230 / 361
シャッターチャンス!
しおりを挟む
<side卓>
水族館についてから直くんの興味度がぐんぐん上がっていくのがわかる。
私がこっそりスマホを構えていることにも気づかないほど、直くんはすっかり夢中になっている。
係員から半券を受け取り大切そうに胸ポケットにしまう姿。
水槽に手を入れて初めて自分の指でナマコに触れた時のあの表情。
クラゲが泳ぐのを見た、あの不思議な表情。
南国の海コーナーで雄大に泳ぐエイやマンタを見て目を輝かせていたあの姿。
ペンギンやアザラシを見て「可愛いー!」と何度も声を上げていた姿。
そのどれもが可愛くて、全てを撮影し続けた。
直くんの初めての感動を撮り逃すわけにはいかないと思ったんだ。
イルカへの餌やり体験は予約必須だったから前もって予約しておいたが、怖がった時には昇に代わりにさせればいいと思っていた。だが、水族館に入ってすぐにその心配は杞憂だったとわかった。
グリやフランをあんなにも可愛がる子だ。生き物全般が好きで可愛いのだろう。今までそのような体験をする機会がなかっただけで実は好奇心旺盛な子だというのもわかっている。
絢斗もまたそのような性格だから、よく似ている。本当の親子だと言っても誰も疑わないだろう。
係員に連れられてイルカの餌やりに向かう二人の後を私と昇もついていって、ベストポイントでスマホを構える。
絢斗が直くんのお手本になるように先にして見せると、安心した表情で手を伸ばした。
イルカは絢斗の手にタッチしたように、直くんの手にも上手にタッチでき、二人からご褒美の餌をもらっていた。
「キス、やってみますか?」
係員の問いかけに反応したのは直くん。
「昇、嫉妬するなよ」
「わ、わかってるよ」
そう言いながらも、私は絢斗でなくて良かったと思ったのは内緒だ。
いや、昇には気づかれているかもしれないな。なんせ先日グリが絢斗の頬を舐めた時につい嫉妬をしてしまったことに気づかれてしまったのだから。大人げないとはわかっている。だがどうしても許せないことがあるのだ。
自分がそんな感情を抱きながら、昇に嫉妬するなとは悪いとは思うが、直くんのために堪えてもらうとしようか。
直くんが顔を出すと、イルカの口がちゅっと頬に当たった。
「わぁー。上手!!」
嬉しそうな直くんをみていると微笑ましく思える。ちらっと昇に視線を向けると笑顔が見える。
どうやら私よりもよっぽど大人なようだ。
無事にイルカとの触れ合いを終えた絢斗と直くんと合流し、手を洗わせてからランチに向かった。
「水族館の中にレストランもあるんですか?」
「ああ。さっきのイルカのプールの下がレストランになっていてね、泳ぐイルカを見ながら食事ができるんだよ」
「わぁー、すごい!」
客の感情に配慮してか、ここのレストランに魚介類の提供はなく、肉料理とスイーツのみとなっている。
何も気にしない者もいるだろうが、やはり今見てきたばかりの魚や貝を食べるのはなんとなく食べにくいと思う人がいてもおかしくない。だからこそ、このレストランから見えるのがイルカだけなのだ。まぁ、海産物が売りのレストランも別にあるから問題はないだろう。
「直くん、美味しそうなのがいっぱいだね。私は……あ、このハンバーガーにしようかな」
「あ、僕もそれ食べてみたいです」
「じゃあ、同じのにしよう。これ、パフェもついているよ。抹茶とチョコがあるから両方取ってわけっこしようか」
「はい! そうします!」
絢斗は直くんが食べたそうなものをすぐに見つけて声をかけると、直くんも嬉しそうに同じものを選んでいた。
やっぱり絢斗と直くんは親子にしか見えないな。
「昇はどうする?」
「俺、このステーキピラフにしようかな。いい?」
「ああ。大盛りにできるみたいだからそうするか?」
「やった! お願い!」
さすが高校生。私も食欲では勝てそうにない。
タブレットで注文をすると、あっという間に料理が運ばれてくる。
「美味しそう!」
カゴの中に入った、袋に包まれたハンバーガーとポテトが直くんの目の前に置かれた。
こうしたファストフードとはあまり縁のなかった直くんは目を輝かせている。
絢斗はそんな直くんの気持ちに寄り添ってその注文をしたのだろう。
「でも、これってどうやって食べたらいいですか?」
直くんに聞かれた昇は手慣れた様子で袋を開け、食べ方を教えてあげていた。だが、直くんの小さな口では全部はかぶりつけないだろう。それは絢斗も同じだ。
「ほら、あーんして」
昇は綺麗に包みを開けたハンバーガーを直くんの口元に運ぶ。私は直くんが初めてのハンバーガーを食べるのをしっかりと動画におさめようとスマホを構えた。
水族館についてから直くんの興味度がぐんぐん上がっていくのがわかる。
私がこっそりスマホを構えていることにも気づかないほど、直くんはすっかり夢中になっている。
係員から半券を受け取り大切そうに胸ポケットにしまう姿。
水槽に手を入れて初めて自分の指でナマコに触れた時のあの表情。
クラゲが泳ぐのを見た、あの不思議な表情。
南国の海コーナーで雄大に泳ぐエイやマンタを見て目を輝かせていたあの姿。
ペンギンやアザラシを見て「可愛いー!」と何度も声を上げていた姿。
そのどれもが可愛くて、全てを撮影し続けた。
直くんの初めての感動を撮り逃すわけにはいかないと思ったんだ。
