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微かな期待
しおりを挟む急遽裁判所に用事ができて足を運んだある日、偶然氷室と会い、久しぶりに飲もうと誘われた。
しかも安慶名と成瀬も誘って四人で。
安慶名と成瀬とは定期的に三人で飲んでいるが、氷室は愛しの翼くんと同棲しているから、ここしばらくは四人で飲むことなんてなかった。だから、突然の氷室からの誘いに驚きしかない。しかも翼くんは大丈夫なのかと聞いても気にしないでいいと言ってくる。
もしかしたら翼くんへの気持ちも落ち着いたのか?
あれほど溺愛していたが、やはり月日が経つごとに気持ちは薄らいでいくものなのかもしれない。
氷室は翼くんを運命の相手だと言っていたが、あの伝説の夫夫のようになるにはまだまだ長い道のりがいるのだろうな。
友人とはいえ、恋愛事情について本人が大丈夫だと言っているのにこちらが気にかけるのもおかしいだろう。
安慶名と成瀬に声をかけて日程が決まったら連絡をするように頼んでその場を離れると。そこからにつかも経たないうちに成瀬から日時と場所の連絡が来た。
久しぶりの四人での飲みに意気揚々と出かけると、まさかの一番乗り。
続いて氷室がやってきた。翼くんを連れて……。
なるほど、これで気にしないでいいと言った理由がわかった。
相変わらず氷室の翼くんへの愛情は重かったようだ。
まぁいい子だから別に一緒に飲んでも構わないが、翼くんは楽しめるだろうか。
それだけが少し心配だった。
そこからしばらくして安慶名と成瀬が一緒にやってきた。
その二人を見て、氷室が一瞬眉を顰めたことが気になったが、それよりも私を驚かせることが起きた。
突然成瀬と安慶名の間に可愛らしい男の子が飛び出してきたのだ。
氷室の恋人である翼くんよりも随分と若い子だ。
翼くんでさえ私たちより十も年下なのに、この子は一体いくつなんだろう?
そんな疑問を抱いていたところに、成瀬の口から爆弾発言が出た。
その若く可愛らしい子が成瀬の恋人なのだ、と。
成瀬の恋人が天使のように可愛い男の子。それは構わない。
だが、未成年はダメだ。大人が手を出してはいけない。
どんなに愛し合っていたとしても、そこは警察官として見逃せない。
親友として気になるのはそこだけだ。
成瀬を犯罪者にしたくなくて少し強めに注意をすると、その可愛い彼が大学生だと教えてくれた。
しかも二十歳を過ぎていて、卒業後に成瀬の事務所に就職するために今から働いているのだという。
それを聞いて安心したものの、あのアンドロイドのような成瀬に恋人ができたことがまだ信じられない。
長い付き合いにあるが今まで見たことのない優しい表情を見せる成瀬の姿に、これは本物の成瀬なのかとただただ茫然としてしまった。
すると、今度は突然その天使のように可愛らしい男の子の隣に、驚くほどの美青年が現れた。
「「えっ? 誰?」」
氷室と声が被ったところを見ると、どうやら氷室もわからないらしい。
そんな驚く私たちに笑顔を向けたのは安慶名。
嬉しそうにその美青年の肩を抱くと、恋人だと教えてくれた。
この美人が、安慶名の恋人?
それも驚きだが、今、あの天使と同じ名字を言わなかったか?
いやいや、まさかそんなこと……流石にあるわけない。
なんとか自分に言い聞かそうとしたけれど、成瀬は普段見せたこともない笑顔を私たちに向けて
「真琴と悠真さんは兄弟なんだ。だから、俺と安慶名は、義兄弟になったんだよ」
と途轍もない爆弾を投げ込んできた。
成瀬と、安慶名が、義兄弟……。
誰にも興味を持たないあの二人を陥落させたのが、この可愛らしく美人な兄弟……。
私は今、途轍もない歴史の一ページを目の当たりにしている気がする。
ただただ茫然としながら私は向かいに座っていた氷室の隣に腰を下ろすと、成瀬と天使、安慶名と美青年は幸せそうに私たちの向かいに座った。
飲み物を選ぶ時も、料理を選ぶ時も、成瀬と安慶名が隣にいる自分の最愛にこの上ない笑顔を向ける。
私の隣ではそんな四人の姿に驚きながらも氷室は翼くんに笑顔を向ける。
私だけがまだ驚きから抜け出せていない。
みんなが幸せを手に入れているというのに、私だけが一人か……。
なんだか虚しい。
だが、親友が幸せになったことは心から祝福したい。
そんな異なる気持ちが葛藤する中、安慶名と成瀬の馴れ初めを聞く。
どちらも初めて会った時から運命を感じ、決して逃さないという気持ちで囲い込んだようだ。
考えてみれば氷室も同じようなものだった。
とすれば、私にもそんな運命を感じる相手が現れるかもしれない。
あの伝説の夫夫である志良堂教授も鳴宮教授と出会ったのは今の私よりももう少し年上だったはずだ。
その頃まで期待はしてもいいんじゃないかという気持ちが込み上げてくる。
今までは本当に諦めモードに入っていたが、安慶名はともかくあの成瀬にも運命の出会いがあったんだ。
今のままなら見逃してしまうこともあるかもしれない。
これからは少し、周りに目を向けるようにしようか。
散々驚かされまくった今日の飲み会は、私にそんな気持ちを抱かせてくれた。
しかし、それから数年が経っても私に運命との出会いは訪れなかった。
しかも安慶名と成瀬も誘って四人で。
安慶名と成瀬とは定期的に三人で飲んでいるが、氷室は愛しの翼くんと同棲しているから、ここしばらくは四人で飲むことなんてなかった。だから、突然の氷室からの誘いに驚きしかない。しかも翼くんは大丈夫なのかと聞いても気にしないでいいと言ってくる。
もしかしたら翼くんへの気持ちも落ち着いたのか?
