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卓さんの葛藤と思い
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<side絢斗>
「今日の件だが……」
二人きりで部屋に戻ってすぐに、卓さんが話題を切り出した。
「こっちに座ってゆっくり聞かせて」
卓さんの手を取って一緒にソファーに座る。
直くんに関することで卓さんと昇くんが考えたことなら心配はない。
私は黙ってその結果を聞くだけだ。
「昇から、直くんの改名を提案されて、父と賢将さんにも相談してみたが二人とも大賛成でね。改名することにしたよ。明日から手続きに入る」
「直くんの、改名……」
「絢斗の意見を聞かずに決めてしまってすまない。だが、改名は直くんのためにも必要なことなんだ。だから……」
卓さんは私に決定事項を伝えてしまったことを気にしているみたいだけど、名前のことは私も気に掛かっていた。
改名するのはかなりの決断が必要だけれど、そこに行き着くまでの何かの事態があったのだろう。
「名前について、直くんが何か言ったの?」
「いや、夢で魘されていたらしい。自分の名前を実母に怒鳴られてずっと呼ばれていたようでトラウマになっていたようだ。それで昇が改名をした方がいいって提案してきたんだよ」
だからか。
自分で名前を呼ぶ分には問題なくても、直純と呼ばれた時は必ず身体を震わせていた。
だからカールが早々に「ナオ」と呼び出してホッとしていた。
外国人にとってナオズミという発音が難しくて良かったってあの時思ったもんね。
「卓さんは最初から昇くんの提案に賛成していたんじゃない?」
「そうだな。私も直くんの反応は気になっていたからな」
「それじゃあどうしてお父さんたちに意見を聞きに行ったの? 他にも何か気になることがあった?」
私の問いかけに卓さんは少し考えてからゆっくりと口を開いた。
「直くんの……父親のことを考えたんだ」
「お父さんのこと?」
「もし、あの名前を直くんの父親が考えたものだったら、彼の意見を聞かずに改名してしまったら、ますます父親と直くんの繋がりがなくなってしまうんじゃないかと心配したんだよ。直くんは父親から別れの手紙を受け取って泣いていただろう? 同じように直くんが改名したと父親が知れば、自分の息子であるという気持ちが薄らいで傷つけてしまうんじゃないかと……」
卓さんは直くんだけじゃなく、直くんのお父さんのこともちゃんと考えていたんだ。
「だが、本当に子どものことを思うなら、自分の思いより子どもの気持ちを優先させるものだと父に言われて納得した。私は直くんよりも父親の気持ちを優先しようと思っていたのかも知れない。一番に考えないといけないのは直くんだったのに……」
卓さんの声が少し震えている気がする。
きっと卓さんはいろんなことを考えたんだろう。
だからこそ、自分の意見だけで決断するのではなく第三者の意見を聞きに行った。
「そっか。さすがお義父さんだね。でも卓さんの気持ちも大事なことだと思うよ。お父さんのこともだけど、直くんがもし、自分の名前の由来を知っていたら、そしてそれがお父さんのつけてくれたものだと知っていたら、トラウマがある名前だけどそれ以上に悲しみを抱くかもしれない。そういうことも考えたんでしょう?」
卓さんの頷きが全てを物語っている気がした。
「卓さんは皆の気持ちを一番に考えたんだよ。だから、気に病むことはないよ。それにね、私……思うんだ」
私が声をかけると、卓さんが私をじっと見つめる。だから私はそのまま言葉を続けた。
「直くんのお父さんが名前をつけたなら、<直>にしたんじゃないかって」
「なぜだ?」
「だって、直くんのお父さんの名前……保だよ。卓さんたちみたいに、息子にも漢字一文字の名前をつけようって思ってもおかしくないんじゃない?」
私の言葉に卓さんがハッとする。
「まぁ、これは私の推測だし、名前の付け方なんてそれぞれで正解があるわけじゃないけど、もしかしたらお母さんがつけた名前かもしれないって可能性もあるよ。お母さんって「美代」って名前だったよね? 「純美」なんて言葉もあるし、もしかしたら自分の名前に関連づけた名前をつけようと思って一文字足したのかも……。そういう可能性だってある。そういったいろんな可能性がある中で、改名したら今度は本当に直くんのことだけを考えてつけた名前になるってこと。直くんもそれはきっと喜ぶんじゃないかな?」
「そう、だな……。その通りだ」
卓さんの表情から憂いが消えていくのがわかる。
改名することに決めてもまだ少し葛藤があったんだろう。
私の言葉で気持ちが晴れやかになったのならよかった。
「直くんにはいつ話すの?」
「受験の時には、新しい名前で書いてもらいたいから、父たちの引っ越しの後にでも話そうと思う」
「うん。それがいいと思う。新しい名前で新しい学校に通う。気持ちもしっかり切り替えられるね」
