上 下
226 / 277

水族館に行こう!

しおりを挟む
<side昇>

直くんが絢斗さんに朝の出来事をあんなに嬉しそうに報告するとは思ってなかった。
でも考えてみたら素直な直くんだから、今までしたことがないことができたのだから絢斗さんに報告するに決まっている。俺は浮かれすぎてそんなことが分かってなかったんだ。

伯父さんには順を追って説明するつもりだったから驚かせてしまったけど、直くんのおかげで包み隠さず話せてよかったのかもしれない。

伯父さんは頭ごなしに怒るのではなく、俺の話をちゃんと聞いてくれたし、頑張ったと褒めてくれた。
それだけで俺の努力が報われた気がしたんだ。

「直くんにはなんて言って他の人に言わないように説得したらいいかな?」

「それなら多分大丈夫だ」

「大丈夫って?」

「絢斗がちゃんと直くんに話をしているはずだよ。絢斗に任せておけばいい。桜守には直くんのようになんでも口に出してしまう子も多いからな。そういう子の対処には慣れているよ」

伯父さんの信頼しきった様子に驚きつつも、まだ俺としては少し不安だった。
もちろん俺だって絢斗さんを信頼しているけれど、あの直くんをそんなにも簡単に納得させられるのか不思議だったんだ。

ちょうどその時、玄関チャイムが鳴りスタッフさんたちが朝食を運んできてくれた。
直くんと絢斗さんはテラスにいるから可愛い姿を見られなくて済む。

さっと料理を並べ終わりスタッフさんたちが部屋を出て行ってから、伯父さんと一緒いテラスにいる二人に声をかけた。

「絢斗、直くん。朝食にしようか」

「直くん、行こう」

二人で寄り添ってソファーに座っていたのがちょっと気になったけれど、直くんの隣に駆け寄ると

「昇さん。僕……二人だけの秘密、守りますね」

と少し潤んだ目で言ってくれた。

その意味が一瞬わからなくてそっと絢斗さんに視線を向けると、笑顔でなにも言わずに頷いてくれて、伯父さんの言った通りに話をしてくれたんだろうと分かった.

「ああ、俺も約束する」

俺の言葉に直くんは嬉しそうに小指を差し出した。

「約束」

「ああ。約束」

小指を絡めると、直くんはまだ少し目を潤ませたまま花のような笑顔を見せてくれた。


「わぁー、すごい!」

畳間にあるテーブルに所狭しと置かれた料理を見て、直くんが嬉しそうな声をあげる。
それも無理はない。一人一人の席に置かれた土鍋ご飯と茶碗蒸し、焼き魚と卵焼き。そして直くんが気に入っていた松茸の土瓶蒸しも置かれていて、フルーツもある。直くんの量は俺のよりかなり少なめだけど、直くんなら満足できる量だろう。

「俺がご飯を装ってあげるよ」

まだ熱い土鍋でやけどでもしたら大変だからな。向かいの席では伯父さんも絢斗さんのご飯を装ってあげていた。
見本になる人が目の前にいると助かる。現に、直くんは絢斗さんを見て俺が装うのが普通なんだと思ってくれたみたいだ。

艶々のご飯を茶碗に装い、食べようかと声をかけると、

「いただきまーす!」

という可愛い挨拶の声が直くんと絢斗さんから聞こえてくる。その微笑ましい光景に思わず笑みをこぼすと、伯父さんもまた嬉しそうな表情を浮かべていた。

あっという間に朝食を食べ終えて、もう出発の時間。

俺たちは部屋に置いていた全ての荷物を伯父さんたちの部屋に運び入れ、チェックアウトする準備は万端だ。

「伯父さん、ここから水族館まではどれくらい?」

「そうだな。混んでいなければ三十分もあれば着くだろう」

今日は日曜日ということもあってイルカやアシカのショーだけでなく、餌やり体験などもできるらしい。
直くんがやってみたいなら俺も一緒に参加しようかな。

「じゃあ、部屋を出ようか。昇、直くんを頼むぞ」

「任せておいて」

考えてみたら、もし俺が伯父さんの家にきてなかったら、こういう時、伯父さんが一人で絢斗さんと直くんをみてたんだよな。絢斗さんはどこに行っても注目を浴びる人だし、直くんも可愛くて変なのが寄ってきそうだし、きっと大変だっただろう。俺が直くんのそばにいるだけで伯父さんが少しでも楽になっているんならよかったかな。

ロビーで直くんと一緒に待っていると、コーヒーの香りがしてきた。

「あ、パパ。朝はコーヒーを飲むと頭がスッキリするって言ってました」

「ああ、そうだったね」

今朝は和食だったし、キッチンにもコーヒーを淹れた跡はなかったから今日はまだコーヒーを飲んでないかもな。
ラウンジに目を向けるとテイクアウトもできるようだ。

「じゃあ、みんなの飲み物買いに行こうか。それを飲みながら水族館に行こう」

「はい」

直くんと一緒にラウンジに向かい、持ち帰りで注文をした。

「アイスコーヒーをブラックで二つ。カフェラテのシロップ入りを一つと、カフェオレのミルク多めでシロップ入りを一つお願いします」

「はい。合計四杯ですね。テイクアウト用のバッグにお入れいたしますか?」

「ああ、そうですね。お願いします」

「はい。すぐにお作りいたしますので、少々お待ちください」

さすが貴船コンツェルンの保養所。接客もいいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた? 転生先には優しい母と優しい父。そして... おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、 え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!? 優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!! ▼▼▼▼ 『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』 ん? 仲良くなるはずが、それ以上な気が...。 ...まあ兄様が嬉しそうだからいいか! またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。

処理中です...