気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ

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第1章 幼年期

6.お出迎え

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今の俺、ローレンツ・クーレルは機嫌がいい。
何故かって?
今僕の膝の上に我が家の天使が居るからだ。


***


俺は剣を学ぶため、王宮付属学園の剣術科に通っている。そして俺は今、通学するために馬車から降り、入口へ繋がる道を歩いている。俺は学園生活の中でこの時間が1番嫌いだ。

いつもそうだ。馬車の扉を開けた途端に、キャーキャーと煩い声を上げたご令嬢とかいう奴らがコバエのように集ってくる。

ローレンツは言わずもがな、父の容姿を受け継ぎ、端整な顔立ちをしている。本人は知ってか知らぬか、周囲からは大いに好意を寄せられている。

「ローレンツ様!素敵ですわ!」

「ローレンツ様!こっちを向いて!」

などなど、今日もローレンツの上を黄色い声が飛び交っているようだ。

「はぁああ……」

ご令嬢方の黄色い声に比例して、また今日もローレンツの口から特大のため息が飛び出した。

「ロイ、だからため息はやめろっての。幸せが逃げてくぞ~!」

俺の学園での唯一の友人である、ジルラデ・エストレールがそう俺に告げ、背中をドンと叩いた。「いてーよ!」と言い返しながらも、その背を追いかけた。こいつとは、長い付き合いで、この学園内で唯一気を許していると言って良い友人だ。

「今日小試験の日だろ?早く教室行こうぜ、ロイ!」

「わかったよ。」


この学園には大きく分けて3つのコースが存在する。1つ目が俺やジラルデが通う剣術科、そしてもう1つが兄のロレーンツが通う魔法科、3つ目が普通科だ。

剣術科の人間は主に騎士の位を叙勲し、近衛兵になることが主だ。そのため家督を継がない貴族の子息は大抵がこの科、または普通科に通うことになる。
魔法科は元来より持っている魔力量が多い人間のみが進学できるためその待遇は良く、将来的には魔法の研究職や、魔法術士となる。
また、普通科の人口がこの学園の大半を占めており、主に領地経営や、文官、薬師になるための資格取得など、基礎的なマナーから総合的な学びまで展開されている。

いずれも、この国の主要職に就くためには、学園を卒業することが必須条件なため、大抵の貴族や大きな商家の者はこの学園に通うことが殆ど義務とされている。

このまま順当に行けばクーレル家を継ぐのはローレンツだろうし、俺は騎士爵を叙勲して騎士団内である程度の功績を残せれればいいな、と考えている。ローレンツのような文武両道、おまけに魔法まで使えます!みたいなエリートと同じにしないで欲しい。俺はそこそこで良いんだよ、そこそこで。


***


何時間が経っただろうか。長い学園での講義を終え、屋敷に帰るための馬車に乗り込んだ。馬車の中でぼーっとしていると、車輪の走るガタガタとした音が止み、馬車が停車したことを告げた。いつの間にか屋敷に到着したようだ。

そしてしばらくすると耳馴染みのある可愛らしい声がドアの向こうからうっすらと聞こえた。

「……ぃ………ち…!」

あぁ、ノエルの声だ。可愛い。

相変わらずの破顔っぷりに同乗していた従者も笑いをこらえているようだ。

そして俺は、馬車の扉を勢いよく開いた。

「ろいにぃに!おかーりなさい。」

先程まで微かだった声が今は鮮明に聞こえる。満面の笑みでノエルが俺を迎えてくれた。てくてくと可愛らしい足取りで体を揺らし、こちらへ向かってくるノエルをふわりと抱き上げた。

「あぁ。ノエルただいま。」

そしてノエルの右頬に軽いキスを落とした。

更ににんまりと笑みを深める様子が可愛くてノエルをギュッと抱きしめる。

「にーにくるしい、めっ!」

「ごめんな?ノエル。」

またやりすぎてしまった。いつもノエルへの愛しさが振り切れると力加減を間違えてしまう。本当にその内ノエルを潰してしまうんじゃないかと少し怖くなる。

「ろいにーにっ!いたいのはめっ。分かった?あと、お顔がこわいのもだめっ!」

そう言ってノエルが、俺の両頬を小さくて柔い手でむにゅうと挟み込んだ。めっちゃ可愛い。

「分かったよ、ノエル。もうしない。」

これではどちらが兄か分からないな、とつい笑ってしまう。

「にぃにー、あのね?僕、ろいにーにと一緒にお菓子食べたくってとっておいたの!いこ?」

そう言ってノエルが僕の手を引く。そんな天使に連れられてテラスに足を運んだ。

この屋敷には、今は亡きお母様が手塩にかけて育てていた花々がひしめき合っている庭がある。亡くなってしまった後も、使用人達がその管理を引き継いでいるため、現在も昔のままの美しさが残されている。
そんな花々を鑑賞する為に建てられたのが、今ノエルに連れられて来た目的のテラスだ。

そこにあるテーブルの奥から2番目の席は、お母様___リーゼル・クーレルがいつも腰掛けていた、リーゼルのための席。現在はノエルの特等席になっている。

ノエルが俺の裾をつんつんと引っ張り、例の特等席を指さした。

「ろいにーに!ここ!」

「ここ……、ここに座っていいのか?」

ノエルは深く頷いた。

その頷きに従い、例の特等席に座った。いつもは真っ先にノエルが座るはずなのに何故自分に譲られたのか、頭に疑問符を浮べながら待っていると、ノエルが俺の膝の上によじよじと登ろうとしていた。流石に登りきれないようで、「ん!」と両手を上げた。ノエルの言う通りにノエルの体を持ち上げ、自らの膝の上に座らせた。

「……ノエル?」

「お膝、いいでしょ、ろいにぃに?」

潤んだ瞳と上目遣いでノエルが俺を見上げてくる。何だこの幼児は可愛すぎやしないか?

「っい、いや……違う。寧ろ嬉しいよ。」

また全力で抱きしめようとしたがすんでのところで止まり、「ありがとう。」と言い、その磁器のような白いおでこや頬に余すところなく、口付けを落とした。

「えへへ…。だってさ、ろいにーにに大好きがいっぱいで、ぎゅーってなったんだよ!」

発言の一つ一つが愛おしすぎて、常にこの腕の中に閉じ込めていたくなる。本当に我が家の末っ子の可愛さは恐ろしい。

「ねぇねぇ、早くお菓子たべよー!」

脳天気に笑う彼の意識は、早くもお菓子に向いてしまったようで、皿に盛られたクッキーの1枚に手を伸ばしていた。
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