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最強の協力者
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ちょうど学会も休憩時間に入っていたようで、大広間では軽食が振舞われていた。壁際に飲み物や食べ物が並べられ、好きに食事を楽しめるスタイルのようだ。
軽食といっても、美味しそうなローストビーフサンドやカツサンドなどボリュームのあるものが置かれていて、集まった医師たちは満足そうに食事を楽しんでいた。
「ああ、よかった。まだ帰ってなかったな。ほら、賢将。あっちだ」
ある人を見つけたらしく、清吾に案内されてついていくとすぐに彼と目が合った。
ああ、彼か。彼もこの学会に来ていたんだな。
「観月くん、素晴らしいゲストを連れてきたよ」
「えっ? もしかして、緑川先生ですか? まだアフリカにいらっしゃるとばかり……帰国されてたんですね」
「観月くん、ご無沙汰だね。つい、先日帰国したんだ。少し休養したら彼の病院で雇ってもらうことになっててね。今日は飛び入り参加させてもらうことにしたよ」
「そうですか、倉橋先生の病院に……。緑川先生がいてくださるなら、鬼に金棒ですね。倉橋先生」
「ああ。彼がきてくれたら私も少しのんびりできるよ」
「今までがお忙しすぎですから、のんびりできるならよかったですよ。緑川先生も帰国されたばかりですからあまり無理はなさらないようにしてくださいね。でもお元気そうで安心しました」
「ああ、ありがとう」
十年前、秋穂の葬儀には家族で参列してくれた。彼は、あの時、失意のどん底まで落ちていた私に寄り添ってくれた人の一人だ。十年ぶりに会っても相変わらず優しい声をかけてくれる。
「ところで、弁護士になった息子くんは元気にしているか?」
高校までは医学部を目指していた彼が、高三で突然法学部に方向転換し、絢斗のいる法学部に首席で合格し、その上、在学中に司法試験にも合格したのは有名な話だ。そこまで優秀な彼だから、卓くんのように独立して事務所も開いているだろうと思ったのだが、
「はい。実は昨年結婚しました」
と想像だにしていなかった言葉が聞こえた。いや、適齢期の息子なのだから、結婚していても不思議はないのだが、清吾の息子同様に彼もそこまで結婚には積極的に見えなかったから驚いてしまった。
「えっ? そうなのか、おめでとう」
「はい。とはいっても、正式な結婚ではなく緑川教授と磯山先生のような形なんです。正式には私の息子となった子と夫夫になりました」
「えっ、ああ……そうなのか。それは、びっくりしたな。でも、相手が男性であれ、息子が幸せになるというのは親としても嬉しいだろう」
「ええ。それはもう! 私も妻も、いい子を連れてきてくれたと心から喜んでいるんですよ。実は、緑川教授にも私たちの可愛い息子を可愛がっていただいているんですよ」
「絢斗と知り合いなのか?」
「はい。可愛い息子は今、法学部の学生なんですよ。来年にはフランスに移住することを目標に頑張っているので、私たちもいずれはフランスに移住するつもりでいます」
「へぇ、フランスに。それはすごいな」
「本当は大学入学と同時にフランスに移住しようと考えていたみたいなんですが、フランスの大学とも話をして、二年ほどこちらで勉強してから転学しようということになったようです。息子もフランスで弁護士として働けるように受験した同等性試験に先日合格しましたし、ゆっくりと準備が進められるのでそれでよかったと思っているようです」
「そうか……お互いにとって幸せな道を歩んでいるのなら、嬉しいことだな」
「はい。それはよく感じています」
幸せそうな観月くんの表情に、息子たちの結婚を心から祝福しているのが感じられて私も嬉しくなる。
絢斗たちが結婚を決意した時には、まだまだ同性婚は珍しく、それ以上に奇異に見られていた。
直くんと昇も困難な道を歩むのではないかと少し心配になったが、この十年の間に日本は変わったようだな。
「賢将、息子たちの話はその辺にしてそろそろ本題に入ったほうがいいんじゃないか?」
背中を小さく小突かれてそうだったと思い出す。
「悪い、つい話し込んでしまった」
「何か私にお話でも?」
「ここだけの話だが、内科や小児科の医師でよからぬ噂を聞いたことはないか?」
「よからぬ噂、ですか? それは患者に対して、ということですか?」
「ああ。何かそういう話を少しでも耳に挟んだことはないか?」
「そうですね……。そういえば、数年前に未就学児を相手に猥褻行為を行っていた恐れがあると告発された田舎の個人病院の医師がいましたが、嫌疑不十分で不起訴になったとか息子が話していたことがあります。司法修習の時の同窓会で話を聞いたとかで、自分なら確実に起訴できるくらい証拠を出してやるのにと怒って珍しく私に話してくれましたからよく覚えてます」
「――っ!! その話、もう少し詳しく聞きたいが、息子くんと話はできないか?」
「え、ええ。大丈夫ですよ。ちょっと連絡してみますね」
観月くんは私たちの勢いに押されるようにすぐに息子に連絡をとってくれた。
* * *
他の作品も読んでくださっている方にはもうすでにお分かりだと思いますが、こちらは右手シリーズ、イケメンスパダリシリーズと同じ世界線にあります。
作中に出てくる観月先生の息子は
『イメケンスパダリ弁護士はようやく見つけた最愛と激甘な夫夫生活始めます』の主人公:観月凌也で弁護士をしています。こちらはそのお話から一年後の世界。19歳になった理央は無事に大学に合格して法学部で勉強しています。来年フランスのシュベルニー大学への転学を目標に頑張っているところです。凌也は理央から離れないように法学部の特別講師として日々一緒に大学に通いながら、フランス移住の準備を整えています。
