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二人の関係
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<side賢将>
絢斗のアルバムを見たがるかと思って用意していたが、キッチンから戻ってきた私が見たのは写真を見ながら大粒の涙を流す直くんの姿だった。
慌てて運んできたカフェオレをテーブルに置き駆け寄るとどうやら写真を見て、自分の家との違いに気づいてしまったようだ。
ずっと辛い仕打ちをしてきた母親はもちろん、父親にも愛されていなかったんじゃないかと思い、涙する直くんの姿に私はあの彼との出会いを伝えることにした。
アフリカからの帰りにドバイに立ち寄った際に出会った彼が偶然にも直くんの父親であったことは本当に奇跡だった。
いや、もしかしたら何か運命のようなものに導かれたかもしれない。
私がドバイで直くんの父にあったことを話し、スマホの待ち受けにしていたことを伝えると、直くんは声をあげて泣いていた。
「直くん。君はちゃんと愛されていたよ。涙を流して会いたいと願うほどに」
「もぅ、わすれてほしぃって……」
「そうか、そう言われていたんだね。でもそれは本心じゃない。直くんが幸せに過ごすために心を鬼にしていったんだと思うよ。そうでなければ、直くんの写真をお守りにしないよ」
直くんを抱きしめ、頭を撫でる。彼の分まで私が直くんに寄り添った。
「今はまだ、お父さんも気持ちの整理がつかないんだと思う。でも、必ず時間が解決してくれるはずだよ。その時はまた会いにきてくれると思うよ」
直くんは小さく頷き、ゆっくりと顔を上げた。
「僕がもっともっと幸せになったら、お父さんとも笑顔で会えますよね?」
「ああ。もちろんだよ」
あの写真はきっと卓くんが撮ったものだろう。カメラ目線ではなかったから、何も知らずに撮られた直くんの笑顔だ。
――私にはこんなにも幸せな息子の笑顔は一生かかっても引き出せなかったと思います。
あの時、とびきりの笑顔で映る可愛い息子の写真を見せながら、彼はそう呟いた。
その写真は彼にとってある意味、戒めのようなものかもしれない。
それでもそれをお守りだと言っていつでも見られるように待ち受けにしていた彼の、息子を思う気持ちは本物だろう。
しばらくソファーの上で直くんを抱きしめていると、コンシェルジュからの連絡音が聞こえた。
この時間ならきっと昇だろう。
直くんをソファーで待たせて内線を受けると、昇が訪ねてきたことを伝える内容だった。
そのまま部屋に通すように伝えると、しばらくして玄関チャイムが鳴った。
「直くん、昇がきたよ。一緒に出迎えよう」
「はーい!」
さっき泣いていたから、まだ瞼が腫れている。
昇はすぐに気がつくだろうな。いや、気づかなかったら直くんのそばにいる資格はないな。
玄関を開けると飛び込んでくるような勢いで昇が入ってきた。
「昇さん! お帰りなさい!」
いつもこうして出迎えているのだろう。直くんが嬉しそうに抱きつくのを見た途端、昇の表情が一瞬曇るのを私は見た。
きっと直くんは気づいていないだろう。それでも私には昇が直くんの変化にすぐに気づいたのはすぐに分かった。
「直くん、ただいま」
直くんから頬にキスをされて嬉しそうな表情を浮かべ、昇も直くんの頬にキスをしていた。
「大おじさん。お邪魔します」
「ああ、入ってくれ」
「それにしてもすごいタワマンですね」
「今のところは借り物だがね。直くんも気に入ってくれたから買い取ろうと思っているよ」
「そうなんですか」
「昇さん、景色がすごいんですよ!」
直くんに案内されて、昇は窓に向かう。
「わぁー、これは絶景だな」
「ね、すごいでしょう?」
得意げな表情が本当に絢斗に似ている。
「直くん、昇にあれを食べさせるんだろう?」
「あっ! そうだった!」
「何? 何があるの?」
「昇は先に手を洗っておいで。その間に直くんと準備をしておくから。あっちが洗面所だよ」
「はーい」
直くんをキッチンに呼び、冷蔵庫から出したお好み焼きと焼きそばを電子レンジで温めてもらっている間に、片手でさっと昇にメッセージを送った。
<詳しいことは後で説明する。だから今はスルーしていてくれ>
とりあえずそう言っておけば安心だ。
洗面所から戻ってきた昇は私を見て<了解!>とアイコンタクトしてきた。これでいい。
「わぁ、なんかいい匂いがする」
「おじいちゃんと一緒にお好み焼き作ったんです。あと、焼きそばもありますよ」
「やった! めっちゃ美味しそう!!」
直くんは昇の隣にピッタリと座り、昇が食べるのを見つめている。
きっと自分が作ったものを食べてくれる反応が気になって仕方がないんだろう。
「んっ!! すっごく美味しいよ!!」
「よかったぁー。あ、昇さん。ソースついてますよ」
「ど――」
「ここです」
昇が拭うよりも先に直くんの指が昇の唇に触れる。それがあまりにも自然で直くんと昇の関係が前回会った時よりかなり進んでいることに私は気づいてしまった。
