甘酸っぱい少年たちの記憶

冬の帰り道

夕方、雪がちらちらと舞い降りる中、大和と直人は肩を並べて帰り道を歩いていた。寒さに耐えきれず、大和は小さく震えながら、ポケットに手を突っ込んで歩いている。

「寒いよなあ、直人…早く家に帰りたい…」

「だったらもっと暖かくして来ればよかったのに」

直人が淡々とした口調で返すと、大和は頬をふくらませてふてくされたような顔をした。「だって、あんまり着込むと動きにくくて嫌なんだよ」

直人は呆れたようにため息をつきながらも、黙って自分のマフラーを外すと、大和の首にそっと巻きつけた。「これで少しは温かいだろ？」

「え、直人のマフラー？…なんか、ちょっと照れるな」

「照れるなら寒いままでいればいいだろ」

「いや、ありがたく使わせてもらいます！」

大和は嬉しそうに笑顔を浮かべ、ふんわりとしたマフラーの温かさを感じながら直人に歩み寄った。そのまま、ひょいっと直人の肩に腕をかけてじゃれつき始める。

「ねえ、直人ー。お礼に肩を温めてあげる！」

「お前が温まるための口実だろ…」

「そうとも言う！」

直人が軽くため息をつきながらも、大和の肩を抱き寄せるようにして歩き出すと、二人の距離はさらに近づき、何とも言えない温かさが胸の中に広がった。

大和は直人の肩にじゃれつくようにしながら、ふざけて彼の脇腹を軽くつついた。

「おい、やめろって…！」

直人が少し照れたように言うと、大和はいたずらっぽく笑ってさらに軽く突っついた。「お礼に温めてあげてるのに、素直に喜べばいいのにさ」

「それが温めてるって言うのか？ただの邪魔だろ」

そう言いながらも、直人は嫌がるふりをしつつも、大和が自分のそばにいるのをまんざらでもない様子で受け入れている。大和もその微妙な空気を感じてか、さらにくすぐるようにして笑い合った。

ふとした瞬間、二人の顔が近づいた。大和が何か言おうとしたが、すぐにその言葉を呑み込んでしまう。目の前にいる直人の優しい瞳が、不意に自分の心を揺さぶるのを感じたからだ。

「…どうしたんだよ、急に黙っちゃって」

直人が不思議そうに尋ねると、大和は少し照れくさそうに視線をそらした。「いや、なんか…こうしてると、落ち着くなって思って」

直人も少し顔を赤くしながら、小さくうなずいた。「…そうだな、俺も」

二人は一瞬の沈黙の中で、お互いの温かさを感じ合っていた。静かな雪の降る中、二人だけの世界がそこに広がっているようだった。

やがて大和が小さな声で呟いた。「…なあ、直人。こうやって帰るの、なんか悪くないな。いつもはうるさいって言われるけど、今日はお前も優しいし」

「そんなこと、いつも思ってるわけじゃないぞ。ただ…今日は特別なんだろうな」

大和は少し驚いた表情で直人を見つめた。そのままの勢いで、二人は自然と顔を近づけ、ほんの少しだけ唇が触れ合う瞬間を迎えた。

唇が触れた一瞬、二人は何も言えずに顔を見合わせた。大和の心臓がドキドキと高鳴り、言葉が見つからない。直人も少し顔を赤くしながら視線をそらすが、大和の方をチラリと見て、小さく微笑んだ。

「…寒さのせい、ってことにしとくか？」

直人が冗談めかして言うと、大和は少し恥ずかしそうに笑った。「そうだな、寒さのせい、かもな」

でも、大和の心の中ではそれだけじゃない気がしていた。この温かい感覚は、ただの「友達」としてだけではない、大切な何かがそこにあると感じさせていた。

ふと、大和が直人のマフラーを少し引っ張り、彼の顔を自分の方に向かせる。「なあ、直人」

「…なんだよ？」

「俺たちって、こういうのも、悪くないよな」

直人は少し驚いたように見つめ返し、しばらく何かを考えるように黙っていたが、やがて優しくうなずいた。「…ああ、そうだな」

その返事に安心した大和は、直人の腕を掴んで、もう少しだけ彼に寄り添いながら歩き始めた。二人は無言のまま、冬の冷たい空気の中でお互いの温かさを感じ合いながら、ゆっくりと帰り道を進んでいった。

雪が静かに降り積もり、二人の後ろには、並んで歩く足跡が続いていく。それは、これからもずっと続いていくであろう二人の特別な時間の象徴のように、白い道に刻まれていた。