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第2章 少年期
4.贈り物
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ノエルはローレンツの自室に入るなり、目をキラキラさせて彼を見つめた。
「はいはい、分かった分かった。」
ノエルの雄弁に語る目に負けたローレンツはその場に屈むと、手に持っている丁寧に包装された箱を後ろに隠し、自身の顔を指さした。
おそらくこれが欲しければ頬にキスしろ、ということだろう。別にそんなことしないでもキスくらい…と思ったが、僕はロイ兄さんの頬を両手で包み、ちゅっとおでこにキスを落とした。すると今度はお返しとばかりにローレンツから顔中にキスが降ってくる。
「……っんーん!ながい!」
「悪い悪い、ついな。」
僕がロイ兄さんの胸をぽかぽかと叩き抗議すると、軽く笑いながら僕を抱き寄せていた腕を緩めてくれた。そして、後ろ手に持っていた箱を目の前に差し出した。
「ねぇ、ロイ兄さん。これ開けてもいい?」
「どうぞ。開け方は分かるか?」
ローレンツは、ノエルが「うん!」と頷くのを見て、しゃがみ込んだまま優しい顔つきでその姿を見守っている。
僕は早速包装紙を開けようとしたけれど、これがなかなか手強い……何重にも包まれていて、全く開く気配がない。
「うーん……、開かない……」
「ほら、俺が開けてやるよ。」
ローレンツが手を伸ばしてくるけれど、僕は慌てて首を振り、顔の前で大きなバツをつくる。
「自分で開けるの!」
「ははっ、頑固だな。」
ローレンツは肩をすくめて笑いながら、ノエルが自分で開けるのを待つことにした。
「はぁ、やっと中身が見られる……」
数分後、ようやく僕は包装紙との戦いに勝利した。
「……わぁ!くまさん!」
なんと、そこには可愛らしいクマのぬいぐるみが入っていた。このプレゼントには少し前の出来事が関係している。
数週間前、僕とローレンツは町を散歩していた。そのとき、雑貨屋の前を通りかかった僕は、ショーケースに飾られたクマのぬいぐるみに目を奪われた。
「わぁ……!かわいいなぁ……」
そして思わずそんな声を漏らしてしまった。
「ノエル、あのぬいぐるみが欲しいのか?」
「……ち、違うよ!ただ見てただけ!早く行こ!」
僕はそれが女の子向けのコーナーにあることに気づき、を逸らしてその場を立ち去った。そんな些細な出来事を、ローレンツは見逃さなかった。
そして後日、ローレンツは1人で同じ店を訪れ、件のぬいぐるみを購入していた。
女児向けのコーナーに立つのは、背が高く端正な顔立ちの無表情の青年騎士。その堂々とした立ち姿は凛々しくも目立っていた。そんな騎士然とした男が1人熱心にぬいぐるみを選んでいる姿は、場違いで少し滑稽にも映ったが、どこか微笑ましくもあった。
「ねぇ、ロイ兄さん!なんで僕がこれ欲しいって分かったの?すごいよ!僕ね、すっごーく嬉しい!ありがとう!」
僕はそのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめ、くるりと一回転してみせた。
「まぁ、ノエルが欲しそうにしてたからな。それにアイツ……ルーベルトだけノエルを甘やかすのはずるいだろ?」
ローレンツはそう言いながら微笑み、ノエルの頭を撫でる。その言葉に僕も思わず笑顔になる。
「じゃあ、次は俺がこのクマみたいにぎゅっとしてもらおうかな?」
「うん!するー!」
僕はローレンツにぎゅーっと抱きついて、ついでにほっぺにちゅっとキスをした。
「えへへ!ロイ兄さんもルー兄さんもこんなに喜んでくれるなら、僕、何回でも新しい服着るよ~!」
ローレンツは顔を手で覆いながら「はぁ…」と呟いていたので、その頭ごとぎゅっと抱き込んでみた。
「兄さん、兄さん!このぬいぐるみ、お部屋に持って行ってもいい?」
僕がそう言うと、ローレンツは溜息をつきながら立ち上がった。
「もちろん。俺が連れて行ってやるよ。」
