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直くんの友だち
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<side寛(卓の父)>
なんと呼ばれたいか、そう尋ねられていろんな呼び名が頭をよぎった。
じいじも良い。
昇と同じじいちゃんと呼ばれてもそれは可愛い。
おじいさまも可愛いかもしれない。
んっ? それなら『おじいちゃま』がいいか。
直くんに呼ばれるならおじいさまよりおじいちゃまが可愛くていい。
そう考えた瞬間、もう口からその言葉が出ていた。
――『おじいちゃま』と呼んでほしい。
私の言葉に卓も昇も目を丸くしていたが、直くんは素直に私を『おじいちゃま』と呼んでくれた。
その可愛い口調がたまらなく愛おしい。
自分のキャラではないなどと考える必要もない。
私はこれからは直くんの『おじいちゃま』だ。
食事を終え、卓と昇が片付けをしている間にソファーに腰を下ろすと直くんはさっとリビングから出て行った。
と思ったらすぐに両手に可愛いペンギンとクマのぬいぐるみを抱えてトコトコと戻ってきた。
「おじいちゃま、見てください」
「おお、可愛い子達だな」
「この子たち、昇さんとパパとあやちゃんが買ってくれたんです」
「そうか。こっちに来てもっと近くで見せてくれ」
手を伸ばすと素直に近づいてくれて、そのままソファーに座る私のすぐ隣に座らせた。
直くんは自分と私の膝に小さなペンギンとそれより少し大きなクマのぬいぐるみを乗せてくれた。
そのもふもふとした感触に思わず笑みが溢れる。
「このペンギンは写真で見たな。エプロンをつけていただろう?」
「あ、はい。それおじいちゃんのお部屋に遊びに行った時です。一緒にお好み焼き作って食べたんですよ」
「ああ、そうだったな。賢将じいちゃんの部屋は楽しかったか?」
「はい。すっごく広くてびっくりしました」
この前来ていた連絡では、アフリカから帰国して友人の息子のマンションを借りていると話していたな。
そうか。そんなにすごい部屋なのか。
「今度は私の家にも遊びにおいで」
「わぁー、行きたいです!」
素直に喜んでくれるのが可愛い。
「あの、部屋にまだいっぱいお友だちのぬいぐるみがいるんです」
「そうか、じゃあ私にも紹介してもらおうかな」
「はい!」
ぬいぐるみを両手に抱えた直くんを支えるようにソファーから下ろすと
「おじいちゃま、来てください!」
と嬉しそうに私に声をかけてくれる。
その小さな身体の後ろからついていくと
「こっちが僕の部屋で、こっちが昇さんの部屋です」
と教えてくれながら、なぜか直くんは昇の部屋を開けた。
「んっ? こっちに入るのか?」
「はい。ベッドにいっぱいいますよ」
直くんの言葉を不思議に思いつつも中に入ると、明らかに昇の部屋なのにベッドの上に大きなクマとペンギンのぬいぐるみが並んでいるのが見える。
「どうしてこのベッドに直くんのお友だちがいるのかな?」
「僕が目を覚ました時に一人じゃ寂しくないようにいてくれてるんです」
目を覚ました時に?
ということは、昇と二人で寝ている?
想像していなかった事実に驚きつつ表情には出さずに直くんに聞いてみた。
「そうか。いつもは昇が一緒なんだな」
「そうなんです。でも昇さんがお勉強している時は先にこの子たちと一緒に寝ているので寂しくないですよ」
「良い友達がいてよかったな」
どんな経緯で昇と一緒に寝るようになったのかはわからんが、この様子を見ると文字通り寝ているだけのように見える。
高校生の昇にとってはある意味苦行のようなものだろうが、それも直くんのこの笑顔を守るためだと自らを奮い立たせているのかもしれない。昇は守るべき相手ができて、大人になったのだろうな。
「あ、じいちゃん。ここにいたの?」
「ああ。直くんの可愛い友だちを紹介してもらっていたんだ」
「そうなんだ。あの、こっちがじいちゃんが泊まる部屋だよ。俺と直くんで準備しておいたんだ」
「直くんも準備してくれたのか?」
「はい。おじいちゃまにゆっくり休んでほしくて……」
「そうか、ありがとう」
孫二人に部屋を整えてもらうなんて祖父としてなんと幸せなんだろうな。
そんな話をしている最中、どこからかスマホの着信音が聞こえた。
「あ、ごめん。俺だ」
昇はさっとポケットからスマホを取り出し、電話をとった。
しばらく相手と話をしていたが、どこかに出かけるようだ。
電話を切ってから直くんに声をかけた。
「村山たちと出かけるの、日曜日に決まったよ。とりあえずランチはタコスにしようってことで話をしておいたからあとはカールの行きたい場所をめぐろうか」
「わぁー、楽しみです!」
「あとは出かける時の足だよな……。伯父さんに頼んでくるよ」
バタバタと駆けていく昇を見送り、私は直くんに尋ねた。
「日曜日出かけるのかな?」
「はい。実は今、昇さんのドイツのお友だち……カールくんって言うんですけど、その子が日本に来ていて、昇さんのお友だちの村山くんのお家でホームステイしてるんです。それでみんなでお出かけしようって……」
「それは楽しそうだな。久しぶりに龍弥くんにも会いたいし、私も一緒に連れて行ってもらおうかな」
「おじいちゃまも一緒に? それはすっごく楽しそうです!!」
