馬車から降り、優しく手を差し出した。

「うん!」

ノエルはその手を握り、軽やかに馬車を降りる。二人で手を繋ぎながら建物に向かうその足取りは、期待で満ちていた。扉の前に立つと、重厚な木製の扉が静かに開き、柔らかな光が二人を迎え入れた。中に足を踏み入れた瞬間、ノエルは目を見開き、息を呑んだ。

「わぁ……すごい……!」

高くそびえる天井には見事な細工が施され、壁際には巨大な本棚が果てしなく連なっている。それらは天井近くまでぎっしりと書物で埋め尽くされ、威厳と知識の重みを感じさせる。木材の芳しい香りが漂い、時間がここだけゆっくりと流れているようだった。

「ここは何度来ても感動するよ。それに、珍しい本もたくさんある。」

ルーベルトが優しく微笑み、ノエルの手を軽く引く。ノエルは頷きながら周囲を見渡した。窓はほとんどないのに、店内は柔らかな光で満たされていた。壁に取り付けられたランプの明かりが木の家具に反射し、不思議な暖かみを醸し出している。

「さあ、今日は好きな本をじっくり探していいよ。」
ノエルは弾む声で返事をし、二人は本の海へと歩みを進めた。ルーベルトは歴史書のコーナーを慎重に見定め、ノエルは冒険物語や学習本を嬉々として手に取る。それぞれ数冊ずつ選び、満足げな様子で図書館を後にした。

「ルー兄さんはどんな本を見てたの?」

「国の歴史に関する本だよ。でも、ノエルはどんな本を選んだの?」

「えっとね、言葉の本!難しい文字もこれで勉強するの。それと……ほら、勇者様の物語も!」

ノエルは厚みのある本を誇らしげに掲げた。表紙には剣を掲げる勇者が描かれている。

「勇者様か。ノエル、本当に勇者様の話が好きだね。」

ルーベルトの微笑みに、ノエルの目がさらに輝く。

「だって勇者様は魔法が使えないのに、剣だけで世界を救ったんだよ!すっごくかっこいいじゃん!……僕も、そんな風に誰かを守れる人になりたいな……兄さんたちが僕にしてくれてるみたいに。」

ノエルは小さな拳を握りしめ、照れたようにはにかんだ。その姿に、ルーベルトは思わず愛おしげに彼の髪を撫でた。

選んだ本を店員に預けて馬車に積み込むと、外には柔らかな陽光が通りを照らしていた。ルーベルトがノエルの肩に手を置いて尋ねる。

「さあ、本も買ったし、次はどうする?そろそろお腹が空いてきたんじゃない?」

「確かに、お腹空いてきたかも……」

「じゃあ、あっちの通りに行ってみようか。」

ルーベルトが示した先には、小道を挟んで出店が立ち並んでいる。香ばしい匂いが風に乗って漂い、ノエルのお腹が控えめに鳴った。

「食べ歩き……!」

ノエルは嬉しそうにルーベルトの手を引き、そのままスキップで前へ進む。ルーベルトとの外出は、ノエルにとって特別な時間だ。普段の日常では体験できないことや、口にすることの無い食べ物。いつも新しいことを教えてくれるルーベルトとの散策は、何よりの楽しみだった。

しばらく歩くと、賑やかな通りにたどり着いた。香ばしい焼き物の匂いや甘いお菓子の香りが鼻をくすぐる。ノエルは思わず肉串の屋台を指さした。

「ねぇ、ルー兄さん!僕、あの串焼きが食べたい!」

小さな手が指した先に、年配の女性店主が笑顔で迎える。

「まあまあ、なんて可愛らしい坊ちゃんだこと。それに、そちらのお兄さんも素敵ね。」

女性は串を2本渡し、にこりと微笑んだ。

「ほら、サービスしておくよ。たくさん食べて元気に育ちな。」

「ありがとうございます。」

二人は礼を言い、ノエルは早速肉串にかぶりつく。

「ルー兄さん!これ、すっごく美味しいよ!」

焦げ目が香ばしく、ジューシーな肉汁が口いっぱいに広がる。ルーベルトも一口食べ、微笑んだ。

「美味しいね。焼き加減も完璧だ。」

ノエルは夢中で食べ進めるが、口元にタレをつけてしまう。ルーベルトは胸ポケットからハンカチを取り出し、丁寧に拭ってやった。

「そんなに急がなくても、肉は逃げないよ。」

「だって凄く美味しいんだもん!」

ノエルが串を差し出しながらおねだりすると、ルーベルトは苦笑しつつ受け取り、次の一口を手渡した。

「ほら、ゆっくり味わうんだよ。詰まらせないようにね。」

「はぁーい!」

ノエルは素直に頷き、再び嬉しそうに串を頬張った。その無邪気な姿に、ルーベルトは自然と微笑んだ。
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