あれほど溺愛していたが、やはり月日が経つごとに気持ちは薄らいでいくものなのかもしれない。
氷室は翼くんを運命の相手だと言っていたが、あの伝説の夫夫のようになるにはまだまだ長い道のりがいるのだろうな。
友人とはいえ、恋愛事情について本人が大丈夫だと言っているのにこちらが気にかけるのもおかしいだろう。
安慶名と成瀬に声をかけて日程が決まったら連絡をするように頼んでその場を離れると。そこからにつかも経たないうちに成瀬から日時と場所の連絡が来た。
久しぶりの四人での飲みに意気揚々と出かけると、まさかの一番乗り。
続いて氷室がやってきた。翼くんを連れて……。
なるほど、これで気にしないでいいと言った理由がわかった。
相変わらず氷室の翼くんへの愛情は重かったようだ。
まぁいい子だから別に一緒に飲んでも構わないが、翼くんは楽しめるだろうか。
それだけが少し心配だった。
そこからしばらくして安慶名と成瀬が一緒にやってきた。
その二人を見て、氷室が一瞬眉を顰めたことが気になったが、それよりも私を驚かせることが起きた。
突然成瀬と安慶名の間に可愛らしい男の子が飛び出してきたのだ。
氷室の恋人である翼くんよりも随分と若い子だ。
翼くんでさえ私たちより十も年下なのに、この子は一体いくつなんだろう?
そんな疑問を抱いていたところに、成瀬の口から爆弾発言が出た。
その若く可愛らしい子が成瀬の恋人なのだ、と。
成瀬の恋人が天使のように可愛い男の子。それは構わない。
だが、未成年はダメだ。大人が手を出してはいけない。
どんなに愛し合っていたとしても、そこは警察官として見逃せない。
親友として気になるのはそこだけだ。
成瀬を犯罪者にしたくなくて少し強めに注意をすると、その可愛い彼が大学生だと教えてくれた。
しかも二十歳を過ぎていて、卒業後に成瀬の事務所に就職するために今から働いているのだという。
それを聞いて安心したものの、あのアンドロイドのような成瀬に恋人ができたことがまだ信じられない。
長い付き合いにあるが今まで見たことのない優しい表情を見せる成瀬の姿に、これは本物の成瀬なのかとただただ茫然としてしまった。
すると、今度は突然その天使のように可愛らしい男の子の隣に、驚くほどの美青年が現れた。
「「えっ? 誰?」」
氷室と声が被ったところを見ると、どうやら氷室もわからないらしい。
そんな驚く私たちに笑顔を向けたのは安慶名。
嬉しそうにその美青年の肩を抱くと、恋人だと教えてくれた。
この美人が、安慶名の恋人?
それも驚きだが、今、あの天使と同じ名字を言わなかったか?
いやいや、まさかそんなこと……流石にあるわけない。
なんとか自分に言い聞かそうとしたけれど、成瀬は普段見せたこともない笑顔を私たちに向けて
「真琴と悠真さんは兄弟なんだ。だから、俺と安慶名は、義兄弟になったんだよ」
と途轍もない爆弾を投げ込んできた。
成瀬と、安慶名が、義兄弟……。
誰にも興味を持たないあの二人を陥落させたのが、この可愛らしく美人な兄弟……。
私は今、途轍もない歴史の一ページを目の当たりにしている気がする。
ただただ茫然としながら私は向かいに座っていた氷室の隣に腰を下ろすと、成瀬と天使、安慶名と美青年は幸せそうに私たちの向かいに座った。
飲み物を選ぶ時も、料理を選ぶ時も、成瀬と安慶名が隣にいる自分の最愛にこの上ない笑顔を向ける。
私の隣ではそんな四人の姿に驚きながらも氷室は翼くんに笑顔を向ける。
私だけがまだ驚きから抜け出せていない。
みんなが幸せを手に入れているというのに、私だけが一人か……。
なんだか虚しい。
だが、親友が幸せになったことは心から祝福したい。
そんな異なる気持ちが葛藤する中、安慶名と成瀬の馴れ初めを聞く。
どちらも初めて会った時から運命を感じ、決して逃さないという気持ちで囲い込んだようだ。
考えてみれば氷室も同じようなものだった。
とすれば、私にもそんな運命を感じる相手が現れるかもしれない。
あの伝説の夫夫である志良堂教授も鳴宮教授と出会ったのは今の私よりももう少し年上だったはずだ。
その頃まで期待はしてもいいんじゃないかという気持ちが込み上げてくる。
今までは本当に諦めモードに入っていたが、安慶名はともかくあの成瀬にも運命の出会いがあったんだ。
今のままなら見逃してしまうこともあるかもしれない。
これからは少し、周りに目を向けるようにしようか。
散々驚かされまくった今日の飲み会は、私にそんな気持ちを抱かせてくれた。
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