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第2章 少年期
2.期待
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そして僕は準備を済ませ、案の定ロイ兄さんに抱き上げられたまま、ダイニングへと向かった。
「ねぇ、ロイ兄さん。もう僕、結構大きいよ?重たくないの?」
ロイ兄さんは少し笑いながら答えた。
「全く。俺はいつもノエルより重い物を持ち上げてるからな。ノエルなんて軽すぎて持ってないのに等しいよ。」
確かに、ロイ兄さんは日頃から剣を扱う訓練をしている。腕の筋肉もたくましくて、全体的に僕とは厚みが違いすぎる。そんなロイ兄さんの腕の中の安心感といったら半端じゃない。
(でも、さすがに“無いに等しい”っていうのは盛りすぎだと思うけど……まぁいいか。)
僕は「ねぇねぇ」と、ロイ兄さんの胸をぽんぽんと叩いてから、耳元でそっと呟いた。
「僕ね、小さい頃は剣術を習いたかったんだ。ロイ兄さんがすっごくかっこよくて、真似したかったの。」
「……かっこいい、と思っていてくれたのか?」
ロイ兄さんは目を見開いて僕を見下ろした。
「もちろん!僕の中ではロイ兄さんとルー兄さんが一番かっこいいよ!……あれ?でも二人だと一番じゃないか、えへへ……」
そう言って僕は「みんなには秘密ね。」と口元に人差し指を当て、首を傾げて微笑んだ。
その瞬間、ロイ兄さんは「う”っ」と小さな声を漏らしたかと思うと、僕の額に自分の額をぴたりとくっつけて呟いた。
「ノエル……、お前がそう言ってくれるなら、俺は何だってできる気がするよ。」
実際、小さい頃に僕が剣術を始めようとしたのは、間違いなくロイ兄さんへの憧れからだった。
でも、あっさりと挫折してしまった。
理由は、ひょろひょろで筋肉がつきにくい体質な上、体力もほとんどなかったから。木刀を数回振っただけで息が上がり、ゼイゼイと肩で息をしてしまう有様だった。あの頃は、自分のあまりの貧弱さに嫌気がさして、結局諦めてしまった。
「……でも、ノエルが剣を習ってたら、俺なんかすぐ追い越されてたかもしれないな。」
ロイ兄さんがそう言って、僕をさらにぎゅっと抱きしめた。そして優しく僕の額に唇を落とした。
***
僕たちが目的の場所に到着すると、すでにロイスとルーベルトが席について談笑していた。
僕達が席につくと同時に、キッチンからいくつかの料理が運ばれてきた。朝食を食べ始めてしばらくした頃、ルーベルトが僕に問いかけてきた。
「ノエル、そういえば来週僕の卒業パーティーがあるんだけど、一緒に来ないかな?」
突然の誘いに僕は目を輝かせ、思わず右手を勢いよく上げて大きく返事をした。
「行きたいっ!」
その後、冷静になって席につきながら、うわぁ、ちょっと恥ずかしいことしちゃったな……と少しだけ後悔した。だけど、パーティーやお茶会に行くなんて滅多にないことだし!喜んだっていいよね!
僕はそう結論づけて、出された紅茶に口を付けた。
実は、今まで僕にパーティーやお茶会の誘いがなかったわけじゃない。むしろたくさんあったらしい。けれど、ロイスが絶対に参加せざるを得ないようなものを除き、片っ端からその誘いを断っていた。
そんな話を知らないノエルは、初めての大々的なパーティーに胸を踊らせるばかりだった。
「ちょっと待って兄さん、ノエルが行くなら俺もノエルの付き添いで……」
ローレンツがそう言い出すと、ルーベルトが少し笑いながら答えた。
「ローレンツは主催側で忙しいからクーレル家の代表としての参加で忙しいんじゃない?」
どうやら、ルーベルトはこの状況を見越してノエルを誘っていたらしい。実に策士だ。
「大丈夫、すぐに切り上げてノエルのところに行くから。」
ロイ兄さんはそう言って少しむくれていたけれど、僕はそれどころじゃなかった。パーティーという言葉が頭の中で何度も繰り返されて、すっかりそのことで頭がいっぱいだったから。
大きなパーティーなんて初めて!美味しいお菓子があるかな?新しいお友達と出会えるかな?考えただけで楽しみだなぁ……
