ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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水族館に行こう!

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<side昇>

直くんが絢斗さんに朝の出来事をあんなに嬉しそうに報告するとは思ってなかった。
でも考えてみたら素直な直くんだから、今までしたことがないことができたのだから絢斗さんに報告するに決まっている。俺は浮かれすぎてそんなことが分かってなかったんだ。

伯父さんには順を追って説明するつもりだったから驚かせてしまったけど、直くんのおかげで包み隠さず話せてよかったのかもしれない。

伯父さんは頭ごなしに怒るのではなく、俺の話をちゃんと聞いてくれたし、頑張ったと褒めてくれた。
それだけで俺の努力が報われた気がしたんだ。

「直くんにはなんて言って他の人に言わないように説得したらいいかな?」

「それなら多分大丈夫だ」

「大丈夫って?」

「絢斗がちゃんと直くんに話をしているはずだよ。絢斗に任せておけばいい。桜守には直くんのようになんでも口に出してしまう子も多いからな。そういう子の対処には慣れているよ」

伯父さんの信頼しきった様子に驚きつつも、まだ俺としては少し不安だった。
もちろん俺だって絢斗さんを信頼しているけれど、あの直くんをそんなにも簡単に納得させられるのか不思議だったんだ。

ちょうどその時、玄関チャイムが鳴りスタッフさんたちが朝食を運んできてくれた。
直くんと絢斗さんはテラスにいるから可愛い姿を見られなくて済む。

さっと料理を並べ終わりスタッフさんたちが部屋を出て行ってから、伯父さんと一緒いテラスにいる二人に声をかけた。

「絢斗、直くん。朝食にしようか」

「直くん、行こう」

二人で寄り添ってソファーに座っていたのがちょっと気になったけれど、直くんの隣に駆け寄ると

「昇さん。僕……二人だけの秘密、守りますね」

と少し潤んだ目で言ってくれた。

その意味が一瞬わからなくてそっと絢斗さんに視線を向けると、笑顔でなにも言わずに頷いてくれて、伯父さんの言った通りに話をしてくれたんだろうと分かった.

「ああ、俺も約束する」

俺の言葉に直くんは嬉しそうに小指を差し出した。

「約束」

「ああ。約束」

小指を絡めると、直くんはまだ少し目を潤ませたまま花のような笑顔を見せてくれた。


「わぁー、すごい!」

畳間にあるテーブルに所狭しと置かれた料理を見て、直くんが嬉しそうな声をあげる。
それも無理はない。一人一人の席に置かれた土鍋ご飯と茶碗蒸し、焼き魚と卵焼き。そして直くんが気に入っていた松茸の土瓶蒸しも置かれていて、フルーツもある。直くんの量は俺のよりかなり少なめだけど、直くんなら満足できる量だろう。

「俺がご飯を装ってあげるよ」

まだ熱い土鍋でやけどでもしたら大変だからな。向かいの席では伯父さんも絢斗さんのご飯を装ってあげていた。
見本になる人が目の前にいると助かる。現に、直くんは絢斗さんを見て俺が装うのが普通なんだと思ってくれたみたいだ。

艶々のご飯を茶碗に装い、食べようかと声をかけると、

「いただきまーす!」

という可愛い挨拶の声が直くんと絢斗さんから聞こえてくる。その微笑ましい光景に思わず笑みをこぼすと、伯父さんもまた嬉しそうな表情を浮かべていた。

あっという間に朝食を食べ終えて、もう出発の時間。

俺たちは部屋に置いていた全ての荷物を伯父さんたちの部屋に運び入れ、チェックアウトする準備は万端だ。

「伯父さん、ここから水族館まではどれくらい?」

「そうだな。混んでいなければ三十分もあれば着くだろう」

今日は日曜日ということもあってイルカやアシカのショーだけでなく、餌やり体験などもできるらしい。
直くんがやってみたいなら俺も一緒に参加しようかな。

「じゃあ、部屋を出ようか。昇、直くんを頼むぞ」

「任せておいて」

考えてみたら、もし俺が伯父さんの家にきてなかったら、こういう時、伯父さんが一人で絢斗さんと直くんをみてたんだよな。絢斗さんはどこに行っても注目を浴びる人だし、直くんも可愛くて変なのが寄ってきそうだし、きっと大変だっただろう。俺が直くんのそばにいるだけで伯父さんが少しでも楽になっているんならよかったかな。

ロビーで直くんと一緒に待っていると、コーヒーの香りがしてきた。

「あ、パパ。朝はコーヒーを飲むと頭がスッキリするって言ってました」

「ああ、そうだったね」

今朝は和食だったし、キッチンにもコーヒーを淹れた跡はなかったから今日はまだコーヒーを飲んでないかもな。
ラウンジに目を向けるとテイクアウトもできるようだ。

「じゃあ、みんなの飲み物買いに行こうか。それを飲みながら水族館に行こう」

「はい」

直くんと一緒にラウンジに向かい、持ち帰りで注文をした。

「アイスコーヒーをブラックで二つ。カフェラテのシロップ入りを一つと、カフェオレのミルク多めでシロップ入りを一つお願いします」

「はい。合計四杯ですね。テイクアウト用のバッグにお入れいたしますか?」

「ああ、そうですね。お願いします」

「はい。すぐにお作りいたしますので、少々お待ちください」

さすが貴船コンツェルンの保養所。接客もいいな。
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