ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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シャッターチャンス!

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<side卓>

水族館についてから直くんの興味度がぐんぐん上がっていくのがわかる。
私がこっそりスマホを構えていることにも気づかないほど、直くんはすっかり夢中になっている。

係員から半券を受け取り大切そうに胸ポケットにしまう姿。
水槽に手を入れて初めて自分の指でナマコに触れた時のあの表情。
クラゲが泳ぐのを見た、あの不思議な表情。
南国の海コーナーで雄大に泳ぐエイやマンタを見て目を輝かせていたあの姿。
ペンギンやアザラシを見て「可愛いー!」と何度も声を上げていた姿。

そのどれもが可愛くて、全てを撮影し続けた。
直くんの初めての感動を撮り逃すわけにはいかないと思ったんだ。

イルカへの餌やり体験は予約必須だったから前もって予約しておいたが、怖がった時には昇に代わりにさせればいいと思っていた。だが、水族館に入ってすぐにその心配は杞憂だったとわかった。

グリやフランをあんなにも可愛がる子だ。生き物全般が好きで可愛いのだろう。今までそのような体験をする機会がなかっただけで実は好奇心旺盛な子だというのもわかっている。

絢斗もまたそのような性格だから、よく似ている。本当の親子だと言っても誰も疑わないだろう。

係員に連れられてイルカの餌やりに向かう二人の後を私と昇もついていって、ベストポイントでスマホを構える。
絢斗が直くんのお手本になるように先にして見せると、安心した表情で手を伸ばした。

イルカは絢斗の手にタッチしたように、直くんの手にも上手にタッチでき、二人からご褒美の餌をもらっていた。

「キス、やってみますか?」

係員の問いかけに反応したのは直くん。

「昇、嫉妬するなよ」

「わ、わかってるよ」

そう言いながらも、私は絢斗でなくて良かったと思ったのは内緒だ。
いや、昇には気づかれているかもしれないな。なんせ先日グリが絢斗の頬を舐めた時につい嫉妬をしてしまったことに気づかれてしまったのだから。大人げないとはわかっている。だがどうしても許せないことがあるのだ。
自分がそんな感情を抱きながら、昇に嫉妬するなとは悪いとは思うが、直くんのために堪えてもらうとしようか。

直くんが顔を出すと、イルカの口がちゅっと頬に当たった。

「わぁー。上手!!」

嬉しそうな直くんをみていると微笑ましく思える。ちらっと昇に視線を向けると笑顔が見える。
どうやら私よりもよっぽど大人なようだ。

無事にイルカとの触れ合いを終えた絢斗と直くんと合流し、手を洗わせてからランチに向かった。

「水族館の中にレストランもあるんですか?」

「ああ。さっきのイルカのプールの下がレストランになっていてね、泳ぐイルカを見ながら食事ができるんだよ」

「わぁー、すごい!」

客の感情に配慮してか、ここのレストランに魚介類の提供はなく、肉料理とスイーツのみとなっている。
何も気にしない者もいるだろうが、やはり今見てきたばかりの魚や貝を食べるのはなんとなく食べにくいと思う人がいてもおかしくない。だからこそ、このレストランから見えるのがイルカだけなのだ。まぁ、海産物が売りのレストランも別にあるから問題はないだろう。

「直くん、美味しそうなのがいっぱいだね。私は……あ、このハンバーガーにしようかな」

「あ、僕もそれ食べてみたいです」

「じゃあ、同じのにしよう。これ、パフェもついているよ。抹茶とチョコがあるから両方取ってわけっこしようか」

「はい! そうします!」

絢斗は直くんが食べたそうなものをすぐに見つけて声をかけると、直くんも嬉しそうに同じものを選んでいた。
やっぱり絢斗と直くんは親子にしか見えないな。

「昇はどうする?」

「俺、このステーキピラフにしようかな。いい?」

「ああ。大盛りにできるみたいだからそうするか?」

「やった! お願い!」

さすが高校生。私も食欲では勝てそうにない。

タブレットで注文をすると、あっという間に料理が運ばれてくる。

「美味しそう!」

カゴの中に入った、袋に包まれたハンバーガーとポテトが直くんの目の前に置かれた。

こうしたファストフードとはあまり縁のなかった直くんは目を輝かせている。
絢斗はそんな直くんの気持ちに寄り添ってその注文をしたのだろう。

「でも、これってどうやって食べたらいいですか?」

直くんに聞かれた昇は手慣れた様子で袋を開け、食べ方を教えてあげていた。だが、直くんの小さな口では全部はかぶりつけないだろう。それは絢斗も同じだ。

「ほら、あーんして」

昇は綺麗に包みを開けたハンバーガーを直くんの口元に運ぶ。私は直くんが初めてのハンバーガーを食べるのをしっかりと動画におさめようとスマホを構えた。
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