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喜ぶ顔が見たくて……

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「い、一花っ」

貴船さんは立てるようになっていることを何も知らなかったんだろう。
信じられないものでも見るように茫然とその場に立ち尽くして一花さんを見つめている。

そんな貴船さんに笑顔で近づいていく一花さんに、僕は心の中で頑張れー!! と応援し続けていた。
もしかしたらこのまま貴船さんのところまで歩いていけるかも……なんて思った瞬間、一花さんの足が縺れて転びそうになってしまった。

「わっ! 危ないっ!」

自分が転んだわけでもないのに見ていられなくて目を背けると、

「大丈夫だよ、直くん」

と昇さんの優しい声が聞こえた。

そっと顔を上げると、一花さんが貴船さんの大きな腕に抱き締められているのが見えて心の声が漏れた。

「ああ……よかった」

「本当によかった。一花さん……すごく頑張ったんだね」

「一花さん、すごいです……僕も、頑張らないと!」

「直くんは頑張ってるよ。俺がちゃんと見てるから」

「昇さん……」

昇さんの優しい言葉にホッとする。頑張ってるってちゃんと見てくれる人がいるって本当に嬉しいものだな。

「ねぇ、見て! 直くん! 一花ちゃんが立ってる!! シャッターチャンスだよ!!」

あやちゃんの声に前を見ると、一花さんと貴船さんがピッタリと寄り添いながら立っているのが見える。

「わぁ、素敵!!」

いつも抱きかかえられていた一花さんが貴船さんと並んでいるのがとても幸せそうで見ているだけで心が暖かくなる。
幸せな二人の姿に僕は無我夢中で写真を撮り続けた。僕のアルバムの中には二人の笑顔でいっぱいだ。

「素敵な結婚式になったね」

「はい。とっても」

一花さんが立っているところがこの結婚式で見られたのは、貴船さんや一花さんのお父さんにとっても、そして何よりも尚孝さんにとって嬉しい出来事だったに違いない。

僕はどうしてもこの気持ちを共有したくて、前の席に座っていた尚孝さんに声をかけた。

「尚孝さん……あの、一花さんが歩けるようになってよかったですね」

尚孝さんはずっと自分が怪我をさせてしまったことを後悔していた。だから一花さんが歩けるようになって、一番ホッとしているだろう。今日のこの日を迎えるまでずっと二人三脚でやってきたんだもんね。

「うん。本当によかったよ」

振り向いた尚孝さんは目を真っ赤に腫らしていた。それくらい感動したんだ。無理もないな。

「あのね、実は……僕、今日この場で一花くんが立って歩くって知ってたんだ。二人でサプライズにしようって話してたんだよ」

「えっ? あ、そうなんですか」

「でもね、僕も一花くんも参列者が招待されていることは全く知らなくて……貴船会長と未知子さんと櫻葉会長、それに唯人さんだけを驚かせるつもりだったんだよ。まさか、こんなにもたくさんの前で披露できるなんて思ってなくて……だから、想像以上に嬉しいんだ」

「それって、貴船さんも一花さんもお互いにサプライズを考えてたってことですよね?」

「ええ。そうですね。お互いに相手の喜ぶ顔を見たいという気持ちが強かったんだと思いますよ」

僕の質問に尚孝さんの隣にいた志摩さんが答えてくれた。
お互いに喜ぶ顔が見たい……本当に好きあってる二人だからこそ思いついたんだろうな。

やっぱり貴船さんと一花さんって素敵だ。

「美しいドレスや着物で私たちの結婚式に花を添えてくださった皆さま。一花がブーケトスで幸せのお裾分けをしますので、既婚、未婚、未成年問わず、どうぞ中央にお集まりください」

幸せの余韻に浸っていると、突然貴船さんからそんな言葉が聞こえてきた。

「ぶーけとす、ってなんですか?」

「ブーケトスっていうのは花嫁さんが持っているブーケを投げることを言うんだけど、それを受け取った人が次の花嫁になれるっていうジンクスがあるんだ。昔は未婚の女性だけを対象にやっていたみたいだけど、今はただ単純にブーケトスの本来の意味である幸せのお裾分けっていう意味で、性別や既婚・未婚問わず参加するみたいだよ」

「へぇー、昇さんってすごく詳しいですね」

「少し前に父さんと母さんが招待された結婚式でブーケトス以外にもお菓子とかぬいぐるみとか投げてて子どもたちも参加できて面白かったって話してたから覚えてたんだ。直くんとの結婚式でも何か楽しいことをやれたらいいね」

「昇さん……っ」

どんな話にも僕との未来を想像してくれる昇さんのおかけで、僕がずっと昇さんのそばにいていいんだって安心させてくれるのがすごく嬉しい。

「直くん、行こう行こう! ほら、尚孝くんも佳史くんたちも行くよ!」

「あ、はい!」

楽しそうなあやちゃんに誘われて、僕たちも中央に向かうと周りはみんな綺麗なドレスや着物を着た人ばっかりでドキドキしてしまう。

「直くん! とっても可愛らしいドレスね。よく似合ってるわ」

声をかけられて振り向くと、花のような優しい笑顔をした未知子さんが立っていた。
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