ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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特別メニューと特別講座

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<side昇>

二時間目の授業が終わり、俺たちは急いでそれぞれの場所に散らばった。
昼食にしてもよかったが、それまで待っていられない。
村山は二人分の飲み物を買いに、俺は二人分の荷物を持って生徒会室の鍵を開けに行った。

いつものように教室で食べてもよかったが、お互いに特別メニューを持ってきているのだから他の奴らに邪魔されたくない。生徒会役員の任期は俺も村山も終わっているけれど、特権として先生から使っていい許可をもらっている。

俺はテーブルに二人分の荷物を用意してすぐに食べられる準備を整えて村山が来るのを待った。

「お待たせ!」

村山の手にはお茶のペットボトルが二本。どちらも冷たいものだ。

「じゃあ、食べようぜ」

「村山が開けるところを動画に撮ってやるよ」

こんな機会もそうそうないからな。

嬉しそうに弁当箱を開ける村山にカメラを向けると、弁当箱が開いた瞬間驚きと喜びが混ざったような表情を見せた。

慌てて弁当箱にカメラを向けると、そこには可愛い犬の絵が描かれたキャラ弁があった。
どうやら村山がプレゼントしたぬいぐるみの犬の絵のようだ。

「すげー! これ、チーズに海苔で絵が描いてあるぜ!」

「本当だ! これはすごいな」

「カール、絵が得意だとは聞いてたけど、こんなこともできるんだな」

お弁当箱にはそれ以外にも卵焼きや唐揚げといった定番のおかずが並び、犬の絵が描かれたチーズの下には一口サイズの丸いおにぎりが六個も入っている。

「村山の母さんも張り切ってカールに教えたんだろうな。これ、全部カールの手作りだろ?」

村山の母さんが作る弁当がどれほど上手か、今まで何度も見ているからわかっている。
でも今日の卵焼きも唐揚げも少し焦げている。これは絶対にカールが作ったものだ。

「村山、愛されてるな」

「ああ、俺も何かお返ししないとな」

村山は少し焦げた卵焼きを口に放り込むと幸せそうな表情を見せた。
その瞬間をちゃんと写真におさめておいた。

「今度はお前の特別メニューも見せてくれよ」

さっとスマホを取り出した村山を見て笑いながら、俺は直くんの弁当箱に手をかけた。

「なんだろうな。早く開けろよ」

「俺以上にワクワクすんな」

村山に指摘しながらゆっくりと開けると、目に飛び込んできたのはボリュームたっぷりのカツサンド。

「おおー! めっちゃうまそう!」

あまりの凄さに村山も身を乗り出してみている。
でも本当、このボリューム。直くんなら口に入らないだろうな。

「磯山、食べてみろよ」

「ああ」

俺がカツサンドを手にすると、カメラマンのようにさっと構えてくれる。
そのカメラの向こうに直くんがいると思いながら大きな口を開けてかぶり付いた。

パシャパシャとシャッター音が聞こえる中、分厚くてジューシーなカツサンドを頬張った。

「んー! 最高だな」

そこからはお互いに自分の愛しい人がどれだけ美味しいものを作ってくれたかを惚気合いながら、あっという間に完食した。
そして、空っぽになった弁当箱の写真と、さっきのかぶりついている写真と共に直くんにメッセージを送った。

<めちゃくちゃ美味しかったよ! カツサンド最高!! 直くん、ありがとう!!>

いつもならメッセージを送るとすぐに既読になるけれど、今日は全く反応がない。

「村山、カールはメッセージ呼んでるか?」

「いや、既読にならないな。今の時間なら講義に参加中かもな」

カールは多分そうだろう。でも直くんは?
じいちゃんたちと何かしていてそれに夢中で俺のメッセージに気づいていないとか?

とりあえず昼になったらもう一度送ってみようか。
気になりつつも俺たちは急いで片付けて自分の教室に向かった。

<side絢斗>

カールくんが参加した講義は学生たちにとっても実りの多い有意義なものとなった。
元々カールくんはドイツの高校をスキップするほどの優秀な生徒だし、桜城大学で法学を学ぼうと意欲的な子。
海外と日本の考えの相違もしっかりとわかった上でディベートに参加してくれたから、学生たちも感心しきりだった。

そんなカールくんと対等に話ができていた直くんの姿に正直言って驚きしかなかった。
優秀な子だとはわかっていたけれど、ここまでしっかりとした意見を言える子だったなんて。
自分のことを伝えるのはトラウマもあってまだまだ難しいけれど、勉強での意見は言えるんだと改めて理解した。

次の授業はさっきと違ってディベートではないけれど、講義を聞いてもらって最後にそれぞれの意見交換をする大事な授業。そこに参加してもらうことにした。

リモート授業用のマイク付きベッドフォンをつけてカールくんと共に講義を聞いてもらう。

「今日は君たちの授業で勉強したいと言っている後輩たちが特別にこの講義に参加しているから、しっかりと授業を聞いて自分の意見をまとめてね。最後に彼らから質問も出てくると思うから答えられるようにしておいて」

画面の向こうの学生たちにそう告げると一瞬にして緊張感が走った。
彼らも難関を突破してこの桜城大学に入ってきた子たちだ。後輩に恥ずかしいところは見せられない。そんな雰囲気が漂っている。けれど、その緊張感がある意味真剣さを増していて、講義をしていてもみんなの意識が高くなっているのがわかる。

直くんとカールくんの存在は学生たちに対してもいい刺激になっているのかもしれない。

けれど、やっぱり際立つのは直くんの集中力と真剣さ。
私が学生たちに語りかけて説明している間もずっと直くんのメモを取る手が休むことはなかった。

そしてあっという間に講義も終盤。
それぞれが思ったことを述べていくのだけれど、直くんとカールくんにも意見がないかを求めると、直くんがゆっくりと口を開いた。

「あの、この部分ですが…………」

その意見に学生たちは一斉に口を噤んだ。まさか中学生の直くんから発せられたとは思えない的確な意見に学生たちはみんな驚いてしまっている。
そこにカールくんが付け足すように意見を入れると、直くんとカールくんで意見の交換が始まり、学生たちは黙ってそれを聞いているだけ。いや、その意見を全てノートにとりまくっているのが見える。それほど二人の意見が的を射ているという事だ。

私が最後に直くんとカールくんの意見の回答を告げると二人はぱあっと顔を綻ばせて納得した表情を見せてくれた。
その表情に学生たちの表情も一気に緩む。
そしてそのまま講義は終わった。

<緑川教授! またその子たちと一緒に講義受けたいです!!>

講義が終わってからそんな要望がひっきりなしに学生たちからメッセージとして送られてくる。
それほど彼ら学生にとっても有意義な時間を過ごしたのだろう。

いつかまたそんな機会があれば、学生たちのためにも考えてみてもいいかもしれない。
そんな気持ちが浮かんでいた。
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