ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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決定事項

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<side昇>

絢斗さんの運転で自宅に戻ると、まだ伯父さんは帰ってなかった。

「昇さん、来てください!」

玄関に入るなりはしゃいだ様子の直くんに手を引かれて中に入ると、リビングのソファーにペンギンたちが並んで座っているのが見えた。

「わっ! すごい!」

「この子たち、家族なんですよ。パパとあやちゃんが買ってくれたんです」

小さなペンギンを抱いたままそのペンギンたちに近づいた直くんは、嬉しそうにその真ん中に腰を下ろした。
大きなペンギンを両脇に従え、小さなペンギンと俺が買ったペンギンを両腕で抱きかかえる様子は見ているだけで癒される。

そのあまりの可愛さに俺は急いでスマホを取り出した。

「直くん、可愛い! すっごく可愛いよ!!」

興奮しすぎてシャッターを押すのが止められない。
パシャパシャと連射する音が鳴り響く間、直くんは笑顔で俺を見つめてくれていた。

直くんが可愛すぎてどうしようもできない状態になることがあることをあの時伝えておいて本当に正解だったな。

「直くん、こっちも向いて」

いつの間にか絢斗さんも一緒に直くんとペンギンたちの写真を撮っていた。
こんなに可愛いんだから当たり前か。

そんなことをしている間に、駐車場に伯父さんの車が入ってきたのを知らせる音が聞こえた。

「あ、伯父さん。帰ってきたみたい」

でもなかなか玄関チャイムが鳴らない。

「もしかしたら事務所に寄ってるのかもね」

「そっか。そうかも」

今日は裁判所から直帰だって言ってたし、確かにそれはあるかもな。
なんて思っているとようやく玄関チャイムが鳴り、インターフォンに外の様子が映し出された。

「あれ? なんかおっきな荷物ふたつも持ってるよ」

「ふたつ?」

不思議そうな絢斗さんを残して急いで玄関を開けて、伯父さんの荷物を一つ受け取った。
冷蔵らしいこの荷物は意外と重さがある。

伯父さんが、俺の後ろから出迎えにきた直くんと絢斗さんと帰宅の挨拶をしたのを見届けてから一緒にリビングに向かいなんの荷物かを尋ねると、どうやら伯父さんが持っている方はホットプレートらしい。
なるほど。あの動画を見てうちでもしようと思ったのか。伯父さんらしい。

直くんのあの表情を見たらうちでもやってやりたいと思うのは当然かもしれない。

俺の方にある荷物が食材だと聞いて、急いでカッターナイフを取りに行き、中を傷つけないように箱を開けた。
中には滅多にお目にかかれないようなデカいステーキ肉が家族の人数よりもたくさん入っていて、テンションが上がる。
肉を全部取り出すとその下には可愛い天使が描かれたマンゴーの箱が出てきた。

取り出して箱を開けてみると、直くんの顔くらいある大きなマンゴーが5個も入っている。
真っ赤に熟していて美味しそうだ。

「はい。直くん。匂ってみて。すごく甘い匂いするよ」

一番小さいのを選んで渡したけれど、それでも重みがある。
それを両手で包み込みように受け取った直くんは少し緊張した様子で鼻を近づけた。
初めてのものを目にしたらこんな反応は当然だろうな。

「わぁー! 本当に甘い匂いがします」

何度も嬉しそうに匂いを嗅ぐと、そっと箱に戻した。
そして箱に描かれた天使の絵を見て

「可愛い……」

と呟いた。

「ねぇ、伯父さん。これって、前に宗一郎さんのところで食べた悠真さんのところのマンゴーだよね? 天使のマンゴーって名前だったんだ? 知らなかった」

「ああ、そうだ。この絵の天使は、悠真くんの弟の真琴くんがモデルになってるそうだよ。直くんが気になったなら、その天使くんに今度会いに行こう」

「えっ? いいんですか?」

「ああ。もちろんだ。志良堂に連絡しておくよ。さぁ、着替えたら、夕食の準備をするから昇は食材をキッチンに運んでおいてくれ」

伯父さんが絢斗さんと一緒に部屋に向かうのを見送って、俺はデカいステーキ肉をキッチンに運んだ。
直くんはその間もずっとマンゴーと箱に描かれた天使に釘付けになっていた。


「さぁ、食べようか」

あっという間に食べる準備ができて直くんと一緒に席に着くと、テーブルに鉄板焼き屋のような大きなプレートが置かれていた。

「伯父さん、すごいね。これ、本当にホットプレート? こんなすごいの見たことないよ」

「ああ。桜城大学の卒業生の子が開発したもので、一般販売はされてないんだよ。プロ仕様の鉄板だそうだからステーキも美味しく焼けるよ」

伯父さんがさっきにステーキ肉を載せると、ジューッ! と美味しそうな音と匂いが漂ってくる。

直くんは興味津々でその肉が焼けるのを見つめていた。

伯父さんはシェフのように肉を焼くと、その鉄板の上でさっと食べやすい大きさに切り分けた。
絢斗さんと直くんのお皿に取り分け、

「美味しいよ、食べてごらん」

と笑顔を見せる。

「わぁー、美味しそう! 直くん、食べよう」

「はい。パパ、いただきます」

直くんと絢斗さんは同じタイミングでパクリと口に入れると、目を丸くして

「んー!! 美味しい!!」

と一緒に声をあげた。本当に直くんと絢斗さんは親子みたいだ。

二人の幸せそうな顔に癒されていると、伯父さんは俺の皿にはどんと一枚で載せる。
どうやら自分で好きなように切れということらしい。
まぁ俺も直くんたちのようにして欲しいと思っていないから構わないけど。

肉にナイフを入れると、驚くほど柔らかくあっという間に切れていく。
こんなに分厚いのに信じられない。

「すごいだろう?」

「うん。本当に! こんなステーキが家で食べられるなんて信じられない!」

「お肉ももちろん美味しいが、この鉄板が肉を美味しく焼いてくれるんだよ。さすがだな、倉橋くんの開発したものは」

「えっ? これ、倉橋さんが作ったものなの?」

「ああ。しかも今までのものよりバージョンアップしているものだそうだからすごいぞ。実は使ってみて感想を聞かせて欲しいって言われているんだ。だから昇も気がついたことがあったらなんでも言ってくれ」

直くんや絢斗さんが使っているシャンプーなんかも倉橋さんが作ったものだと聞いていたし、業種問わずになんでもできる天才だと思っていたけど、まさかこんなすごいものまで開発しているなんて……。想像以上の天才だな。

「ねぇ、卓さん。こんなすごい鉄板で餃子焼いたら美味しそうだね」

「ああ、中谷くんも娘さんと餃子を焼いてるって言ってたよ」

「じゃあ、うちでも餃子焼きたい!」

「そうだな。近いうちにしようか」

「あ、それなら皐月も呼ぼうよ」

「えっ?」

「前から直くんを皐月に会わせるって話をしてたし、志良堂先生に餃子作って貰えばいいじゃない。来たときに真琴くんの話もできるし一石二鳥、いや一石三鳥だよ!」

「んっ? ああ、そうだな……とりあえずあとで志良堂に連絡してみるよ」

「やったー!」

大喜びする絢斗さんは見て、多分これは決定事項だなと俺は思っていた。
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