ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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みんなが幸せ

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<side卓>

征哉くんと一花くんの幸せそうな姿に胸が熱くなる。しかもその場に直くんも一緒にいられることに私は父として喜びが隠せない。一花くんも直くんも辛い日々を過ごしたが、こうして同じ空間で幸せな時を分かち合うことができて本当によかった。

征哉くんと一花くんの誓いのキスについつい昇と直くんを想像してしまった。
きっと賢将さんも私と絢斗の結婚のときには、今の私と同じように複雑な思いを抱いていたのだろう。
運命の人と出会い、子どもが幸せになることはもちろん嬉しいが、たっぷりの愛情を注いで育ててきた子が他の人のものになるのはやはり寂しいものがある。

直くんはあと10年くらいは手元に置いてたっぷりと愛情をかけて育てたいが、それは私のわがままだろうな。
だから、昇に託すその日まで……きっと数年だろうが、最大限の愛情を注いで育てるとしよう。


征哉くんと一花くんにキラキラとした目を向ける直くんを見ながらそんなことを思っていると、征哉くんが私たちに後ろを見るように声をかけた。不思議に思いながらも言われた通りに見てみれば、小さなカゴを口に咥えた可愛い犬がウサギのグリを背中に乗せて立っているのが見える。あの犬は櫻葉会長の家に来たというフランくんか。

「おいで」

征哉くんのその声にフランはゆっくりと前に進み出した。

「わぁー、可愛い!!」

確かに可愛い。犬がウサギを乗せて歩いているなんて可愛い以外の何ものでもない。だが、私にははしゃぎながらフランとグリの写真を撮っている絢斗と直くんの方が可愛くて仕方がない。

私はフランとグリの写真を撮っている笑顔の絢斗と直くんをの写真を撮った。
ふと昇を見れば、昇もフランとグリではなく直くんの写真を撮るのに夢中になっている。
周りを見れば、周平くんも安城くんも志摩くんも榎木くんも全員愛しい伴侶の笑顔の写真を撮るのに夢中のようだ。やはりここに集まった人たちは皆同じようだな。

征哉くんと一花くんにカゴを渡すという大役を終えたフランとグリは逞しい男性と可愛らしい男性のもとに戻っていく。
逞しい方の男性は……ああ、そうだ。甲斐くんだ。確か獣医になったのだったな。絢斗の講義にも出ていて成瀬くんと仲が良かったから覚えている。
成瀬くん絡みで仕事をしている時にも何度か会ったことがあるが、動物関係の仕事をしているのを見るのは初めてだし、愛しい伴侶が近くにいるからだろう、私と会う時とは雰囲気が違うからすぐには気づかなかった。

彼も幸せそうだな。本当にここは幸せが溢れている心地良い空間だ。

<side直純>

貴船さんはカゴから何かを取り出して、一花さんの前に片膝をついた。

「昇さん、あれ……」

「結婚指輪だよ。あの犬くんとグリは指輪を運んできたんだ」

「わぁ、素敵……っ」

貴船さんが一花さんの手を取って指輪を嵌めるのが見える。
その姿があまりにも綺麗すぎてため息しか出ない。

「俺もいつか、直くんのこの指に愛の証をつけるからそれまで待ってて」

「昇さん! はい、楽しみに待ってます」

結婚式も指輪も全て約束してくれた。僕はなんて幸せ者なんだろう。

お互いに指輪を交換した二人にみんなからおめでとうの言葉がかけられる。一花さんはそれに涙と笑顔で答えていた。

「皆さまに祝福されながら、私たちは今、こうして夫夫となり、新しい人生を歩む決意をいたしました。皆さまの前で誓ったことを一生忘れないようにこれから一花と共に幸せに暮らしてまいります。本日はお集まりいただき、本当にありがとうございました!」

貴船さんの挨拶に盛大な拍手が送られる。これで結婚式は無事に終わったはず。
ああ、本当に最初から最後まで感動の結婚式だったな……。

感動の余韻に浸っていると、

「あ、あの……征哉さん! 僕も、皆さんにお礼が言いたいです!!」

という一花さんの声が聞こえた。
こんな大勢の前でお礼の挨拶なんて緊張するだろうけど、それくらい一花さんは嬉しかったっていうことだ。

貴船さんはその気持ちに応えるように、一花さんを車椅子ごと抱きかかえて僕たちの方に向かって座らせた。
そして、一花さんは大きな深呼吸をすると、笑顔でゆっくりと口を開いた。

「今日のこの祝福は今までの僕の人生の全ての祝福を一度にもらったみたいで本当に幸せです。僕たちのことを祝福してくださってありがとうございます」

僕たち全員に視線を向け、最後に止まった一花さんの視線の先はいたのは、一花さんのお父さんと貴船さんのお母さん。

「未知子ママ……未知子ママと出会えたからこそ、僕は征哉さんとも出会えました。征哉さんを産んでくださってありがとうございます。パパ……僕のことをずっと諦めないでいてくれて、僕のことを忘れないでいてくれてありがとうございます。僕はパパと、麻友子ママの子どもに生まれてくることができて本当に幸せです」

お父さん、お母さんへの心からのお礼の言葉に僕はもう涙が止まらなかった。
一花さんとお父さんを苦しめたことへの気持ちが薄らぐことはないけれど、本当に幸せになれて良かったと思う。

溢れる涙を堪えきれないまま一花さんを見つめていると、一花さんは今度は僕たちの方にも視線を向けて気持ちを語った。

「そして、皆さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。本当に何度お礼を言っても足りないくらい、僕は幸せです。そんなふうに僕を幸せにしてくださった皆さんに僕からの精一杯のお礼の気持ちです」

そういうと、一花さんがスッと立ち上がった。

「えっ……」

そのあまりにも滑らかな動きに目の前でなにが起こっているのかもわからない。

――事故に遭ったばかりの時はもう歩けないかもしれないって言われたんだけどね、尚孝さんと一緒にリハビリをがんばったおかげで、実は立てるようになったんだよ。

初めて会った時にそんな秘密を打ち明けられたことを思い出す。

あの時はまだ歩行器がないと立てないと言っていたけれど、あんなにもスッと立ち上がれるようになったなんて……。
一花さんも尚孝さんも、そして貴船さんも……みんな、みんな本当によかった。

僕はあまりの感動に涙を流すことしかできなくなっていた。
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