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父の覚悟

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「高校生で恋人と一緒に風呂に入れば、どうしたって反応はするだろうし、かといってせっかくの温泉に一人で入らせるのは忍びない、けれど大浴場には連れて行けないというところかな?」

いち早く昇の相談内容を理解して、声を上げてくれたのは榎木くん。

「そんなの、別に悩む必要はないんじゃないかな? あの子のことは今、志摩から聞いたから君がいろいろ考えてしまうのもわかるけど、あの子も14歳ならそろそろそういう身体の変化も教えていかないといけない時期だし、それを君が教えられるならそれこそ良いことなんじゃないかなと思うけどな」

榎木くんの言葉に答えるように声を上げたのは安城くん。そして、その答えに榎木くんもすぐに賛同した。

榎木くんは医師という仕事柄、学校健診の手伝いに駆り出されることがあるらしい。その際に、悩みを持つ生徒から質問を受けることがあるようだが、その内容は性に関すること。
それはセックスがしたいとか性欲が抑えられないとかそんなものではなく、勃起する事や無精といった青少年ならごく当たり前にある現象のこと。それすらを知らない生徒が病気だと思い込んで榎木くんに相談をしてくるらしい。つまり、彼の他に相談する相手がいないと言うことだ。自分の身体の変化について不安に思っても、それを相談できずに悩んでしまう。

その話に私はハッとした。

絢斗は元々の好奇心旺盛な性格もあり、同級生で親友の鳴宮くんとそのような話をしていたから自分の身体に変化があってもそこまで不安には思わなかったようだが、直くんは母親から洗脳され、性に関する知識など一切遮断されて育った上に、医師から受けたひどいトラウマもある。もし、自分の身体に変化が起こったとしても、あの子なら一人で悩んでしまうかもしれない。

誰にも言い出せず、食欲をなくし倒れるなんてことになったら……?
考えるだけでも恐ろしい。

「一花くんは特に何も知らなかっただろう? 貴船くんはあの子にもう教えたのか?」

周平くんが征哉くんにそんな質問を投げかける。
確かに一花くんが過ごしてきた環境ならそんな知識など与えられていなかっただろう。
それに身体の成長自体、思わしくなかった。それが征哉くんとの健康的な生活の中で一気に成長していくのは不思議じゃない。
直くんもそうだ。我が家に来た頃は14歳とは思えないくらいに小さく痩せていたが、ここ数ヶ月で顔も少しふっくらとしてきたし、身長も少し伸びただろう。
身体が健康的になれば、生殖機能だって成長するのは当然で、14歳の直くんならそのような生理的な現象が起こっても不思議はない。

「それこそ少し前に一緒に温泉に初めて入った時に教えましたよ」

一花くんと共に風呂に入る。今の昇と同じ状態だ。

怪我をしていた一花くんは長らく風呂に入ることができなかったが、その温泉旅行で湯に浸かる許可が出たようだ。
そこで征哉くんと裸で過ごし、一花くんの方が先に反応してしまったらしい。大好きな人に裸で抱きかかえられて直接肌に触れられるのだから、反応するのも当然だ。しかもそれが初めてなら自分でコントロールすることすらできなかっただろう。

征哉くんが一緒にいたからこそ、それが病気ではなく好きな人に触れられると反応するのが普通だと教わることができたが、もしこれが一花くんだけなら、自分の身体の反応に怯えていたに違いない。

一花くんが反応したことで的確に処理の方法も教えることができたのだからいい学びの場になったのだろう。

「あの、それで貴船さんは興奮しないんですか?」

ずっと話を聞いていた昇の素朴な質問にも征哉くんは笑って答えた。
好きな人に触れられると反応すると一花くんに説明したから、征哉くんが反応しても怖がることなくむしろ喜んで処理まで手伝ってくれたのだと。

確かにそう話せば、昇が直くんの身体に反応してしまったとしても説明ができる。
むしろ反応することで直くんは昇から好かれている、愛されていると確信できてホッとするだろう。

うーん、やはりここは昇に直くんを任せた方がいいか。
直くんの身体にとっても知識を得ることは大事なことだからな。

「まぁとにかく、今日は余計なことは考えずに温泉を楽しむといい。初めてならきっと喜ぶよ。ただし、暴走だけはしないように」

私の心を読んだような征哉くんの言葉に昇はしっかりと頷いていた。

これなら大丈夫か……。私は直くんの父として覚悟を決めることにした。
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