上 下
168 / 314

父との電話

しおりを挟む
数コールの後に電話がつながった。

ー卓か? こんな朝早くにどうした?

ーもしかして外ですか?

ーああ。近くの公園にフードトラックが出ているんだが、そこのタコスが最高でね。散歩がてら買いに行っていたところだよ。

ーそうなんですね。じゃあ、後でかけ直しましょうか?

ーいや、気にしないでいい。それよりどうしたんだ? そっちはもう寝る時間じゃないのか? 絢斗くんに何かあったのか?

ーいえ。あの……ああ、今日毅と二葉さんがフランスに発ちましたよ。

直くんのことを話そうとしたがあまりにも唐突すぎるのもどうかと思って、毅たちの話題を出してみた。流石に父親には海外赴任の話をしているだろうと思ったが、やはり毅は連絡を入れていたようだ。

ーああ。そのことなら毅から連絡が来ていたよ。昇は卓のところに残るんだってな。

ーええ。そうです。もうすぐ大学受験でフランスに行くのは可哀想ですからね。

ーそうだな。絢斗くんの講義を受けるんだって会うたびに話していたからな。

ーはい。頑張って勉強していますよ。

ーそれで、本当に話したいことはなんだ? それじゃないんだろう?

ガチャガチャと鍵を開ける音がする。どうやら家に到着したらしい。

ーちょっと込み入った話になるんですが……。

ーわかった。しっかり聞くとしよう。

電話口の向こうからマグカップにコーヒーを淹れる音が聞こえる。これはいつも父がすることだ。大事な話をするというときはいつも決まってコーヒーを淹れる。父曰く、その方が落ち着いて話が聞けるらしい。

ソファーに腰を下ろす音が聞こえて、どうやら準備が整ったようだ。

ーそれで一体何があった?

ー数ヶ月前に事件がきっかけで中学生の男の子を預かることになりました。母親が重大犯罪を犯し逮捕され、父親は単身で中東に赴任することになり、14歳という年齢のため保護してくれる施設も簡単には見つからないということでしばらくの間、彼を預かることにしたのですが、預かっている間に、彼が実母に虐待され洗脳されていた事実を知り、それと同時に実父から自分を忘れるようにという手紙が彼の元に届き、私は絢斗と話し合って、彼を養子として迎えることにしました。

ーな――っ、養子? 絢斗くんもそれを了承したのか?

ーはい。絢斗も彼……直くんというのですが、直くんを可愛がっていて、今では本当の親子のように過ごしています。

ーそうか。卓が決めたことで絢斗くんも賛成しているなら私が反対することはないが。彼を引き取ったのは数ヶ月前と言ったか?

ーは、はい。

ーその間、私にはなんの知らせもなかったな?

ーすみません。正式に養子縁組が決まったら報告しようと思っていたんですが、毅たちの見送りやらいろいろと予定が重なってしまって……。

ーということは、毅たちには彼……直くんを紹介したということか?

うわ……やっぱり怒ってるな……。ここは潔く謝るしかない。

ーはい。すみません……。

ー賢将さんには連絡を入れたのか?

ーあ、いえ。実は……つい先日、アフリカから帰国なさっていて、直くんが今日熱を出したので往診に来ていただきました。

ーなに? じゃあ賢将さんに先に報告したということか?

ーすみません……。

ーはぁーっ。私が最後だったというのは許し難いが、聞けば事情もあったようだから今回は許すとしよう。その直くんの写真と動画はないのか?

ーたくさんありますが……

ーじゃあそれをすぐに私に送ってくれ。すぐにだぞ。

ーわ、わかりました。

一旦電話を切り、保管アプリの中から絢斗の桜守の制服を来た直くんの写真と、毅たちとお祝いをした時にケーキを前に大喜びしていた動画を送った。

すると、すぐに父からメッセージが送られてきた。

<来週末には帰国する。その時は家に泊めてくれ>

とだけ書かれていたけれど、予定を前倒ししてしかも我が家に泊めてくれと言ってくるなんて今までの父の行動では絶対にあり得ない。

どうやら、直くんは賢将さんに引き続き、私の父までメロメロにしてしまったようだ。
まぁあれだけ可愛いのだから当然か。

<わかりました。気をつけて帰ってきてください>

それだけ送り、スマホをテーブルに置いた。

「絢斗、電話終わったよ」

絢斗は気を遣って私たちの部屋の奥にある書斎スペースで本を読んでいた。だが、きっと気になっていたに違いない。

「すみませんっていっぱい聞こえてたけど、お義父さん、怒ってた?」

「まぁ、自分への報告が最後だってことは怒っていたというよりは呆れていたのかもしれないな。でも事情があったってわかってくれたからよかったよ。直くんの写真と動画が欲しいっていうから送ったら、なんて言ってきたと思う?」

「なんだって?」

「来週末には帰国するから、うちに泊めてくれって」

「えっ、まだあとひと月近くあるのにそんなに早く?」

「もともと、ちょっと手伝いを頼まれて休養がてらアメリカに行っていただけだったから帰国日なんてあってないようなものだよ。それより泊まりに来たいって言い出した方がびっくりしたよ」

「うん、確かに。今まで泊まりはなかったもんね」

「絢斗に気を遣わせるな」

「そんなことないよ。お義父さん、すっごく優しくていい人だし。私、好きだよ」

「絢斗……嬉しいが、少し嫉妬する」

「卓さんったら……」

どれだけ狭量だと思われてもいい。絢斗の愛は私だけのものにしていたい。

「絢斗……いいか?」

「うん、きてぇ……」

いつだって私を受け入れてくれる絢斗を抱きしめて、そのまま私たちはたっぷりと愛し合った。
しおりを挟む
感想 435

あなたにおすすめの小説

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...