気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。

第1章 幼年期

18.相談

息子達がそれぞれ遊びに行ったところで、私はこの屋敷を訪れた本来の目的を果たそうと思う。

「ランドルフ、執務室を貸してくれ。」

「まぁそう来ると思ったよ。ノエルだけじゃなくてそっちの噂も兼ね兼ね聞いてるからな。」  

そんな小言を言いながらランドルフとロイスは、カツカツと足音を立てながら、執務室に向かって歩き始めた。荘厳な外装と同じく重厚な扉を開き、部屋に入り、しばらくするとランドルフが先に口を開いた。

「扉の鍵は閉めておいたし、盗聴防止の魔法具も付けておいたが文句は？」

「流石我が弟、感謝するよ。」

「じゃあ本題について詳しく話してもらえるかな？まぁ、粗方の予想はついてるけどね。」

「あぁ、多分ランドルフが思ってる通りだよ。あいつ……エルメンガルドの事だ。」

「………っはは！ついにあいつ呼びかよ！」

ランドルフはとてつもなく面白いと言わんばかりに、思い切り腹を抱え、目に涙をうかべ笑っている。

「おい、そんなに笑うな。そんな談笑をしに来たんじゃなくてだな……」

さっきの笑いがたまらなかったようで目の端に涙を溜めている。

「っはは、…ふぅ、悪い悪い、真面目に聞くよ。」


ランドルフは目の端の涙を人差し指で拭いながら、椅子の背を引いてくれた。なんだかんだ言いながらも細やかな気遣いが出来るのはランドルフらしい。

ロイスはランドルフに促されるままに引かれた椅子に座った。ロイスに座るよう促したランドルフ本人は行儀悪く机の角の腰をかけている。少しやんちゃが過ぎる所もまたランドルフらしい。

「なぁ、そろそろ話してもいいか？」

「勿論どうぞ。」

本題に入ろうと言ってから雑談により、既に十数分が消費されていたが、やっとのことでロイスは本題について話しをすることが叶うようだ。

「勿論わかっていると思うが、エルメンガルドの事だ。本当なら今すぐに卑陋ひろうで有名なクソジジイ男爵の所にでも送り付けてやりたいがそうはいかないんだよな……。ノエルに1歩間違えば命に関わるような大怪我を負わせたくせに、名目上は突き飛ばしただけなんだよなほんとに腹立たしいこと極まりない………。」

「あの女を裁く為の材料が足りないと……」

「まぁ、そういう事になるな。それに一応相手は公爵だ、家同士の対立を生むような面倒臭い話にはしたくない。ノエルを守るためになら爵位を落とすことに全くもって抵抗は無いが、一応、代々守り受け継いできたものだしな……」

「本当に、兄さんって面倒臭い事にばかり関わるよな。それより俺は、なんでセラフィーヌ公爵令嬢様があんなに素直で可愛い坊ちゃんを毛嫌いするのかを知りたいけどな。」

「十中八九リーゼル、だろうな。俺ですらノエルが生まれた時はその姿にリーゼルを重ねたよ。」

「あぁ、そう言う……」

「と言うことで、セラフィーヌ公爵家について今までよりも詳しく、より細部まで調べ尽くしておいて欲しい。」

「まぁ、そう来ると思ったよ。私のできる限りの手は尽くすよ。」

「本当に感謝するよ、ランドルフ。」

ランドルフは騎士団の勤めだったため脳筋……あまり机に向かうのが得意なタイプだとは思われていないが、むしろその逆だ。

そもそもアイツは知略に富んだ男で、文官志望で学園の試験を受けたが、試験の成績があまりにも突出していたため剣術科に引き抜かれた特例中の特例だ。そんな中で団長にまで上り詰めたのは、我が弟ながら末恐ろしいが。アイツは文武両道の最終形態のような男だ。

彼が今までに築いて来た情報網は数知れず、町の事から王宮についても大抵聞けば答えてくれる。情報模索をお願いして彼の右に出るものは居ないだろう。そんな情報通な彼ならば、何か有益情報を引き出してくれるのでは、と考えてこの相談をランドルフに持ちかけたのだ。


結果がどうなるにせよ、検討しておくと返事が返ってきたため少しだけ、肩の荷が降りたような気がした。