これで直くんの心も落ち着きそうだ。
「今日の件だが……」
二人きりで部屋に戻ってすぐに、卓さんが話題を切り出した。
「こっちに座ってゆっくり聞かせて」
卓さんの手を取って一緒にソファーに座る。
直くんに関することで卓さんと昇くんが考えたことなら心配はない。
私は黙ってその結果を聞くだけだ。
「昇から、直くんの改名を提案されて、父と賢将さんにも相談してみたが二人とも大賛成でね。改名することにしたよ。明日から手続きに入る」
「直くんの、改名……」
「絢斗の意見を聞かずに決めてしまってすまない。だが、改名は直くんのためにも必要なことなんだ。だから……」
卓さんは私に決定事項を伝えてしまったことを気にしているみたいだけど、名前のことは私も気に掛かっていた。
改名するのはかなりの決断が必要だけれど、そこに行き着くまでの何かの事態があったのだろう。
「名前について、直くんが何か言ったの?」
「いや、夢で魘されていたらしい。自分の名前を実母に怒鳴られてずっと呼ばれていたようでトラウマになっていたようだ。それで昇が改名をした方がいいって提案してきたんだよ」
だからか。
自分で名前を呼ぶ分には問題なくても、直純と呼ばれた時は必ず身体を震わせていた。
だからカールが早々に「ナオ」と呼び出してホッとしていた。
外国人にとってナオズミという発音が難しくて良かったってあの時思ったもんね。
「卓さんは最初から昇くんの提案に賛成していたんじゃない?」
「そうだな。私も直くんの反応は気になっていたからな」
「それじゃあどうしてお父さんたちに意見を聞きに行ったの? 他にも何か気になることがあった?」
私の問いかけに卓さんは少し考えてからゆっくりと口を開いた。
「直くんの……父親のことを考えたんだ」
「お父さんのこと?」
「もし、あの名前を直くんの父親が考えたものだったら、彼の意見を聞かずに改名してしまったら、ますます父親と直くんの繋がりがなくなってしまうんじゃないかと心配したんだよ。直くんは父親から別れの手紙を受け取って泣いていただろう? 同じように直くんが改名したと父親が知れば、自分の息子であるという気持ちが薄らいで傷つけてしまうんじゃないかと……」
卓さんは直くんだけじゃなく、直くんのお父さんのこともちゃんと考えていたんだ。
「だが、本当に子どものことを思うなら、自分の思いより子どもの気持ちを優先させるものだと父に言われて納得した。私は直くんよりも父親の気持ちを優先しようと思っていたのかも知れない。一番に考えないといけないのは直くんだったのに……」
卓さんの声が少し震えている気がする。
きっと卓さんはいろんなことを考えたんだろう。
だからこそ、自分の意見だけで決断するのではなく第三者の意見を聞きに行った。
「そっか。さすがお義父さんだね。でも卓さんの気持ちも大事なことだと思うよ。お父さんのこともだけど、直くんがもし、自分の名前の由来を知っていたら、そしてそれがお父さんのつけてくれたものだと知っていたら、トラウマがある名前だけどそれ以上に悲しみを抱くかもしれない。そういうことも考えたんでしょう?」
卓さんの頷きが全てを物語っている気がした。
「卓さんは皆の気持ちを一番に考えたんだよ。だから、気に病むことはないよ。それにね、私……思うんだ」
私が声をかけると、卓さんが私をじっと見つめる。だから私はそのまま言葉を続けた。
「直くんのお父さんが名前をつけたなら、<直>にしたんじゃないかって」
「なぜだ?」
「だって、直くんのお父さんの名前……保だよ。卓さんたちみたいに、息子にも漢字一文字の名前をつけようって思ってもおかしくないんじゃない?」
私の言葉に卓さんがハッとする。
「まぁ、これは私の推測だし、名前の付け方なんてそれぞれで正解があるわけじゃないけど、もしかしたらお母さんがつけた名前かもしれないって可能性もあるよ。お母さんって「美代」って名前だったよね? 「純美」なんて言葉もあるし、もしかしたら自分の名前に関連づけた名前をつけようと思って一文字足したのかも……。そういう可能性だってある。そういったいろんな可能性がある中で、改名したら今度は本当に直くんのことだけを考えてつけた名前になるってこと。直くんもそれはきっと喜ぶんじゃないかな?」
「そう、だな……。その通りだ」
卓さんの表情から憂いが消えていくのがわかる。
改名することに決めてもまだ少し葛藤があったんだろう。
私の言葉で気持ちが晴れやかになったのならよかった。
「直くんにはいつ話すの?」
「受験の時には、新しい名前で書いてもらいたいから、父たちの引っ越しの後にでも話そうと思う」
「うん。それがいいと思う。新しい名前で新しい学校に通う。気持ちもしっかり切り替えられるね」
これで直くんの心も落ち着きそうだ。
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