甘酸っぱい少年たちの記憶

文化祭の準備

放課後の教室。夕日が淡く差し込む中、慧は文化祭の準備で忙しく教室を飾りつけていた。クラスの文化祭実行委員である慧にとって、この時間はとても大事だ。完璧な教室を目指して黙々と作業に集中している。

そこへ、段ボール箱を抱えた隼人が姿を見せた。「慧、これ運んできたぞ。って、もう結構進んでるな」

「うん。今日中に終わらせたいから、始めてたんだよ。隼人も手伝ってくれる？」

「当たり前だろ！」隼人は軽い調子で笑うと、慧の隣に腰を下ろして作業を始めた。慧と隼人は幼馴染だが、最近はクラスが別々になっていることもあり、こうして二人きりで話すのは久しぶりだった。

「慧って、こういう細かい作業、得意なんだな」隼人が慧の手際よい作業ぶりを見て感心したように言う。

「まあ、実行委員だし、ちゃんとしないとね。でも、隼人がこんなに真剣に手伝ってくれるのはちょっと意外かも」

「なんだよ、それ。俺だってやるときはやるんだってば！」隼人は少し照れくさそうに笑いながら、慧の肩を軽く叩いた。

「ほんとかな？普段は適当なのに」慧は微笑みながらからかうように言い返すと、隼人が冗談っぽく肩をすくめた。「そう見せてるだけだって、慧は知らないだけで」

二人はそのまま軽口をたたきながら飾りつけを進めていく。久しぶりの息の合った作業に、どちらともなく安心感を覚えていた。

ふと、隼人が手元の飾りをつけようと背伸びをしたその時だった。「あっ、慧！」バランスを崩した隼人が慧にぶつかり、そのままお互いに向かい合う形で止まる。

「…ごめん、慧、大丈夫？」

「う、うん…」慧はほんのりと赤くなりながら、少し照れくさそうに隼人の視線を避けた。その照れ隠しに、彼は一生懸命飾りの位置を直し始めるが、心臓の鼓動がやけに速く感じていた。

隼人は、少し気まずそうに目をそらし、「悪い、なんか変なこと言っちまった」と小さくつぶやく。

その言葉に、慧も照れながら小さくうなずいたが、内心では不思議な気持ちが膨らんでいた。隼人の何気ない行動に触れるたび、幼馴染として以上の感情が芽生えつつあることを悟るが、口にすることはできない。

「じゃ、飾り付け、終わらせようか」慧が静かに言うと、隼人も「そうだな」と返事をし、二人は再び作業に戻った。

時間が経つにつれて、少しずつ夕日も色を濃くし、教室には橙色の光が柔らかく広がっていた。作業が一段落つくと、隼人がふと慧の方を見て笑った。

「なんか、こうして二人でやるのもいいもんだな。久しぶりだし、慧の真剣な顔も久々に見たし」

「な、なんだよ、それ。いつもこういう顔だって」慧は照れくさそうに顔を背けたが、隼人の視線が離れず、顔がますます熱くなっていくのを感じていた。

「いや、今日の慧は特別なんだよな。俺にしか見せない顔って感じでさ」

隼人がふいに顔を近づけてくると、慧の心臓は一気に高鳴った。「え、ちょっと隼人…」小さな声で呼びかけるが、隼人は微笑みながら慧の頬に軽くキスをした。

「これからも、文化祭以外でも手伝ってやるよ。だから、また一緒にやろうぜ」

慧は言葉にならない気持ちを抱えたまま、隼人の優しい表情を見つめていた。そして、自分も隼人の手をそっと握り返し、静かにうなずく。