私の突然の思いつきにも笑顔で賛同してくれる直くんの優しさに。私は笑顔が隠せなかった。
なんと呼ばれたいか、そう尋ねられていろんな呼び名が頭をよぎった。
じいじも良い。
昇と同じじいちゃんと呼ばれてもそれは可愛い。
おじいさまも可愛いかもしれない。
んっ? それなら『おじいちゃま』がいいか。
直くんに呼ばれるならおじいさまよりおじいちゃまが可愛くていい。
そう考えた瞬間、もう口からその言葉が出ていた。
――『おじいちゃま』と呼んでほしい。
私の言葉に卓も昇も目を丸くしていたが、直くんは素直に私を『おじいちゃま』と呼んでくれた。
その可愛い口調がたまらなく愛おしい。
自分のキャラではないなどと考える必要もない。
私はこれからは直くんの『おじいちゃま』だ。
食事を終え、卓と昇が片付けをしている間にソファーに腰を下ろすと直くんはさっとリビングから出て行った。
と思ったらすぐに両手に可愛いペンギンとクマのぬいぐるみを抱えてトコトコと戻ってきた。
「おじいちゃま、見てください」
「おお、可愛い子達だな」
「この子たち、昇さんとパパとあやちゃんが買ってくれたんです」
「そうか。こっちに来てもっと近くで見せてくれ」
手を伸ばすと素直に近づいてくれて、そのままソファーに座る私のすぐ隣に座らせた。
直くんは自分と私の膝に小さなペンギンとそれより少し大きなクマのぬいぐるみを乗せてくれた。
そのもふもふとした感触に思わず笑みが溢れる。
「このペンギンは写真で見たな。エプロンをつけていただろう?」
「あ、はい。それおじいちゃんのお部屋に遊びに行った時です。一緒にお好み焼き作って食べたんですよ」
「ああ、そうだったな。賢将じいちゃんの部屋は楽しかったか?」
「はい。すっごく広くてびっくりしました」
この前来ていた連絡では、アフリカから帰国して友人の息子のマンションを借りていると話していたな。
そうか。そんなにすごい部屋なのか。
「今度は私の家にも遊びにおいで」
「わぁー、行きたいです!」
素直に喜んでくれるのが可愛い。
「あの、部屋にまだいっぱいお友だちのぬいぐるみがいるんです」
「そうか、じゃあ私にも紹介してもらおうかな」
「はい!」
ぬいぐるみを両手に抱えた直くんを支えるようにソファーから下ろすと
「おじいちゃま、来てください!」
と嬉しそうに私に声をかけてくれる。
その小さな身体の後ろからついていくと
「こっちが僕の部屋で、こっちが昇さんの部屋です」
と教えてくれながら、なぜか直くんは昇の部屋を開けた。
「んっ? こっちに入るのか?」
「はい。ベッドにいっぱいいますよ」
直くんの言葉を不思議に思いつつも中に入ると、明らかに昇の部屋なのにベッドの上に大きなクマとペンギンのぬいぐるみが並んでいるのが見える。
「どうしてこのベッドに直くんのお友だちがいるのかな?」
「僕が目を覚ました時に一人じゃ寂しくないようにいてくれてるんです」
目を覚ました時に?
ということは、昇と二人で寝ている?
想像していなかった事実に驚きつつ表情には出さずに直くんに聞いてみた。
「そうか。いつもは昇が一緒なんだな」
「そうなんです。でも昇さんがお勉強している時は先にこの子たちと一緒に寝ているので寂しくないですよ」
「良い友達がいてよかったな」
どんな経緯で昇と一緒に寝るようになったのかはわからんが、この様子を見ると文字通り寝ているだけのように見える。
高校生の昇にとってはある意味苦行のようなものだろうが、それも直くんのこの笑顔を守るためだと自らを奮い立たせているのかもしれない。昇は守るべき相手ができて、大人になったのだろうな。
「あ、じいちゃん。ここにいたの?」
「ああ。直くんの可愛い友だちを紹介してもらっていたんだ」
「そうなんだ。あの、こっちがじいちゃんが泊まる部屋だよ。俺と直くんで準備しておいたんだ」
「直くんも準備してくれたのか?」
「はい。おじいちゃまにゆっくり休んでほしくて……」
「そうか、ありがとう」
孫二人に部屋を整えてもらうなんて祖父としてなんと幸せなんだろうな。
そんな話をしている最中、どこからかスマホの着信音が聞こえた。
「あ、ごめん。俺だ」
昇はさっとポケットからスマホを取り出し、電話をとった。
しばらく相手と話をしていたが、どこかに出かけるようだ。
電話を切ってから直くんに声をかけた。
「村山たちと出かけるの、日曜日に決まったよ。とりあえずランチはタコスにしようってことで話をしておいたからあとはカールの行きたい場所をめぐろうか」
「わぁー、楽しみです!」
「あとは出かける時の足だよな……。伯父さんに頼んでくるよ」
バタバタと駆けていく昇を見送り、私は直くんに尋ねた。
「日曜日出かけるのかな?」
「はい。実は今、昇さんのドイツのお友だち……カールくんって言うんですけど、その子が日本に来ていて、昇さんのお友だちの村山くんのお家でホームステイしてるんです。それでみんなでお出かけしようって……」
「それは楽しそうだな。久しぶりに龍弥くんにも会いたいし、私も一緒に連れて行ってもらおうかな」
「おじいちゃまも一緒に? それはすっごく楽しそうです!!」
私の突然の思いつきにも笑顔で賛同してくれる直くんの優しさに。私は笑顔が隠せなかった。
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