上記の作品を未読の方は一度目を通していただけると嬉しいです♡
軽食といっても、美味しそうなローストビーフサンドやカツサンドなどボリュームのあるものが置かれていて、集まった医師たちは満足そうに食事を楽しんでいた。
「ああ、よかった。まだ帰ってなかったな。ほら、賢将。あっちだ」
ある人を見つけたらしく、清吾に案内されてついていくとすぐに彼と目が合った。
ああ、彼か。彼もこの学会に来ていたんだな。
「観月くん、素晴らしいゲストを連れてきたよ」
「えっ? もしかして、緑川先生ですか? まだアフリカにいらっしゃるとばかり……帰国されてたんですね」
「観月くん、ご無沙汰だね。つい、先日帰国したんだ。少し休養したら彼の病院で雇ってもらうことになっててね。今日は飛び入り参加させてもらうことにしたよ」
「そうですか、倉橋先生の病院に……。緑川先生がいてくださるなら、鬼に金棒ですね。倉橋先生」
「ああ。彼がきてくれたら私も少しのんびりできるよ」
「今までがお忙しすぎですから、のんびりできるならよかったですよ。緑川先生も帰国されたばかりですからあまり無理はなさらないようにしてくださいね。でもお元気そうで安心しました」
「ああ、ありがとう」
十年前、秋穂の葬儀には家族で参列してくれた。彼は、あの時、失意のどん底まで落ちていた私に寄り添ってくれた人の一人だ。十年ぶりに会っても相変わらず優しい声をかけてくれる。
「ところで、弁護士になった息子くんは元気にしているか?」
高校までは医学部を目指していた彼が、高三で突然法学部に方向転換し、絢斗のいる法学部に首席で合格し、その上、在学中に司法試験にも合格したのは有名な話だ。そこまで優秀な彼だから、卓くんのように独立して事務所も開いているだろうと思ったのだが、
「はい。実は昨年結婚しました」
と想像だにしていなかった言葉が聞こえた。いや、適齢期の息子なのだから、結婚していても不思議はないのだが、清吾の息子同様に彼もそこまで結婚には積極的に見えなかったから驚いてしまった。
「えっ? そうなのか、おめでとう」
「はい。とはいっても、正式な結婚ではなく緑川教授と磯山先生のような形なんです。正式には私の息子となった子と夫夫になりました」
「えっ、ああ……そうなのか。それは、びっくりしたな。でも、相手が男性であれ、息子が幸せになるというのは親としても嬉しいだろう」
「ええ。それはもう! 私も妻も、いい子を連れてきてくれたと心から喜んでいるんですよ。実は、緑川教授にも私たちの可愛い息子を可愛がっていただいているんですよ」
「絢斗と知り合いなのか?」
「はい。可愛い息子は今、法学部の学生なんですよ。来年にはフランスに移住することを目標に頑張っているので、私たちもいずれはフランスに移住するつもりでいます」
「へぇ、フランスに。それはすごいな」
「本当は大学入学と同時にフランスに移住しようと考えていたみたいなんですが、フランスの大学とも話をして、二年ほどこちらで勉強してから転学しようということになったようです。息子もフランスで弁護士として働けるように受験した同等性試験に先日合格しましたし、ゆっくりと準備が進められるのでそれでよかったと思っているようです」
「そうか……お互いにとって幸せな道を歩んでいるのなら、嬉しいことだな」
「はい。それはよく感じています」
幸せそうな観月くんの表情に、息子たちの結婚を心から祝福しているのが感じられて私も嬉しくなる。
絢斗たちが結婚を決意した時には、まだまだ同性婚は珍しく、それ以上に奇異に見られていた。
直くんと昇も困難な道を歩むのではないかと少し心配になったが、この十年の間に日本は変わったようだな。
「賢将、息子たちの話はその辺にしてそろそろ本題に入ったほうがいいんじゃないか?」
背中を小さく小突かれてそうだったと思い出す。
「悪い、つい話し込んでしまった」
「何か私にお話でも?」
「ここだけの話だが、内科や小児科の医師でよからぬ噂を聞いたことはないか?」
「よからぬ噂、ですか? それは患者に対して、ということですか?」
「ああ。何かそういう話を少しでも耳に挟んだことはないか?」
「そうですね……。そういえば、数年前に未就学児を相手に猥褻行為を行っていた恐れがあると告発された田舎の個人病院の医師がいましたが、嫌疑不十分で不起訴になったとか息子が話していたことがあります。司法修習の時の同窓会で話を聞いたとかで、自分なら確実に起訴できるくらい証拠を出してやるのにと怒って珍しく私に話してくれましたからよく覚えてます」
「――っ!! その話、もう少し詳しく聞きたいが、息子くんと話はできないか?」
「え、ええ。大丈夫ですよ。ちょっと連絡してみますね」
観月くんは私たちの勢いに押されるようにすぐに息子に連絡をとってくれた。
* * *
他の作品も読んでくださっている方にはもうすでにお分かりだと思いますが、こちらは右手シリーズ、イケメンスパダリシリーズと同じ世界線にあります。
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『イメケンスパダリ弁護士はようやく見つけた最愛と激甘な夫夫生活始めます』の主人公:観月凌也で弁護士をしています。こちらはそのお話から一年後の世界。19歳になった理央は無事に大学に合格して法学部で勉強しています。来年フランスのシュベルニー大学への転学を目標に頑張っているところです。凌也は理央から離れないように法学部の特別講師として日々一緒に大学に通いながら、フランス移住の準備を整えています。
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