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放課後の秘密の時間

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教室には、放課後の静けさが満ちていた。机と机の間に差し込む夕陽が、まるで二人だけの特別な空間を作り出しているようだった。

「翔太、もうちょっと集中しろよ」

蓮の小さなため息に、翔太は苦笑いを浮かべて首をかしげた。友達に頼み込んで、放課後の居残り勉強を手伝ってもらっているのに、どうにも集中が続かない。

「いやぁ、蓮が真面目に教えてくれるから、つい…」

「つい、何だよ?」

蓮がわずかに目を細めて問いかけると、翔太は慌てて視線をそらした。なんとなく、蓮の顔を見ていると、胸の奥がくすぐったくなる。理由は自分でもわからないが、何となく顔が熱くなってしまうのだ。

「…なんか、ありがと、って言いたくなる」

翔太がぽつりと呟くと、蓮は一瞬きょとんとした表情を浮かべ、それから微かに照れたように笑みをこぼした。

「それなら、もうちょっと頑張れよ。次のテストで点数あげるって約束しただろ?」

「わかってるってば…!」

翔太は元気よく返事をしたが、その直後、蓮の手が突然自分の手に触れたことに気づき、ぴくりと肩をすくめた。ふとした触れ合いに、二人の間に微妙な緊張が走る。

「あ、ごめん…」

蓮がすぐに手を離したが、翔太は気まずそうに頬を掻いて笑った。「いや、こっちこそ…別に、気にしてないし」

そんな言葉を交わすうちに、どこかぎこちない沈黙が教室に訪れた。だが、二人の間に漂う空気は決して嫌なものではなく、むしろ少しだけ心地よかった。

翔太は気まずさをごまかすように、机に広げたノートに視線を戻した。しかし、どうしても蓮のことが気になって、ちらちらと視線がそちらに向かってしまう。蓮はいつも通りのクールな表情をしているけれど、ふと目が合うたびに少し照れくさそうに目を逸らすのが見えて、なんだかそれが可愛らしかった。

「そうだ、ちょっと休憩しようよ。ずっと勉強ばっかりじゃ頭がパンクするって」

翔太が軽く体を伸ばしながら提案すると、蓮は少し呆れたように微笑んだ。「まだ始めたばっかりじゃないか。でも…まあ、たまにはいいか」

そう言って蓮も椅子にもたれかかり、二人でゆったりとした空気を楽しむ。しばらく無言で過ごしていると、翔太がふと、いたずらっぽく笑いながら蓮の腕に軽く触れた。

「なあ、れーん、真面目な顔ばっかしてないで、たまには笑えよー」

「は? お前、俺の顔見て何言ってんだよ」

「だってさ、蓮が笑うとなんか…安心するっていうか、落ち着くっていうか」

そう言いながら、翔太は指先で蓮の腕を軽くつつき始めた。蓮は最初は少しむっとしたような表情をしていたが、翔太のしつこさに耐えかねたのか、ついに微笑みを浮かべた。そして、返すように指で翔太の脇腹を軽くつつき返した。

「おい、やめろって…!」

翔太は驚きの声をあげ、笑いながら少し後ろにのけぞった。蓮のつつき返しが思いのほか効いたらしく、くすぐったさに笑いをこらえきれなくなってしまう。

「ほら、さっき自分で笑えって言ったんだからな」

「うわ、ずるいぞ、蓮!」

二人はじゃれ合うように、互いにくすぐり合い始めた。小さな笑い声が静かな教室に響き、夕陽に照らされた影が揺れ動く。翔太が何とか蓮の手を押さえようとすると、バランスを崩して二人はごろんと床に倒れ込んでしまった。

倒れた拍子に、二人の顔が近づき、互いに驚いたように見つめ合った。翔太は何か言おうとしたが、胸が高鳴って言葉が出てこない。蓮も一瞬息を飲んだように、じっと翔太を見つめ返していた。

「…なんか、変な感じだな」

蓮が小さく呟くと、翔太は照れ笑いを浮かべながら小さく頷いた。そして、自然と蓮の手を握りしめたまま、そっと目を閉じて唇を寄せた。

二人の唇が触れると、一瞬、世界が静かになったような気がした。翔太は、心臓の音が聞こえるほど緊張しながらも、なぜか蓮といることで自然と安心感が広がっていくのを感じていた。

ほんの一瞬のキスだったが、蓮が顔を少し赤らめながら視線をそらすのを見て、翔太も自分がどれほどドキドキしているかを自覚した。恥ずかしくなってしまった翔太は、照れ笑いでその場を誤魔化そうとする。

「なんか…俺たち、変なことしてるよな」

「うん…でも、別に嫌じゃない」

蓮が静かにそう言うと、翔太は驚いたように顔を上げた。蓮の瞳が真っ直ぐに翔太を見つめていて、その優しい視線にまた心が揺れる。何とも言えない心地よい静寂が二人の間に流れ、夕陽の光がさらに温かさを増して教室全体を包んでいた。

「ねえ、蓮…またこうやって、放課後一緒に勉強してもいいかな?」

「もちろんさ。でも、次はちゃんと勉強もするんだぞ」

蓮が冗談めかして言うと、翔太は笑い声を上げて頷いた。二人はまた少しじゃれ合いながら、互いの存在を強く意識し始めた新たな関係の中で、甘酸っぱい放課後の時間を楽しんでいた。
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