そしてローレンツはノエルをひょいっと抱き上げると、ノエルの部屋へ向かって歩き出した。ローレンツの腕の中でぬいぐるみを抱えながら、ノエルは満足そうに微笑んでいた。
「はいはい、分かった分かった。」
ノエルの雄弁に語る目に負けたローレンツはその場に屈むと、手に持っている丁寧に包装された箱を後ろに隠し、自身の顔を指さした。
おそらくこれが欲しければ頬にキスしろ、ということだろう。別にそんなことしないでもキスくらい…と思ったが、僕はロイ兄さんの頬を両手で包み、ちゅっとおでこにキスを落とした。すると今度はお返しとばかりにローレンツから顔中にキスが降ってくる。
「……っんーん!ながい!」
「悪い悪い、ついな。」
僕がロイ兄さんの胸をぽかぽかと叩き抗議すると、軽く笑いながら僕を抱き寄せていた腕を緩めてくれた。そして、後ろ手に持っていた箱を目の前に差し出した。
「ねぇ、ロイ兄さん。これ開けてもいい?」
「どうぞ。開け方は分かるか?」
ローレンツは、ノエルが「うん!」と頷くのを見て、しゃがみ込んだまま優しい顔つきでその姿を見守っている。
僕は早速包装紙を開けようとしたけれど、これがなかなか手強い……何重にも包まれていて、全く開く気配がない。
「うーん……、開かない……」
「ほら、俺が開けてやるよ。」
ローレンツが手を伸ばしてくるけれど、僕は慌てて首を振り、顔の前で大きなバツをつくる。
「自分で開けるの!」
「ははっ、頑固だな。」
ローレンツは肩をすくめて笑いながら、ノエルが自分で開けるのを待つことにした。
「はぁ、やっと中身が見られる……」
数分後、ようやく僕は包装紙との戦いに勝利した。
「……わぁ!くまさん!」
なんと、そこには可愛らしいクマのぬいぐるみが入っていた。このプレゼントには少し前の出来事が関係している。
数週間前、僕とローレンツは町を散歩していた。そのとき、雑貨屋の前を通りかかった僕は、ショーケースに飾られたクマのぬいぐるみに目を奪われた。
「わぁ……!かわいいなぁ……」
そして思わずそんな声を漏らしてしまった。
「ノエル、あのぬいぐるみが欲しいのか?」
「……ち、違うよ!ただ見てただけ!早く行こ!」
僕はそれが女の子向けのコーナーにあることに気づき、を逸らしてその場を立ち去った。そんな些細な出来事を、ローレンツは見逃さなかった。
そして後日、ローレンツは1人で同じ店を訪れ、件のぬいぐるみを購入していた。
女児向けのコーナーに立つのは、背が高く端正な顔立ちの無表情の青年騎士。その堂々とした立ち姿は凛々しくも目立っていた。そんな騎士然とした男が1人熱心にぬいぐるみを選んでいる姿は、場違いで少し滑稽にも映ったが、どこか微笑ましくもあった。
「ねぇ、ロイ兄さん!なんで僕がこれ欲しいって分かったの?すごいよ!僕ね、すっごーく嬉しい!ありがとう!」
僕はそのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめ、くるりと一回転してみせた。
「まぁ、ノエルが欲しそうにしてたからな。それにアイツ……ルーベルトだけノエルを甘やかすのはずるいだろ?」
ローレンツはそう言いながら微笑み、ノエルの頭を撫でる。その言葉に僕も思わず笑顔になる。
「じゃあ、次は俺がこのクマみたいにぎゅっとしてもらおうかな?」
「うん!するー!」
僕はローレンツにぎゅーっと抱きついて、ついでにほっぺにちゅっとキスをした。
「えへへ!ロイ兄さんもルー兄さんもこんなに喜んでくれるなら、僕、何回でも新しい服着るよ~!」
ローレンツは顔を手で覆いながら「はぁ…」と呟いていたので、その頭ごとぎゅっと抱き込んでみた。
「兄さん、兄さん!このぬいぐるみ、お部屋に持って行ってもいい?」
僕がそう言うと、ローレンツは溜息をつきながら立ち上がった。
「もちろん。俺が連れて行ってやるよ。」
そしてローレンツはノエルをひょいっと抱き上げると、ノエルの部屋へ向かって歩き出した。ローレンツの腕の中でぬいぐるみを抱えながら、ノエルは満足そうに微笑んでいた。
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