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可愛いあの子の笑顔
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<side賢将>
直くんの顔をみてすぐに絢斗もすぐに目が腫れていることに気づいたが、何も聞いてはこなかった。
あくまでも普段通りに直くんに笑顔を見せ、対応するその姿は私を信用してくれている証だろう。
直くんを絢斗に任せてその間に昇を違う部屋に呼んだ。
「それで何があったの?」
「絢斗のアルバムを見ていて自分が両親に愛されていなかったんだと思ってしまったみたいだ」
「ああ、なるほど……。あのアルバム、愛情がいっぱい詰まっていたもんね。それで泣いたの?」
私と秋穂の元に生まれてきてくれた絢斗を精一杯育てていた記録だったが、直くんにとっては自分との違いをまざまざと見せつけられた形になったのかもしれない。
「それも確かに理由の一つだがそれだけないんだ」
「他にも何かあったの?」
「母親だけでなく、父親にも愛されていなかったんじゃないかって感じたようだったから、あの話をしたんだよ」
「あの話って……えっ? あの、大おじさんがドバイで会ったとかいうあれ?」
覚えていたか。さすがだな。いや、直くんに関することを昇が忘れるわけないか。
「ああ。彼が直くんを今でもちゃんと思っているということを話すには一番いいタイミングだと思ってね。直くんは実の父親に愛されてなかったんじゃないかと落ち込んでいたから、直くんの写真をお守りのように持っていたと伝えたんだ」
「それで、直くんは?」
「もちろん、喜んでいたよ。父親が心を鬼にして今は離れたんだと理解したようだったよ。直くんにとって今は父親は卓くんで絢斗を母親のように思っているが、自分を愛してくれる実の父親の存在はまた別物だからな」
「うん。そうだね。いつか……」
「んっ?」
「いつか、直くんが実のお父さんとも笑顔で会えたらいいね」
「ああ。直くんも同じことを言っていたよ。やっぱり運命の相手だな」
私の言葉に昇は少し照れた様子を見せながらも嬉しそうに笑っていた。
昇と一緒に絢斗たちの元に戻ると、食事を終えた絢斗が皿を運んでいるのが見えた。
「もう食べたのか、早かったな」
「うん。おいしくってペロリと食べちゃったよ」
「それはよかった。ああ、いいよ。私が洗おう」
「ううん。後片付けくらい私にさせて。洗うだけなら私にもできるよ」
「そうか、ありがとう」
料理も片付けも苦手な絢斗だが、洗濯や皿洗いは本当に綺麗にしてくれる。
人にはそれぞれ才能があるんだと身をもって教えてくれる。
「ねぇ、お父さん。お好み焼きなら私にもできそうじゃない?」
「んっ? ああ、そうだな」
絢斗と何度か料理をしようと思って一緒にしたことがあったが、あの時の私には絢斗がどういったものならできるのかまで考えるゆとりがなかった。
今回ホットプレートでなら直くんと楽しんで作れるんじゃないかと思えたのは、アフリカでの経験のおかげだ。
広い鉄板で焼くだけ。そんな料理でも子どもたちは喜んでくれた。
「じゃあ今度は絢斗も一緒に作ろうか」
「わぁー、嬉しい!」
いつまで経っても無邪気に喜んでくれる絢斗が本当に愛おしい。
「ああ、そうだ。卓くんの分のお好み焼きもあるからもって帰るといい。直くんが作ったものだから卓くんも喜ぶだろう」
冷蔵庫から取り出したお好み焼きをタッパーに入れて、それを紙袋に入れて絢斗に渡した。
「絶対喜ぶよ。ありがとう。じゃあ、今日はそろそろ帰ろうかな」
「そうか、じゃあ下まで送ろう。直くん、またいつでもおいで」
「本当に来てもいいですか?」
「ああ。もちろんだよ。今度来るまでにベッドも用意しておくから、いつでもおいで」
「はい! おじいちゃんとの時間、すっごく楽しかったです」
「――っ、直くん……」
てっきりこの家が気に入ったのだと思った。
でも直くんはこの家で過ごす私との時間を楽しんでくれたのだと思ったら、熱いものが込み上げてくる。
「私もだよ。また楽しい時間を過ごそう」
「はい!」
笑顔の直くんは昇と手を繋ぎ玄関へ向かった。
私はその二人の後ろから絢斗と一緒に玄関に向かいながら、ゆっくりと告げた。
「本当にいい子だな。私はあの子のおじいちゃんになれて嬉しいよ」
「うん。私もお父さんに可愛い孫を見せられて嬉しいよ」
「絢斗……」
絢斗に孫が欲しいと言ったことはないが、絢斗は何かしら思ってはいたんだろう。
だが、こんなにも素晴らしい孫に会わせてくれたんだ。これ以上の親孝行はないな。
エレベーターを降り、玄関ロビー近くに止めた絢斗の車に乗り込む直くんと昇に手を振って見送る。
車が見えなくなるまで手を振りその場に佇んでいると、一気に寂しくなってくる。
「ご子息とお孫さま、おかえりになったのですね」
「ああ。やっぱり見送るのは寂しいな」
「はい。ですが、また来られる楽しみもできますよ」
「大園くん、ありがとう。君のおかげでちょっと楽になったよ」
優秀なコンシェルジュに見送られ、私は一人で部屋に戻った。
卓くんがホットプレートを買って帰ると言っていたから、今日早速何かを作るだろうか。
