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新婚夫夫のように
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寝室を出て、トイレや風呂場といった水回り、ランドリールームなどを紹介して再びリビングに戻ってきた。
「今日からここが久代さんの自宅ですから、遠慮せずに寛いでくださいね」
「ありがとうございます……。あ、あの真壁さんは明日はお仕事ですよね?」
「ええ。明日の朝は特に早出する予定がなければ八時ごろ家を出ます。帰りはそうですね……通常なら午後六時すぎには帰宅できると思います。食事は好きなものをデリバリーしていただいてかまいませんよ。このマンションではデリバリーはすべて無料で使えますから」
実際はコンシェルジュのほうで支払いを済ませてくれて、後でひと月分をまとめて支払うことになっている。
久代さんにお金を支払わせるつもりは毛頭ないから、このシステムでよかった。
「そんなっ、デリバリーなんてもったいないです。お昼くらい食べなくても……」
その言葉に久代さんの今までの生活が垣間見れた気がした。
この人は自分のことを労わろうとはしない。
それなら私が代わりに久代さんのこと考えるだけだ。
「わかりました。久代さんの昼食は私が用意していきます。時間になったら必ず温めて食べてください」
「えっ? 真壁さんにわざわざ用意していただくなんて申し訳ないです」
「それならしっかりと食べてください。沖野にも言われたでしょう? 必ず食事と睡眠は摂るように、と。まだ体調が万全ではないんですから、ちゃんと食事を摂って休ませないとまた倒れることになりますよ」
「は、はい……すみません……」
私に注意されて、しゅんとする久代さんが可愛い。
まるで主人に怒られた子犬のようだ。
だからつい触れてしまった。
「わかってくれて嬉しいですよ。いい子ですね」
ぽんぽんと頭を優しく叩くと久代さんはハッとした表情で私を見上げ、ほんのりと頬を染めた。
この反応……以前にも同じようなことをされたことがあるのか?
その相手はもしかしたら崇史さん、だったり?
いやいや、もう考えるのはやめよう。
以前二人にどんな関係があったとしても今は私のそばにいてくれているんだ。
今は久代さんの気持ちを私に向けられるように距離を縮めていかなくてはな。
「あの、それじゃあまだ少し早いですが夕食の支度をしますので、久代さんはゆっくり寛いでいてください。何か食べたいものはありますか?」
「えっ、食べたいもの? あの、私はなんでも……」
「それじゃあ今日は私が久代さんに召し上がっていただきたいものを作りますね。明日は必ず久代さんの食べたいものを作りますから考えていてください」
「は、はい……」
強引かとは思ったが、こうでもしないと久代さんはいつだって相手のことばかり考えてしまう。
私は久代さんをリビングに残し、キッチンに向かった。
この家で人に振る舞ったことは一度もない。
というか、この家に入ったのも周平さんくらいか。
それも引越しの時だ。成瀬たちでさえ、呼んでない気がする。
職業柄もあるが、あまり自分がどんなところに住んでいるか知られたくないという気持ちもあった。
同じように成瀬も自宅には上げないように徹底しているから、お互いにそれは暗黙のルールになっていた。
だから成瀬が真琴くんに出会ってすぐに自宅に入れたと聞いた時は耳を疑ったものだ。
でもその時の成瀬の気持ちが今なら痛いほどわかる。
それだけ特別な存在だと感じたってことだ。
きっと成瀬に久代さんを家に入れたことを話したら、やっぱりなと言われそうだ。
さて、何を作ろうか。
久代さんに食べてもらえると思うと腕が鳴る。
とりあえず和食がいいだろうと思い、ご飯を炊く準備をしていると
「あの……」
久代さんに声をかけられた。
「何か飲みますか? 冷蔵庫は好きに開けてくださって構いませんよ」
「あ、いえ。そうじゃなくて……私も、何かお手伝いできればと思って……」
「――っ!」
少し恥じらうその姿がたまらなく可愛い。
「真壁さん? やっぱりご迷惑ですか?」
可愛すぎて見惚れていると不安げな声が聞こえた。
「あ、いえ。お手伝いいただけるのは嬉しいです。では、こちらに来てください」
さっとエプロンを取り出し、背中を向けるようにいうと素直にそれに従ってくれる。
後ろから抱きしめたくなるのを必死に抑えながらお揃いのエプロンの紐を結んだ。
「ありがとうございます。あの、私……自炊はしてましたから、一通りはなんでもできます」
「わかりました。それじゃあ今日は肉じゃがを作りますので、野菜を切ってもらえますか?」
「はい!」
嬉しそうな久代さんと一緒にキッチンに立つ。
まるで新婚夫夫のような光景に思わず頬が緩む。
さっとじゃがいもとニンジンの皮を剥いて渡すと、全く危なっかしいところもなく野菜を切っていく。
