16 / 72
第1章 幼年期
16.幸せな時間
しおりを挟む
日が天高く上り照りつける。ジリジリと焼けるような暑さに夏の訪れを感じさせられる。最近では専ら外での活動は控え、丁度よく空調管理をされたテラスが、クーレル家の憩いの場となっている。
ノエルも例に漏れず、テラスに設置されたテーブル、そのうちの一脚に腰掛けたルーベルトの膝の上で、まだあたたかさが残る焼きたてのクッキーを片手に、砂糖をこれでもか、というほどたっぷりと入れた紅茶を啜っている。
「にぃに、僕ね、ぼく、お外でお散歩したいんだ……だめ、かな?」
ノエルはきゅるきゅるとした瞳で自身の頭の上に覗くルーベルトを見上げお願いをした。暑さのせいだけではなく、先日の怪我をした件以降、「ノエルに降りかかる危険は徹底的に排除する」という3人の監督者の方針により、直近では一切の外出を禁止されている。屋敷外ではなく、庭にすら出た回数は片手で数えられる程度だ。そんな今日は、あの一件が終息して、既に2ヶ月が経過していた。
「ノエル……まだ体に何があるかわからないんだぞ?それに最近外は気温が上がっているだろ?熱射病にでもなったらどうするんだ……」
「…………むぅ。」
ノエルは頬を膨らませてルーベルトに抗議したが、「…っぐ、かわっ……!」と唸るだけで首を縦に振らない。
「意地悪してくるるーにぃにはやなの。今からにぃに嫌になるから、お膝いらない!」
そう言ってノエルはルーベルトの膝から降りようとじたばた暴れだした。
「…………っ!じゃ、じゃあノエル、今から屋敷の中を俺と散歩しよう!それじゃあダメかな……?」
ノエルはうーんと考えるポーズをし、しばらくしてくるりと膝の上で半回転し、ルーベルトと向かい合う形になった。
「じゃ、じゃあ僕のお願いいっぱい聞いてくれる?」
「可愛いノエルのためなら勿論聞くよ。」
「じゃあね、まずは僕にちゅってして!」
そう言ってすっと瞳を閉じたノエルに、ルーベルトはそんな可愛いお願いが来るとは予想しておらず、拍子抜けした。勿論のこと、ルーベルトがそんなお願いを嫌がるはずもなく、額、瞼、頬と顔中にキスを落とした。
「やっぱり、ちゅうが1番あったかい気持ちになるからね、やっぱりるーにぃに好き~!」
そう言ってさっきの不機嫌は何処へやら、膝の上でルーベルトと向き合うと、思いっきり抱きついた。
「はぁ……可愛すぎる。ずーっとこのままくっついていようか?」
そんなルーベルトの申し出も非情に、ノエルは膝からよじよじと降り、無事地面に降り立ち、ルーベルトの服の裾を掴むと、「おさんぽ!」と宣言し、意気揚々に歩き出した。
***
ルーベルトとノエルは他愛もない話をしながら、中庭からの光がキラキラと差し込む、日当たりの良い廊下を歩いていた。
「そうえばね、僕昨日ここの廊下で青と黒のちょうちょさんみつけたの!凄いでしょ?なんかね、おっきくて強そうだった!」
「そうか、ノエルは凄いな。今度見つけたら僕にまた教えててくれる?」
「うん!そのときは、急いでるーにぃに呼びに行くね!………あ、でもにぃに学校行ってるからダメだぁ………」
るーにぃにも、ろいにぃにもお昼は学園に行ってるもんね。……僕は何歳になったら学園に行けるのかな?
「ねぇにぃに、僕って何歳になったらにぃに達と一緒に学園に行けるの…?」
「そうだな…学園は8歳…あと3年後だな。残念だけど、僕と一緒には通えないかな、本当に残念だけど」
「どうして……?僕にぃに達と一緒がいい!」
ルーベルトや、ローレンツが通っている王宮付属学園は10歳から18歳までの子供達が剣術、魔法、薬学、などの専門的な知識を身につけることが出来る場所だ。故に、現在5歳のノエルが入学する頃には15歳のルーベルトは既に卒業してしまった後だ。
「どうしても僕は無理なんだ、ごめんね?……癪だけど、ローレンツとは同じ時期に学園に通えるよ。」
「ほんと!」
「あぁ、実に不本意だけれどね。」
「あはは」と言いながらルーベルトは屈んでノエルの頬をむにゅっと挟み、笑いかけた。ルーベルトにつられて自然とノエルも笑いだした。
「ん!分かった。学園じゃなくても僕はにぃに達とはお家でいっぱい会えるもんね!」
「もちろん、ノエルが望むならいくらでもね。さぁ、次はどこへ行こうか、ノエル?」
「んー、図書室いこ!僕前よりも文字が読めるようになったんだよ?今日はぼくがるーにぃにのために沢山本を読んであげる!」
「ふふっ、それは楽しみだね。」
ルーベルトが文字を教えてから、ノエルは文字に強く関心を持つようになった。最初は幼児向けの絵本が主だったが、難しい単語はサポートをしつつだが、最近は青年向けの物語を読める程にまでなった。
また、文字を書くことも好きなようで定期的にルーベルトやローレンツ、ロイスに手紙を寄越すようになった。ルーベルトはもちろん、ノエルから貰った手紙は鍵付きの引き出しに大切にしまってある。
ローレンツは、また今日も一通新しい手紙が貰えるのではないかと胸躍らせ、図書室への道をノエルの小さな手の温かさを感じながら歩むのであった。
ノエルも例に漏れず、テラスに設置されたテーブル、そのうちの一脚に腰掛けたルーベルトの膝の上で、まだあたたかさが残る焼きたてのクッキーを片手に、砂糖をこれでもか、というほどたっぷりと入れた紅茶を啜っている。
「にぃに、僕ね、ぼく、お外でお散歩したいんだ……だめ、かな?」
ノエルはきゅるきゅるとした瞳で自身の頭の上に覗くルーベルトを見上げお願いをした。暑さのせいだけではなく、先日の怪我をした件以降、「ノエルに降りかかる危険は徹底的に排除する」という3人の監督者の方針により、直近では一切の外出を禁止されている。屋敷外ではなく、庭にすら出た回数は片手で数えられる程度だ。そんな今日は、あの一件が終息して、既に2ヶ月が経過していた。
