気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ

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第2章 少年期

12.見学

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「このサンドイッチ、すっごく美味しいよ!」

ノエルは嬉しそうに言いながら、練習場の隅にあるベンチでサンドイッチを頬張っていた。隣にはローレンツ、そしてもう一人――ハンスもいる。

「……で、なんでお前が隣に座ってるんだよ。」

ローレンツが鋭くハンスに問いかける。

「さっきノエルと仲良くなったんだよ、ね?」

「うん! ハンスさんすっごく面白いんだよ!」

ノエルとハンスが目を合わせ、にこっと笑い合う。その様子を見てローレンツは深いため息をついた。

「……マジで連れてこなければよかったかも。」

額に手を当て、悔やむような表情を見せるローレンツ。

「俺もノエルみたいな弟が欲しいよ、本当に。」

ハンスがしみじみと呟くと、ローレンツは目を顰めた。

「絶対にお前の弟になることは無いから安心しろ。」

そう言うなり、ローレンツはハンスの頭を軽く小突いた。

「僕にはルー兄さんとロイ兄さんがいるから、ハンスさんの弟にはなれないんだ。ねー、ロイ兄さん?」

ノエルはローレンツを見つめ、満面の笑みを浮かべると、ローレンツに抱きつく。

「……っか、わいい……」

ローレンツは顔を手で覆いながら天を仰いだ。その仕草を見たハンスは、普段ではありえないローレンツの行動に思わず肩を震わせ笑いをこらえた。

昼食を終えた騎士たちはそれぞれ休息を取ったり、剣を振り始めたりしている。そんな中、ノエルが目を輝かせながらローレンツに話しかけた。

「ねぇねぇ兄さん、僕も剣をやってみたい!」

「……ノエル、本当にやるのか?」

「うん、やる!」

ノエルの一度言い出したら引かない性格は十分に知っているローレンツはため息をつきながらも観念し、壁に立てかけてあった木製の剣を手渡した。

「右手と左手をここに……そうそう。よし、思いっきりハンスを叩け!」

「わかった!」

ローレンツは何やら楽しげに口角を釣り上げ、ノエルを使ってハンスを攻撃させる気満々だった。

「えいっ! やぁ!」

「いてっ! ててっ……ノエル、やるなぁ。」

「へへっ……僕もやればできるんだ!」

ノエルは誇らしげに胸を張った。彼は普段から、読書やピアノといった室内での活動が中心のため、同年代の令息と比べても、圧倒的に体力がない。
それでも一生懸命に振った剣がハンスに当たるたびに、満足そうな顔をしている。もちろん、日頃から鍛錬を重ねているハンスにとっては痛くもかゆくもない。ただ、ノエルに合わせて痛がるふりをしている。

しばらく経ち、ノエルの体力が尽きかけた頃、ローレンツが手をパンと叩き、「休憩終わり! そろそろ練習再開だ。」と声を上げた。

「そろそろ俺は戻る。ノエル、ちゃんとここで大人しくしてろよ?」

「はーい!」

ノエルは元気よく答えると同時に、右手を勢いよく挙げた。その様子を見たローレンツが、ノエルの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「ハンス、筋トレ忘れんなよ。」

「げっ……絶対もう忘れてると思ってた。」

ハンスが文句を垂れると即座に、ローレンツはさっきよりも強めにハンスの頭を小突いた。
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