「お上手ですね」
「そんなことは……っ」
照れる久代さんを可愛いと思いながら料理を進めた。
「今日からここが久代さんの自宅ですから、遠慮せずに寛いでくださいね」
「ありがとうございます……。あ、あの真壁さんは明日はお仕事ですよね?」
「ええ。明日の朝は特に早出する予定がなければ八時ごろ家を出ます。帰りはそうですね……通常なら午後六時すぎには帰宅できると思います。食事は好きなものをデリバリーしていただいてかまいませんよ。このマンションではデリバリーはすべて無料で使えますから」
実際はコンシェルジュのほうで支払いを済ませてくれて、後でひと月分をまとめて支払うことになっている。
久代さんにお金を支払わせるつもりは毛頭ないから、このシステムでよかった。
「そんなっ、デリバリーなんてもったいないです。お昼くらい食べなくても……」
その言葉に久代さんの今までの生活が垣間見れた気がした。
この人は自分のことを労わろうとはしない。
それなら私が代わりに久代さんのこと考えるだけだ。
「わかりました。久代さんの昼食は私が用意していきます。時間になったら必ず温めて食べてください」
「えっ? 真壁さんにわざわざ用意していただくなんて申し訳ないです」
「それならしっかりと食べてください。沖野にも言われたでしょう? 必ず食事と睡眠は摂るように、と。まだ体調が万全ではないんですから、ちゃんと食事を摂って休ませないとまた倒れることになりますよ」
「は、はい……すみません……」
私に注意されて、しゅんとする久代さんが可愛い。
まるで主人に怒られた子犬のようだ。
だからつい触れてしまった。
「わかってくれて嬉しいですよ。いい子ですね」
ぽんぽんと頭を優しく叩くと久代さんはハッとした表情で私を見上げ、ほんのりと頬を染めた。
この反応……以前にも同じようなことをされたことがあるのか?
その相手はもしかしたら崇史さん、だったり?
いやいや、もう考えるのはやめよう。
以前二人にどんな関係があったとしても今は私のそばにいてくれているんだ。
今は久代さんの気持ちを私に向けられるように距離を縮めていかなくてはな。
「あの、それじゃあまだ少し早いですが夕食の支度をしますので、久代さんはゆっくり寛いでいてください。何か食べたいものはありますか?」
「えっ、食べたいもの? あの、私はなんでも……」
「それじゃあ今日は私が久代さんに召し上がっていただきたいものを作りますね。明日は必ず久代さんの食べたいものを作りますから考えていてください」
「は、はい……」
強引かとは思ったが、こうでもしないと久代さんはいつだって相手のことばかり考えてしまう。
私は久代さんをリビングに残し、キッチンに向かった。
この家で人に振る舞ったことは一度もない。
というか、この家に入ったのも周平さんくらいか。
それも引越しの時だ。成瀬たちでさえ、呼んでない気がする。
職業柄もあるが、あまり自分がどんなところに住んでいるか知られたくないという気持ちもあった。
同じように成瀬も自宅には上げないように徹底しているから、お互いにそれは暗黙のルールになっていた。
だから成瀬が真琴くんに出会ってすぐに自宅に入れたと聞いた時は耳を疑ったものだ。
でもその時の成瀬の気持ちが今なら痛いほどわかる。
それだけ特別な存在だと感じたってことだ。
きっと成瀬に久代さんを家に入れたことを話したら、やっぱりなと言われそうだ。
さて、何を作ろうか。
久代さんに食べてもらえると思うと腕が鳴る。
とりあえず和食がいいだろうと思い、ご飯を炊く準備をしていると
「あの……」
久代さんに声をかけられた。
「何か飲みますか? 冷蔵庫は好きに開けてくださって構いませんよ」
「あ、いえ。そうじゃなくて……私も、何かお手伝いできればと思って……」
「――っ!」
少し恥じらうその姿がたまらなく可愛い。
「真壁さん? やっぱりご迷惑ですか?」
可愛すぎて見惚れていると不安げな声が聞こえた。
「あ、いえ。お手伝いいただけるのは嬉しいです。では、こちらに来てください」
さっとエプロンを取り出し、背中を向けるようにいうと素直にそれに従ってくれる。
後ろから抱きしめたくなるのを必死に抑えながらお揃いのエプロンの紐を結んだ。
「ありがとうございます。あの、私……自炊はしてましたから、一通りはなんでもできます」
「わかりました。それじゃあ今日は肉じゃがを作りますので、野菜を切ってもらえますか?」
「はい!」
嬉しそうな久代さんと一緒にキッチンに立つ。
まるで新婚夫夫のような光景に思わず頬が緩む。
さっとじゃがいもとニンジンの皮を剥いて渡すと、全く危なっかしいところもなく野菜を切っていく。
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「そんなことは……っ」
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