僕は頭上で交わされる兄たちの言い合いに耳を傾けつつも、内容の半分も理解していなかったが、今後訪れるであろうことに思いを馳せ、楽しい想像を膨らませながら、朝食を終えたのだった。
「ねぇ、ロイ兄さん。もう僕、結構大きいよ?重たくないの?」
ロイ兄さんは少し笑いながら答えた。
「全く。俺はいつもノエルより重い物を持ち上げてるからな。ノエルなんて軽すぎて持ってないのに等しいよ。」
確かに、ロイ兄さんは日頃から剣を扱う訓練をしている。腕の筋肉もたくましくて、全体的に僕とは厚みが違いすぎる。そんなロイ兄さんの腕の中の安心感といったら半端じゃない。
(でも、さすがに“無いに等しい”っていうのは盛りすぎだと思うけど……まぁいいか。)
僕は「ねぇねぇ」と、ロイ兄さんの胸をぽんぽんと叩いてから、耳元でそっと呟いた。
「僕ね、小さい頃は剣術を習いたかったんだ。ロイ兄さんがすっごくかっこよくて、真似したかったの。」
「……かっこいい、と思っていてくれたのか?」
ロイ兄さんは目を見開いて僕を見下ろした。
「もちろん!僕の中ではロイ兄さんとルー兄さんが一番かっこいいよ!……あれ?でも二人だと一番じゃないか、えへへ……」
そう言って僕は「みんなには秘密ね。」と口元に人差し指を当て、首を傾げて微笑んだ。
その瞬間、ロイ兄さんは「う”っ」と小さな声を漏らしたかと思うと、僕の額に自分の額をぴたりとくっつけて呟いた。
「ノエル……、お前がそう言ってくれるなら、俺は何だってできる気がするよ。」
実際、小さい頃に僕が剣術を始めようとしたのは、間違いなくロイ兄さんへの憧れからだった。
でも、あっさりと挫折してしまった。
理由は、ひょろひょろで筋肉がつきにくい体質な上、体力もほとんどなかったから。木刀を数回振っただけで息が上がり、ゼイゼイと肩で息をしてしまう有様だった。あの頃は、自分のあまりの貧弱さに嫌気がさして、結局諦めてしまった。
「……でも、ノエルが剣を習ってたら、俺なんかすぐ追い越されてたかもしれないな。」
ロイ兄さんがそう言って、僕をさらにぎゅっと抱きしめた。そして優しく僕の額に唇を落とした。
***
僕たちが目的の場所に到着すると、すでにロイスとルーベルトが席について談笑していた。
僕達が席につくと同時に、キッチンからいくつかの料理が運ばれてきた。朝食を食べ始めてしばらくした頃、ルーベルトが僕に問いかけてきた。
「ノエル、そういえば来週僕の卒業パーティーがあるんだけど、一緒に来ないかな?」
突然の誘いに僕は目を輝かせ、思わず右手を勢いよく上げて大きく返事をした。
「行きたいっ!」
その後、冷静になって席につきながら、うわぁ、ちょっと恥ずかしいことしちゃったな……と少しだけ後悔した。だけど、パーティーやお茶会に行くなんて滅多にないことだし!喜んだっていいよね!
僕はそう結論づけて、出された紅茶に口を付けた。
実は、今まで僕にパーティーやお茶会の誘いがなかったわけじゃない。むしろたくさんあったらしい。けれど、ロイスが絶対に参加せざるを得ないようなものを除き、片っ端からその誘いを断っていた。
そんな話を知らないノエルは、初めての大々的なパーティーに胸を踊らせるばかりだった。
「ちょっと待って兄さん、ノエルが行くなら俺もノエルの付き添いで……」
ローレンツがそう言い出すと、ルーベルトが少し笑いながら答えた。
「ローレンツは主催側で忙しいからクーレル家の代表としての参加で忙しいんじゃない?」
どうやら、ルーベルトはこの状況を見越してノエルを誘っていたらしい。実に策士だ。
「大丈夫、すぐに切り上げてノエルのところに行くから。」
ロイ兄さんはそう言って少しむくれていたけれど、僕はそれどころじゃなかった。パーティーという言葉が頭の中で何度も繰り返されて、すっかりそのことで頭がいっぱいだったから。
大きなパーティーなんて初めて!美味しいお菓子があるかな?新しいお友達と出会えるかな?考えただけで楽しみだなぁ……
僕は頭上で交わされる兄たちの言い合いに耳を傾けつつも、内容の半分も理解していなかったが、今後訪れるであろうことに思いを馳せ、楽しい想像を膨らませながら、朝食を終えたのだった。
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