「ノエル……まだ体に何があるかわからないんだぞ?それに最近外は気温が上がっているだろ?熱射病にでもなったらどうするんだ……」
「…………むぅ。」
ノエルは頬を膨らませてルーベルトに抗議したが、「…っぐ、かわっ……!」と唸るだけで首を縦に振らない。
「意地悪してくるるーにぃにはやなの。今からにぃに嫌になるから、お膝いらない!」
そう言ってノエルはルーベルトの膝から降りようとじたばた暴れだした。
「…………っ!じゃ、じゃあノエル、今から屋敷の中を俺と散歩しよう!それじゃあダメかな……?」
ノエルはうーんと考えるポーズをし、しばらくしてくるりと膝の上で半回転し、ルーベルトと向かい合う形になった。
「じゃ、じゃあ僕のお願いいっぱい聞いてくれる?」
「可愛いノエルのためなら勿論聞くよ。」
「じゃあね、まずは僕にちゅってして!」
そう言ってすっと瞳を閉じたノエルに、ルーベルトはそんな可愛いお願いが来るとは予想しておらず、拍子抜けした。勿論のこと、ルーベルトがそんなお願いを嫌がるはずもなく、額、瞼、頬と顔中にキスを落とした。
「やっぱり、ちゅうが1番あったかい気持ちになるからね、やっぱりるーにぃに好き~!」
そう言ってさっきの不機嫌は何処へやら、膝の上でルーベルトと向き合うと、思いっきり抱きついた。
「はぁ……可愛すぎる。ずーっとこのままくっついていようか?」
そんなルーベルトの申し出も非情に、ノエルは膝からよじよじと降り、無事地面に降り立ち、ルーベルトの服の裾を掴むと、「おさんぽ!」と宣言し、意気揚々に歩き出した。
***
ルーベルトとノエルは他愛もない話をしながら、中庭からの光がキラキラと差し込む、日当たりの良い廊下を歩いていた。
「そうえばね、僕昨日ここの廊下で青と黒のちょうちょさんみつけたの!凄いでしょ?なんかね、おっきくて強そうだった!」
「そうか、ノエルは凄いな。今度見つけたら僕にまた教えててくれる?」
「うん!そのときは、急いでるーにぃに呼びに行くね!………あ、でもにぃに学校行ってるからダメだぁ………」
るーにぃにも、ろいにぃにもお昼は学園に行ってるもんね。……僕は何歳になったら学園に行けるのかな?
「ねぇにぃに、僕って何歳になったらにぃに達と一緒に学園に行けるの…?」
「そうだな…学園は8歳…あと3年後だな。残念だけど、僕と一緒には通えないかな、本当に残念だけど」
「どうして……?僕にぃに達と一緒がいい!」
ルーベルトや、ローレンツが通っている王宮付属学園は10歳から18歳までの子供達が剣術、魔法、薬学、などの専門的な知識を身につけることが出来る場所だ。故に、現在5歳のノエルが入学する頃には15歳のルーベルトは既に卒業してしまった後だ。
「どうしても僕は無理なんだ、ごめんね?……癪だけど、ローレンツとは同じ時期に学園に通えるよ。」
「ほんと!」
「あぁ、実に不本意だけれどね。」
「あはは」と言いながらルーベルトは屈んでノエルの頬をむにゅっと挟み、笑いかけた。ルーベルトにつられて自然とノエルも笑いだした。
「ん!分かった。学園じゃなくても僕はにぃに達とはお家でいっぱい会えるもんね!」
「もちろん、ノエルが望むならいくらでもね。さぁ、次はどこへ行こうか、ノエル?」
「んー、図書室いこ!僕前よりも文字が読めるようになったんだよ?今日はぼくがるーにぃにのために沢山本を読んであげる!」
「ふふっ、それは楽しみだね。」
ルーベルトが文字を教えてから、ノエルは文字に強く関心を持つようになった。最初は幼児向けの絵本が主だったが、難しい単語はサポートをしつつだが、最近は青年向けの物語を読める程にまでなった。
また、文字を書くことも好きなようで定期的にルーベルトやローレンツ、ロイスに手紙を寄越すようになった。ルーベルトはもちろん、ノエルから貰った手紙は鍵付きの引き出しに大切にしまってある。
ローレンツは、また今日も一通新しい手紙が貰えるのではないかと胸躍らせ、図書室への道をノエルの小さな手の温かさを感じながら歩むのであった。
36
お気に入りに追加
2,282
あなたにおすすめの小説
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
使命を全うするために俺は死にます。
あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。
とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。
だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった
なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。
それが、みなに忘れられても_
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
無気力令息は安らかに眠りたい
餅粉
BL
銃に打たれ死んだはずだった私は目を開けると
『シエル・シャーウッド,君との婚約を破棄する』
シエル・シャーウッドになっていた。
どうやら私は公爵家の醜い子らしい…。
バース性?なんだそれ?安眠できるのか?
そう,私はただ誰にも邪魔されず安らかに眠りたいだけ………。
前半オメガバーズ要素薄めかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる