上 下
230 / 275

シャッターチャンス!

しおりを挟む
<side卓>

水族館についてから直くんの興味度がぐんぐん上がっていくのがわかる。
私がこっそりスマホを構えていることにも気づかないほど、直くんはすっかり夢中になっている。

係員から半券を受け取り大切そうに胸ポケットにしまう姿。
水槽に手を入れて初めて自分の指でナマコに触れた時のあの表情。
クラゲが泳ぐのを見た、あの不思議な表情。
南国の海コーナーで雄大に泳ぐエイやマンタを見て目を輝かせていたあの姿。
ペンギンやアザラシを見て「可愛いー!」と何度も声を上げていた姿。

そのどれもが可愛くて、全てを撮影し続けた。
直くんの初めての感動を撮り逃すわけにはいかないと思ったんだ。

イルカへの餌やり体験は予約必須だったから前もって予約しておいたが、怖がった時には昇に代わりにさせればいいと思っていた。だが、水族館に入ってすぐにその心配は杞憂だったとわかった。

グリやフランをあんなにも可愛がる子だ。生き物全般が好きで可愛いのだろう。今までそのような体験をする機会がなかっただけで実は好奇心旺盛な子だというのもわかっている。

絢斗もまたそのような性格だから、よく似ている。本当の親子だと言っても誰も疑わないだろう。

係員に連れられてイルカの餌やりに向かう二人の後を私と昇もついていって、ベストポイントでスマホを構える。
絢斗が直くんのお手本になるように先にして見せると、安心した表情で手を伸ばした。

イルカは絢斗の手にタッチしたように、直くんの手にも上手にタッチでき、二人からご褒美の餌をもらっていた。

「キス、やってみますか?」

係員の問いかけに反応したのは直くん。

「昇、嫉妬するなよ」

「わ、わかってるよ」

そう言いながらも、私は絢斗でなくて良かったと思ったのは内緒だ。
いや、昇には気づかれているかもしれないな。なんせ先日グリが絢斗の頬を舐めた時につい嫉妬をしてしまったことに気づかれてしまったのだから。大人げないとはわかっている。だがどうしても許せないことがあるのだ。
自分がそんな感情を抱きながら、昇に嫉妬するなとは悪いとは思うが、直くんのために堪えてもらうとしようか。

直くんが顔を出すと、イルカの口がちゅっと頬に当たった。

「わぁー。上手!!」

嬉しそうな直くんをみていると微笑ましく思える。ちらっと昇に視線を向けると笑顔が見える。
どうやら私よりもよっぽど大人なようだ。

無事にイルカとの触れ合いを終えた絢斗と直くんと合流し、手を洗わせてからランチに向かった。

「水族館の中にレストランもあるんですか?」

「ああ。さっきのイルカのプールの下がレストランになっていてね、泳ぐイルカを見ながら食事ができるんだよ」

「わぁー、すごい!」

客の感情に配慮してか、ここのレストランに魚介類の提供はなく、肉料理とスイーツのみとなっている。
何も気にしない者もいるだろうが、やはり今見てきたばかりの魚や貝を食べるのはなんとなく食べにくいと思う人がいてもおかしくない。だからこそ、このレストランから見えるのがイルカだけなのだ。まぁ、海産物が売りのレストランも別にあるから問題はないだろう。

「直くん、美味しそうなのがいっぱいだね。私は……あ、このハンバーガーにしようかな」

「あ、僕もそれ食べてみたいです」

「じゃあ、同じのにしよう。これ、パフェもついているよ。抹茶とチョコがあるから両方取ってわけっこしようか」

「はい! そうします!」

絢斗は直くんが食べたそうなものをすぐに見つけて声をかけると、直くんも嬉しそうに同じものを選んでいた。
やっぱり絢斗と直くんは親子にしか見えないな。

「昇はどうする?」

「俺、このステーキピラフにしようかな。いい?」

「ああ。大盛りにできるみたいだからそうするか?」

「やった! お願い!」

さすが高校生。私も食欲では勝てそうにない。

タブレットで注文をすると、あっという間に料理が運ばれてくる。

「美味しそう!」

カゴの中に入った、袋に包まれたハンバーガーとポテトが直くんの目の前に置かれた。

こうしたファストフードとはあまり縁のなかった直くんは目を輝かせている。
絢斗はそんな直くんの気持ちに寄り添ってその注文をしたのだろう。

「でも、これってどうやって食べたらいいですか?」

直くんに聞かれた昇は手慣れた様子で袋を開け、食べ方を教えてあげていた。だが、直くんの小さな口では全部はかぶりつけないだろう。それは絢斗も同じだ。

「ほら、あーんして」

昇は綺麗に包みを開けたハンバーガーを直くんの口元に運ぶ。私は直くんが初めてのハンバーガーを食べるのをしっかりと動画におさめようとスマホを構えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた? 転生先には優しい母と優しい父。そして... おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、 え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!? 優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!! ▼▼▼▼ 『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』 ん? 仲良くなるはずが、それ以上な気が...。 ...まあ兄様が嬉しそうだからいいか! またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...