きっと週末のあの旅行だな。昇にとっても直くんにとってもいい旅行になったようだ。
絢斗のアルバムを見たがるかと思って用意していたが、キッチンから戻ってきた私が見たのは写真を見ながら大粒の涙を流す直くんの姿だった。
慌てて運んできたカフェオレをテーブルに置き駆け寄るとどうやら写真を見て、自分の家との違いに気づいてしまったようだ。
ずっと辛い仕打ちをしてきた母親はもちろん、父親にも愛されていなかったんじゃないかと思い、涙する直くんの姿に私はあの彼との出会いを伝えることにした。
アフリカからの帰りにドバイに立ち寄った際に出会った彼が偶然にも直くんの父親であったことは本当に奇跡だった。
いや、もしかしたら何か運命のようなものに導かれたかもしれない。
私がドバイで直くんの父にあったことを話し、スマホの待ち受けにしていたことを伝えると、直くんは声をあげて泣いていた。
「直くん。君はちゃんと愛されていたよ。涙を流して会いたいと願うほどに」
「もぅ、わすれてほしぃって……」
「そうか、そう言われていたんだね。でもそれは本心じゃない。直くんが幸せに過ごすために心を鬼にしていったんだと思うよ。そうでなければ、直くんの写真をお守りにしないよ」
直くんを抱きしめ、頭を撫でる。彼の分まで私が直くんに寄り添った。
「今はまだ、お父さんも気持ちの整理がつかないんだと思う。でも、必ず時間が解決してくれるはずだよ。その時はまた会いにきてくれると思うよ」
直くんは小さく頷き、ゆっくりと顔を上げた。
「僕がもっともっと幸せになったら、お父さんとも笑顔で会えますよね?」
「ああ。もちろんだよ」
あの写真はきっと卓くんが撮ったものだろう。カメラ目線ではなかったから、何も知らずに撮られた直くんの笑顔だ。
――私にはこんなにも幸せな息子の笑顔は一生かかっても引き出せなかったと思います。
あの時、とびきりの笑顔で映る可愛い息子の写真を見せながら、彼はそう呟いた。
その写真は彼にとってある意味、戒めのようなものかもしれない。
それでもそれをお守りだと言っていつでも見られるように待ち受けにしていた彼の、息子を思う気持ちは本物だろう。
しばらくソファーの上で直くんを抱きしめていると、コンシェルジュからの連絡音が聞こえた。
この時間ならきっと昇だろう。
直くんをソファーで待たせて内線を受けると、昇が訪ねてきたことを伝える内容だった。
そのまま部屋に通すように伝えると、しばらくして玄関チャイムが鳴った。
「直くん、昇がきたよ。一緒に出迎えよう」
「はーい!」
さっき泣いていたから、まだ瞼が腫れている。
昇はすぐに気がつくだろうな。いや、気づかなかったら直くんのそばにいる資格はないな。
玄関を開けると飛び込んでくるような勢いで昇が入ってきた。
「昇さん! お帰りなさい!」
いつもこうして出迎えているのだろう。直くんが嬉しそうに抱きつくのを見た途端、昇の表情が一瞬曇るのを私は見た。
きっと直くんは気づいていないだろう。それでも私には昇が直くんの変化にすぐに気づいたのはすぐに分かった。
「直くん、ただいま」
直くんから頬にキスをされて嬉しそうな表情を浮かべ、昇も直くんの頬にキスをしていた。
「大おじさん。お邪魔します」
「ああ、入ってくれ」
「それにしてもすごいタワマンですね」
「今のところは借り物だがね。直くんも気に入ってくれたから買い取ろうと思っているよ」
「そうなんですか」
「昇さん、景色がすごいんですよ!」
直くんに案内されて、昇は窓に向かう。
「わぁー、これは絶景だな」
「ね、すごいでしょう?」
得意げな表情が本当に絢斗に似ている。
「直くん、昇にあれを食べさせるんだろう?」
「あっ! そうだった!」
「何? 何があるの?」
「昇は先に手を洗っておいで。その間に直くんと準備をしておくから。あっちが洗面所だよ」
「はーい」
直くんをキッチンに呼び、冷蔵庫から出したお好み焼きと焼きそばを電子レンジで温めてもらっている間に、片手でさっと昇にメッセージを送った。
<詳しいことは後で説明する。だから今はスルーしていてくれ>
とりあえずそう言っておけば安心だ。
洗面所から戻ってきた昇は私を見て<了解!>とアイコンタクトしてきた。これでいい。
「わぁ、なんかいい匂いがする」
「おじいちゃんと一緒にお好み焼き作ったんです。あと、焼きそばもありますよ」
「やった! めっちゃ美味しそう!!」
直くんは昇の隣にピッタリと座り、昇が食べるのを見つめている。
きっと自分が作ったものを食べてくれる反応が気になって仕方がないんだろう。
「んっ!! すっごく美味しいよ!!」
「よかったぁー。あ、昇さん。ソースついてますよ」
「ど――」
「ここです」
昇が拭うよりも先に直くんの指が昇の唇に触れる。それがあまりにも自然で直くんと昇の関係が前回会った時よりかなり進んでいることに私は気づいてしまった。
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