気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ

文字の大きさ
上 下
27 / 72
第2章 少年期

7.喧嘩?

しおりを挟む
クーレル家一同は、長い一日を終えて自宅に帰ってきた。疲れ切った様子で、ルーベルトは深いため息をつく。

「はぁ、ほんとに表情筋が死にそう……ノエルが足りない……」

そう言ってルーベルトは、ノエルを抱き上げ頬を擦り寄せた。ノエルは微笑みながら、されるがままに抱擁を受け入れた。あまりに長時間抱きしめられ流石に苦しくなってきたので、ノエルは「ぷはっ!」っとルーベルトの腕の中から顔を上げ、その胸をぽかぽかと叩いた。

「ごめんね?ついノエルを抱きしめられたのが嬉しくて。それよりノエルは今日どうだった?楽しめた?」

「もちろん!ケーキもいっぱい食べたし、名前はわからないけど、とても綺麗な声の男の子にも会えたの!」

ルーベルトは微笑みながら軽く頭を撫で、「その男の子って、どんな子?」と問いかけた。

ノエルは目を輝かせながら、興奮気味に話し始めた。

「うん!庭園で四葉のクローバーを見つけたんだけど、その時に会ったの。なんだかちょっと寂しそうな顔をしてたんだよ。僕がクローバーを渡したら、すごく驚いた顔してて、それからちょっとだけ話したんだ。」

ルーベルトは少し考え込み、軽く眉をひそめた。

「ふーん…その子、名前は?」

「うーん、名前は聞けなかったけど、今度会ったら絶対に聞いてみる、それでお友達になるんだ!」

ルーベルトは微笑みながらノエルを見つめ、その後、ゆっくりと口を開いた。

「……そっか。まぁ、次に会う時にちゃんと話せるといいね。」

ノエルが満足げに話す姿を見て、ルーベルトはしばらく考え込んだ後、提案を口にした。

「ねぇ、ノエル。今日は湯浴みの後ゆっくり話さない?後でまた僕の部屋においでよ。」

「うん!僕もいっぱい話したいことがあるから賛成だよ!」

ノエルは元気よく答え、二人はそれぞれ浴場に向かうことにした。


***


湯浴みの後、二人は約束通りルーベルトの部屋に集まり、ホットミルクを口にしながら、2人は今日の出来事について話を続けていた。

「ノエルが今日凄く楽しめたみたいで良かったよ。……それと庭で会ったって言ってた子の事だけど、」

「ん?どーしたの?」

ノエルは両手でマグカップを抱え、こてんと首を傾げ、ルーベルトを見上げる。

「うーん、…パーティーで会った男の子のこと、気になってるんじゃないかなって。」

「うん!あの子のこと凄く気になってる!どんな子なのかな…また今度会う時はお友達になれたらいいな~!」

「そうだね、……ただ、少し気になっただけなんだけれど。つい、心配になって……」

「どういうこと?」

「新しく友達が出来なくても、僕や……ローレンツが居るだろう?もしその子がノエルを傷つけたりしたら僕は……」

ノエルは少し顔をしかめ、手に持っていたホットミルクを机に置いた。

「……どうしてそんなふうに決めつけるの?ルー兄さんはあの子のとこ、何も知らないでしょ。」

「ノエル…?」ルーベルトは驚きながら問いかける。

「もちろん、お父様や兄さん達が僕の事を大切に思ってくれてるの、知ってるよ。でも僕だってお友達が欲しいよ。今日のパーティーでルー兄さんだって沢山のお友達とお話してたでしょ?なんで僕だけダメなの?」

それでも、彼の中には兄たちへの愛情と理解も混ざっている。これまで友達を持つことを制限されていたのも、母であるエルメンガルドの事件が原因だということも、ノエル自身分かっていた。だが、それでも。

「僕だってもうすぐ学園に入る年だよ。ずっと守られるだけじゃ嫌だよ。」

ノエルの表情には、幼さの中に強い意思が宿っていた。

ルーベルトはその言葉に言葉を失った。ノエルが他の誰かと新しい関係を築くことが、どうしても怖かった。エルメンガルドに傷つけられた過去がまた繰り返されるのではないかという恐れ。そしてもう一つ、ノエルが自分や家族以外に心を向けることが、どうしても寂しく思えてしまう自分自身の執着に薄々気づいていた。

「……っごめん、ノエル。そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、……ノエルを守りたいだけなんだよ。」

ノエルはルーベルトの瞳を真っ直ぐに見據え、少し冷たく言った。

「…別に、兄さん達に守られる必要ないよ。もう、僕だってあの頃とは違うんだから。」

その言葉に、ルーベルトは胸を突かれたような気持ちになった。これまでノエルと喧嘩をしたことも言い合いになったことなんて一度もなかった。ルーベルトはようやく、自分がノエルの気持ちを無視して、ただ過保護に接してしまっていたことを悟った。

「ノエル…」

「僕に友達が出来ても、何も変わらないよ。僕は、みんなと仲良くしたい、だけだよ…」

ノエルは言いながら、少し涙ぐんでいた。

ルーベルトはその涙を見て、すぐに自分が間違った選択をしてしまったことを痛感した。

「ごめん、ノエル。もっと、君の気持ちを理解すべきだった。」

「うん、でも…少しだけ、考えてみてほしいの。僕だって……」

ノエルの口調はまだ少し怒りを含んでいたが、先ほどより穏やかだった。しばらく黙っていたが、やがてふっと微笑む。

「ごめん。今後はノエルの意思を尊重する。でも、やっぱりノエルのことが大切だから、心配になるんだ。それにもう守らなくても良いなんて寂しいことは言わないで。」

ノエルはしばらく黙っていたが、やがてふっと笑顔を見せた。

「でも、そうだね。もう、心配しないでって言っても、それが兄さん達が僕を大好きだと思ってくれてるからなのは分かってる。……ありがとう。」

泣いたせいか、沢山歩き回ったせいか、少しずつまぶたが重くなってきた。「ふぁ…」っとノエルは小さなあくびをして、うとうととし始める。

ルーベルトはいつもと変わらぬ手つきで、ノエルの髪を優しく撫でた。

「眠い?」 

「うん、ちょっとだけ…」

ノエルは目をこすりながらも、安心しきった表情を見せた。

「今日はここで寝ていっていいよ。おやすみ、ノエル。」

「おやすみなさい、ルー兄さん。」

ノエルはそのままルーベルトのベッドに横たわり、額に触れる温もりを感じながら、すぐに眠りに落ちていった。ルーベルトは眠るノエルの穏やかな表情を見つめながら、静かに灯りを落とした。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話

あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうじは、親に愛されたことがない子だった 親は妹のゆうかばかり愛してた。 理由はゆうかの病気にあった。 出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。 もう愛なんて知らない、愛されたくない そう願って、目を覚ますと_ 異世界で悪役令息に転生していた 1章完結 2章完結(サブタイかえました) 3章連載

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

処理中です...