卓くんに負けないようにレシピを探しておこう。
またあの子の笑顔が見られるように。
直くんの顔をみてすぐに絢斗もすぐに目が腫れていることに気づいたが、何も聞いてはこなかった。
あくまでも普段通りに直くんに笑顔を見せ、対応するその姿は私を信用してくれている証だろう。
直くんを絢斗に任せてその間に昇を違う部屋に呼んだ。
「それで何があったの?」
「絢斗のアルバムを見ていて自分が両親に愛されていなかったんだと思ってしまったみたいだ」
「ああ、なるほど……。あのアルバム、愛情がいっぱい詰まっていたもんね。それで泣いたの?」
私と秋穂の元に生まれてきてくれた絢斗を精一杯育てていた記録だったが、直くんにとっては自分との違いをまざまざと見せつけられた形になったのかもしれない。
「それも確かに理由の一つだがそれだけないんだ」
「他にも何かあったの?」
「母親だけでなく、父親にも愛されていなかったんじゃないかって感じたようだったから、あの話をしたんだよ」
「あの話って……えっ? あの、大おじさんがドバイで会ったとかいうあれ?」
覚えていたか。さすがだな。いや、直くんに関することを昇が忘れるわけないか。
「ああ。彼が直くんを今でもちゃんと思っているということを話すには一番いいタイミングだと思ってね。直くんは実の父親に愛されてなかったんじゃないかと落ち込んでいたから、直くんの写真をお守りのように持っていたと伝えたんだ」
「それで、直くんは?」
「もちろん、喜んでいたよ。父親が心を鬼にして今は離れたんだと理解したようだったよ。直くんにとって今は父親は卓くんで絢斗を母親のように思っているが、自分を愛してくれる実の父親の存在はまた別物だからな」
「うん。そうだね。いつか……」
「んっ?」
「いつか、直くんが実のお父さんとも笑顔で会えたらいいね」
「ああ。直くんも同じことを言っていたよ。やっぱり運命の相手だな」
私の言葉に昇は少し照れた様子を見せながらも嬉しそうに笑っていた。
昇と一緒に絢斗たちの元に戻ると、食事を終えた絢斗が皿を運んでいるのが見えた。
「もう食べたのか、早かったな」
「うん。おいしくってペロリと食べちゃったよ」
「それはよかった。ああ、いいよ。私が洗おう」
「ううん。後片付けくらい私にさせて。洗うだけなら私にもできるよ」
「そうか、ありがとう」
料理も片付けも苦手な絢斗だが、洗濯や皿洗いは本当に綺麗にしてくれる。
人にはそれぞれ才能があるんだと身をもって教えてくれる。
「ねぇ、お父さん。お好み焼きなら私にもできそうじゃない?」
「んっ? ああ、そうだな」
絢斗と何度か料理をしようと思って一緒にしたことがあったが、あの時の私には絢斗がどういったものならできるのかまで考えるゆとりがなかった。
今回ホットプレートでなら直くんと楽しんで作れるんじゃないかと思えたのは、アフリカでの経験のおかげだ。
広い鉄板で焼くだけ。そんな料理でも子どもたちは喜んでくれた。
「じゃあ今度は絢斗も一緒に作ろうか」
「わぁー、嬉しい!」
いつまで経っても無邪気に喜んでくれる絢斗が本当に愛おしい。
「ああ、そうだ。卓くんの分のお好み焼きもあるからもって帰るといい。直くんが作ったものだから卓くんも喜ぶだろう」
冷蔵庫から取り出したお好み焼きをタッパーに入れて、それを紙袋に入れて絢斗に渡した。
「絶対喜ぶよ。ありがとう。じゃあ、今日はそろそろ帰ろうかな」
「そうか、じゃあ下まで送ろう。直くん、またいつでもおいで」
「本当に来てもいいですか?」
「ああ。もちろんだよ。今度来るまでにベッドも用意しておくから、いつでもおいで」
「はい! おじいちゃんとの時間、すっごく楽しかったです」
「――っ、直くん……」
てっきりこの家が気に入ったのだと思った。
でも直くんはこの家で過ごす私との時間を楽しんでくれたのだと思ったら、熱いものが込み上げてくる。
「私もだよ。また楽しい時間を過ごそう」
「はい!」
笑顔の直くんは昇と手を繋ぎ玄関へ向かった。
私はその二人の後ろから絢斗と一緒に玄関に向かいながら、ゆっくりと告げた。
「本当にいい子だな。私はあの子のおじいちゃんになれて嬉しいよ」
「うん。私もお父さんに可愛い孫を見せられて嬉しいよ」
「絢斗……」
絢斗に孫が欲しいと言ったことはないが、絢斗は何かしら思ってはいたんだろう。
だが、こんなにも素晴らしい孫に会わせてくれたんだ。これ以上の親孝行はないな。
エレベーターを降り、玄関ロビー近くに止めた絢斗の車に乗り込む直くんと昇に手を振って見送る。
車が見えなくなるまで手を振りその場に佇んでいると、一気に寂しくなってくる。
「ご子息とお孫さま、おかえりになったのですね」
「ああ。やっぱり見送るのは寂しいな」
「はい。ですが、また来られる楽しみもできますよ」
「大園くん、ありがとう。君のおかげでちょっと楽になったよ」
優秀なコンシェルジュに見送られ、私は一人で部屋に戻った。
卓くんがホットプレートを買って帰ると言っていたから、今日早速何かを作るだろうか。
卓くんに負けないようにレシピを探しておこう。
またあの子の笑顔が見られるように。
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