31 / 72
第2章 少年期
11.見学
しおりを挟む『黄色い裸族が、ぷらんぷらんさせながら徘徊しているらしい』
そんな都市伝説が巷を騒がしている。
夜更けに街中で見かけた警邏の隊員が「そこのキミ、ちょっと待ちなさい」と声をかけて、うしろから肩を掴んだら、とたんにパシャンと崩れて消えてしまったとか。あとの地面がべっちょりと濡れてオシッコを漏らしたみたいに黄色くなっていたとか。
この話をわたしに聞かせてくれたのは、移住村の女の子。以前より熱心な要望があったので、公園にブランコを増設に行ったときに教えてくれた。
いま子どもたちの間で、一番ホットな話題なんだとか。
子どもってばビビりのくせして、この手の怖い話ってわりと好きだからねえ。
わたしにも覚えがあるよ。小さい頃にテレビでホラー映画とか心霊特番を見ては、夜中にお母さんの布団に潜り込んで、しょっちゅう夫婦の営みを邪魔したものである。もしもあんなことがなかったら、今頃かわいい弟や妹の一人や二人いたのかもしれない。
まぁ、それはともかくとして、この「黄色い裸族」の話を聞いたとき、わたしの脳裏にサッとよぎったのは、かつて魔族領の隅っこにあるダンジョンにて遭遇したヤツのこと。
スーラと呼ばれる、歩くこんにゃくゼリーの塊みたいなモンスター。
ゴミだろうが死肉だろうが生餌だろうが、なんでも消化して食べる。食べた物によって色が変わるというから、おもしろがって光の剣の残骸を与えてみたら、超絶進化して黄色いオッサンになった。
しかしあまりにもウザい言動と、見苦しい股間のぶらぶら具合にイヤ気がさして、穴を掘って地中深くに埋めて、コレを封印。
もしや、そいつが復活したのかっ!
まさか、いや、そんなハズはあるまい。そう思い込み忘れようとした。しかし一抹の不安をどうしても拭いきれない。気になるあまり夢にまで見て、ぷらんぷらんされる始末。
そこでわたしは、この心のモヤモヤを晴らすべく宇宙戦艦「たまさぶろう」にて、確認に赴くことにした。
魔族領の端っこの方にある深い深い森の奥が目的地。
いちおうは魔族領ということもあり、鬼メイドのアルバに先導をさせる。
だが、ひさしぶりに訪れた現地は、すっかり様変わりしていた。
「すごい賑わいですねえ」とアルバ。
「あの寂れっぷりは、いったいどこへ」あまりの盛況ぶりに唖然とするわたし。
「宿屋に武器屋に道具屋に酒場にと、すっかり開拓されていますね」とはルーシー。
訪れる者とてほとんどおらず、世間から忘れさられて、自然に埋没しかかっていたダンジョン。
だが、いまでは周囲の森が開拓され、ダンジョンを中心にして建物が乱立し、ちょっとした町のよう。
そこに集いひしめき合うは、腕に覚えアリと云わんばかりの魔族の猛者たち。
アルバがその辺にいる連中に声をかけて事情をたずねたところでは、すべては聖魔戦線の停戦締結から始まったらしい。
いきなり戦争が終わって、お役御免となり、ヒマになった連中が巷に溢れた。
かつては戦場で勇ましく武器を手に奮闘していたお父ちゃんも、家に帰ればただの置物。
はじめの数日こそは、お母ちゃんも労をねぎらい大切にしてくれていた。それこそ上げ膳据え膳にて。新婚の頃のようにかいがいしく世話を焼いてくれた。
が、十日も過ぎれば「いい加減にしろ! このごく潰し。いつまでも調子こいて、ゴロゴロしてんじゃないよ。掃除の邪魔だ。アンタ、そんなに暇ならダンジョンにでも行って稼いできな」となった。
どこのご家庭も似たり寄ったりにて、家に居場所のないお父ちゃんたちはゾロゾロとダンジョンへと向かうことに。
かくして大盛況となったらしい。おかげで長らく放置されてあった各地のダンジョンが見直され、開発ラッシュの真っ最中。魔族領全域にてダンジョンバブル到来。
前向きなんだか後ろ向きなんだか、よくわからない理由だ。
しかし、そのせいで自ら口を閉ざしていたダンジョンが、ふたたびその口を開いてしまったようだな。
ダンジョンはノットガルド八不思議の一つに数えられる存在にて、その正体は超巨大生物。
体内に招き入れた者らから、生命エネルギーやら魔力をかすめ取って生きている。そんなダンジョンにとって、大挙して押し寄せてくる来客はごちそう。
目の前にそんなものをぶら下げられて、これをガマンしろというのが酷というもの。
念のために、黄色いオッサンを埋めた地点も調べたかったのだが、それは叶わない。
なぜなら、わたしたちは一歩たりともダンジョン内に立ち入ることが許されなかったからだ。
いい加減、アレからずいぶんと時間も経っているし、イケるかと思ったのだが考えが甘かった。
正面入り口に立ったとたんに、バタンとダンジョンの入り口が閉じた。
明確なる拒絶の意志。
どうやらわたしに対する出禁は、まだ解除されていなかったらしい。
いきなりダンジョンの入り口が閉じちゃったものだから、周辺および内部に取り残された連中がパニック。
一時、現場が騒然となる。騒ぎを聞きつけてどんどんと集まって来るゴリゴリの魔族たち。
このままではマズいと判断し、わたしたちがその場を離れてしばらくすると、ダンジョンの口がふたたびゆっくりと開いたので、どうには騒動は自然に収まってくれた。
この一件にて内部調査は諦め、外部での聞き取り調査にシフト。
そしてここでも「黄色いオッサン」の目撃談らしき情報を得る。
あくまでまた聞きのまた聞きなので、正確なところではないが、周辺開拓初期の頃、夜中に「自由への飛翔! 臥薪嘗胆、復讐するは我にアリ!」と叫びながら、ダンジョンからものスゴイ勢いで飛び出してきた、黄色い裸族を見かけたとかなんとか。
って、もう確定だよね。これは……。
その後もリンネ組を動員してウワサや目撃情報を追う。
宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦橋内にて地図を広げて、情報があったところにバツ印を入れていく。
するとそれは魔族領を飛び出し、あちこちを移動しながらも、ある方へとじょじょに向かっていることがわかった。
「これは……、まさかヤツはすでにリスターナに侵入しているのか!」
判明した事実にわたしは戦慄を禁じ得ない。
「いえ、リンネさま。あくまでウワサが先行しているようです。ですがこの分では時間の問題かと」
「ルーシー先輩、ヤツの目的はやはり生き埋めにした我々への復讐でしょうか?」
「目撃証言からはそう推察されますが。アレの言動はちんぷんかんぷんにて、まともに付き合うだけバカをみます。その辺のことはこの際、丸っとムシして、まずは身柄を抑えることに専念すべきでしょう」
ルーシーの提言を受けてわたしは「わかった。いそいで戻って、対策を練ろう」と言った。
だがしかし、そのときすでにリスターナでは……。
119
お気に入りに追加
2,656
あなたにおすすめの小説

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうじは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる