ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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その声に驚いて視線を向けると、十年前よりもずっと大人になった息子・凌也くんの姿があった。

「理央、おいで」

その凌也くんが驚くほど優しく甘い声をかけたと思ったら、観月くんに笑顔を向けていた可愛い子が

「凌也さん!」

と嬉しそうな声をあげて、駆け寄っていく。凌也くんはその子を大きな腕で抱きしめると、そのまま軽々と片腕に座らせるように抱きかかえた。

まるで直くんくらいの子に見えるが、凌也くんを見つめる表情は大人そのもの。この可愛い子が凌也くんの選んだパートナーか。

十年前に比べると凌也くんの表情も随分と柔らかい。きっとこの可愛い子が凌也くんを変えたのだろう。

「凌也、少しくらい理央との対面を味わわせてくれてもいいだろう」

「だから抱きしめるまでは許しただろう? それ以上は流石に父さんでもダメだ」

「本当にお前は狭量だな」

観月くんは残念そうに大きなため息を吐きながら、

「それよりも緑川先生と倉橋先生に挨拶しないか」

と声をかけた。すると、ようやく私たちが目に入ったのか、凌也くんは私たちの方を見て、

「失礼しました。ご無沙汰しています。観月の息子の凌也です」

と頭を下げた。
そして腕に抱えている可愛い子に蕩けるような視線を向けながら、

「彼は私の大切なパートナーの理央です。理央、自分で挨拶できるか?」

と優しい声をかけた。

「あの、観月理央です……。あの緑川先生って……絢斗先生の?」

「ああ、そうだ。絢斗の父だよ。理央くんは絢斗の生徒だそうだね」

「はい。絢斗先生にはいつも優しくお勉強を教えてもらってます。最近はお家でお仕事されてるので、なかなか会えなくて寂しいんですけど……」

ああ、そうか。直くんを引き取ってから、家に一人にできなくてオンライン講義をしていると言っていた。講義自体はオンラインでも問題ないだろうが、理央くんのように絢斗に会いたいと言ってくれている学生には寂しがらせているのだろうな。

「そうか……それは申し訳ないな」

「いえ、お忙しいと聞いているので仕方ないです」

「絢斗も理央くんのような素直でいい子に会いたいと思っているだろうから、いつでも会いにいってやってくれ。きっと喜ぶよ」

「えっ、いいんですか?」

「ああ、今絢斗のところには中学生の男の子がいてね、まだお友達も少ないから理央くんに友達になってもらったら嬉しいと思うよ」

「わぁー!! お友達!! 会いたいです!!」

素直に喜びの表情を見せてくれるのが実に可愛い。こういうところも直くんによく似ている。

「緑川先生、立ち話はこの辺にしてどうぞ中にお入りください」

「ああ、すまなかったね。ありがとう、お邪魔させてもらうよ」

理央くんの可愛さにすっかりここが玄関だということも忘れていた。

「ああ、秀吾くん。これ、お土産。イリゼホテルのケーキだよ」

「わぁ、ありがとうございます。理央くん、ケーキ食べようか」

「わぁー、嬉しい!!」

そんな可愛い声と共に清吾と観月くんと共に案内され、リビングに入ると

「お久しぶりです、緑川さん」

と美しい女性に笑顔で出迎えられる。

「ああ、これはこれは花織さん。突然伺って申し訳ない。お元気そうで何よりです」

「はい。アフリカから無事にお戻りのようでホッとしました」

「いや、ありがとう。元春も元気にしているかな?」

「はい。先ほど、緑川さんがお越しになると伺ったので、主人にも連絡を入れました。今日は早めに帰るとのことでしたので、主人が戻るまでどうぞごゆっくりお過ごしください」

「ありがとう。そうさせていただきます」

「さぁ、どうぞソファーで寛いでください」

私たちがソファーに腰をかけると、すぐに秀吾くんがコーヒーを出してくれた。

「ああ、お構いなく。ちょっと込み入った話がしたいんだ」

清吾がそういうと、秀吾くんはすぐにそれを理解して、

「理央くん、僕の部屋でいただいたケーキを食べようか。お母さんも一緒に」

と声をかけて、さっとケーキを持って理央くんを連れて部屋に移動してくれた。本当に秀吾くんは相変わらず気遣いのできる子だ。

「君が秀吾くんをパラリーガルにした理由がわかるようだな」

「ええ、榊くんにはいつも助けられてました」

「それで、早速本題に入るが、これから話すことで君が情報を持っているなら、ぜひ協力してほしい。

「は、はい。私でお役に立てることならなんでも」

「ありがとう。まだ観月くんにも詳しい話はしていなかったが、実は……」

私は絢斗と卓くんが養子に迎えた直くんの話から、直くんがアレルギー検査と称して医師に猥褻行為をされたことまで全てを打ち明けた。もちろん昇が録音したあのデータと共に。

「くそっ、こいつ許せないな!」

観月くんは同じ医師として怒りをあらわにしていたが、凌也くんの方は怒りを通り越したように無表情で私の話をじっと聞いていた。

「私は直くんにトラウマを植え付けたその医師とは名ばかりの男を捕まえて罪を償わせたい。そしてもう二度と直くんのような被害者を作らせたくないんだ。観月くんから猥褻行為をしていた医師の話を聞いて、直くんに手を出したのもこの男じゃないかと睨んでいる。凌也くん、君の持っている情報を教えてくれないか?」

私の言葉に彼は静かに口を開いた。

「話を聞く限り十中八九間違いなく、犯人はその男だと思います。奴は嫌疑不十分で釈放され、今は別の田舎で小さな病院を開き変わらず医師を続けているはずです。すぐにその男の調査を始めましょう」

「――っ、ありがとう! 助かるよ!」

「私もその仲間に入れてくれないか?」

「えっ?」

突然入ってきた声に視線を向けると、そこには友人である元春の姿があった。

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