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餌やりに行こう!

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水から手を出すと、

「はい。直くん」

とあやちゃんがハンカチを広げて僕の手を包んでくれた。

「どうだった?」

「ナマコとかヒトデとか名前は知っていたけど、実物を見たのも生きているものに触れたのが初めてで、なんだかすごく楽しかったです」

「それならよかった。こうやって実際に体験することも勉強だからね」

あやちゃんに言われてハッとする。
僕はいろんな生き物の名前は知っていてもどんなふうに泳ぐのか、どんな感触なのか、何も知らない。
こうやって自分の知識と体験が一緒になって初めて本当にそれを知ったっていうことなんだ。

水族館って、すごく素敵な場所なんだな。

「直くん、11時からのイルカの餌やり体験を予約しているからね。二人一組だから絢斗と二人で体験するといい。餌をあげるだけじゃなく触れ合いもできるそうだよ」

「わぁ、楽しそう! 直くん、一緒にやろう!」

「イルカさんに触れるんですか? 楽しみです!」

本でしか見たことのないイルカさんに触れて餌もあげられるなんて…本当に、水族館って夢みたいな場所だな。

触れ合いコーナーを過ぎて、深海魚のコーナーや、クラゲコーナー、エイやマンタといった大きなお魚が雄大に泳ぐ南国の海コーナーなど進んで行って、そのどれもが素敵でじっくり見入ってしまう。特に南国の海コーナーはあまりにも凄過ぎてその場からなかなか離れられずにいると、

「今度はみんなで沖縄に行こう。実際に海で泳ぐともっと楽しいよ」

とパパが言ってくれる。

「沖縄? 僕、行けるんですか?」

「ああ。もちろんだよ。沖縄には常駐している宿もいくつかあるし、離島に私の教え子が伴侶と住んでいるから詳しい案内を頼めるよ。なぁ、絢斗」

「うん。それにね、直くん、昨日結婚式で会った敬介くんは沖縄にいくつかホテルを持っているんだよ。いつもそこに泊めさせてもらってるから今度みんなでお泊まりに行こうね」

「沖縄に、ホテル……。敬介さんって、そんなにすごい人だったんだ……」

「沖縄でウサギハウスっていうのもやっていてね、そこでウサギさんと戯れたりもできるよ」

「沖縄で、ウサギ……」

話を聞けば聞くほど敬介さんがどんどんすごい人になっていく。
僕……そんなすごい人と昨日一緒の時間を過ごしたんだ……。びっくりだな。

「あ、でも僕泳げない……」

「大丈夫。俺が一緒に泳ぐから。安心して」

昇さんがそう言ってくれると安心しかない。僕、幸せだな。

それからも亀さんやペンギンさん、あざらしさんのコーナーを見ていると、あっという間に餌やりと触れ合いの時間がやってきた。

「直くん、行こう!」

「は、はい」

あやちゃんに手を引かれてイルカさんのいるプールに向かう。

「お二人はこちらにお願いします」

係の人に案内されて、プールの近くに敷物が敷かれていてそこにあやちゃんと二人で座る。

「手を差し出すとイルカくんが寄ってきて口にタッチさせてくれますので、上手にタッチができたらこの餌をポンと投げてください。ほっぺたを近づけたらイルカくんがキスしてくれますよ」

「わぁー、楽しそう! ね、直くん」

「はい。でもちょっと緊張します」

「大丈夫。私も一緒だからね」

あやちゃんがそばにいてくれるだけで安心する。パパと昇さんはすぐ近くで僕たちを見守ってくれている。

「では、やってみましょうか」

その声に少し焦っていると、

「私からやってみるね」

とあやちゃんが言ってくれる。あやちゃんがすっと手を伸ばすとイルカさんが海の中から出てきて上手にあやちゃんの手にイルカさんの口がタッチした。

「わぁー、上手上手! ご褒美だよー」

あやちゃんは嬉しそうにバケツに入っているお魚を一匹丸々取って投げると、イルカさんはそれをパクッと食べた。

「すごーい!!

その迫力にワクワクが止まらない。

「直くんもやってみよう!」

「はい!」

あやちゃんのを思い出しながら手を出すと、僕の手のひらにイルカさんの口がポンと当たる。
ざらざらしているのかと思ったらツルツルしてゴムみたいな感触がした。これも触れることがなかったらわからないことだ。

お魚を掴んで投げるのも初めて。それをパクッと食べてもらえて僕は嬉しかった。

「キス、やってみますか?」

「はい。やってみたいです!」

ドキドキしながら、僕が顔を出すと、イルカさんの口が僕のほっぺたにあたる。

わぁー、すっごく楽しい!! きっと今日の僕は最高に幸せだ。
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