イルカへの餌やり体験は予約必須だったから前もって予約しておいたが、怖がった時には昇に代わりにさせればいいと思っていた。だが、水族館に入ってすぐにその心配は杞憂だったとわかった。
グリやフランをあんなにも可愛がる子だ。生き物全般が好きで可愛いのだろう。今までそのような体験をする機会がなかっただけで実は好奇心旺盛な子だというのもわかっている。
絢斗もまたそのような性格だから、よく似ている。本当の親子だと言っても誰も疑わないだろう。
係員に連れられてイルカの餌やりに向かう二人の後を私と昇もついていって、ベストポイントでスマホを構える。
絢斗が直くんのお手本になるように先にして見せると、安心した表情で手を伸ばした。
イルカは絢斗の手にタッチしたように、直くんの手にも上手にタッチでき、二人からご褒美の餌をもらっていた。
「キス、やってみますか?」
係員の問いかけに反応したのは直くん。
「昇、嫉妬するなよ」
「わ、わかってるよ」
そう言いながらも、私は絢斗でなくて良かったと思ったのは内緒だ。
いや、昇には気づかれているかもしれないな。なんせ先日グリが絢斗の頬を舐めた時につい嫉妬をしてしまったことに気づかれてしまったのだから。大人げないとはわかっている。だがどうしても許せないことがあるのだ。
自分がそんな感情を抱きながら、昇に嫉妬するなとは悪いとは思うが、直くんのために堪えてもらうとしようか。
直くんが顔を出すと、イルカの口がちゅっと頬に当たった。
「わぁー。上手!!」
嬉しそうな直くんをみていると微笑ましく思える。ちらっと昇に視線を向けると笑顔が見える。
どうやら私よりもよっぽど大人なようだ。
無事にイルカとの触れ合いを終えた絢斗と直くんと合流し、手を洗わせてからランチに向かった。
「水族館の中にレストランもあるんですか?」
「ああ。さっきのイルカのプールの下がレストランになっていてね、泳ぐイルカを見ながら食事ができるんだよ」
「わぁー、すごい!」
客の感情に配慮してか、ここのレストランに魚介類の提供はなく、肉料理とスイーツのみとなっている。
何も気にしない者もいるだろうが、やはり今見てきたばかりの魚や貝を食べるのはなんとなく食べにくいと思う人がいてもおかしくない。だからこそ、このレストランから見えるのがイルカだけなのだ。まぁ、海産物が売りのレストランも別にあるから問題はないだろう。
「直くん、美味しそうなのがいっぱいだね。私は……あ、このハンバーガーにしようかな」
「あ、僕もそれ食べてみたいです」
「じゃあ、同じのにしよう。これ、パフェもついているよ。抹茶とチョコがあるから両方取ってわけっこしようか」
「はい! そうします!」
絢斗は直くんが食べたそうなものをすぐに見つけて声をかけると、直くんも嬉しそうに同じものを選んでいた。
やっぱり絢斗と直くんは親子にしか見えないな。
「昇はどうする?」
「俺、このステーキピラフにしようかな。いい?」
「ああ。大盛りにできるみたいだからそうするか?」
「やった! お願い!」
さすが高校生。私も食欲では勝てそうにない。
タブレットで注文をすると、あっという間に料理が運ばれてくる。
「美味しそう!」
カゴの中に入った、袋に包まれたハンバーガーとポテトが直くんの目の前に置かれた。
こうしたファストフードとはあまり縁のなかった直くんは目を輝かせている。
絢斗はそんな直くんの気持ちに寄り添ってその注文をしたのだろう。
「でも、これってどうやって食べたらいいですか?」
直くんに聞かれた昇は手慣れた様子で袋を開け、食べ方を教えてあげていた。だが、直くんの小さな口では全部はかぶりつけないだろう。それは絢斗も同じだ。
「ほら、あーんして」
昇は綺麗に包みを開けたハンバーガーを直くんの口元に運ぶ。私は直くんが初めてのハンバーガーを食べるのをしっかりと動画におさめようとスマホを構えた。
1,306
お気に入りに追加
2,256
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★


追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです
柚木ゆず
ファンタジー
優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。
ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。
ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~
秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」
妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。
ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。
どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。
下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。
ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる