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父との電話

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数コールの後に電話がつながった。

ー卓か? こんな朝早くにどうした?

ーもしかして外ですか?

ーああ。近くの公園にフードトラックが出ているんだが、そこのタコスが最高でね。散歩がてら買いに行っていたところだよ。

ーそうなんですね。じゃあ、後でかけ直しましょうか?

ーいや、気にしないでいい。それよりどうしたんだ? そっちはもう寝る時間じゃないのか? 絢斗くんに何かあったのか?

ーいえ。あの……ああ、今日毅と二葉さんがフランスに発ちましたよ。

直くんのことを話そうとしたがあまりにも唐突すぎるのもどうかと思って、毅たちの話題を出してみた。流石に父親には海外赴任の話をしているだろうと思ったが、やはり毅は連絡を入れていたようだ。

ーああ。そのことなら毅から連絡が来ていたよ。昇は卓のところに残るんだってな。

ーええ。そうです。もうすぐ大学受験でフランスに行くのは可哀想ですからね。

ーそうだな。絢斗くんの講義を受けるんだって会うたびに話していたからな。

ーはい。頑張って勉強していますよ。

ーそれで、本当に話したいことはなんだ? それじゃないんだろう?

ガチャガチャと鍵を開ける音がする。どうやら家に到着したらしい。

ーちょっと込み入った話になるんですが……。

ーわかった。しっかり聞くとしよう。

電話口の向こうからマグカップにコーヒーを淹れる音が聞こえる。これはいつも父がすることだ。大事な話をするというときはいつも決まってコーヒーを淹れる。父曰く、その方が落ち着いて話が聞けるらしい。

ソファーに腰を下ろす音が聞こえて、どうやら準備が整ったようだ。

ーそれで一体何があった?

ー数ヶ月前に事件がきっかけで中学生の男の子を預かることになりました。母親が重大犯罪を犯し逮捕され、父親は単身で中東に赴任することになり、14歳という年齢のため保護してくれる施設も簡単には見つからないということでしばらくの間、彼を預かることにしたのですが、預かっている間に、彼が実母に虐待され洗脳されていた事実を知り、それと同時に実父から自分を忘れるようにという手紙が彼の元に届き、私は絢斗と話し合って、彼を養子として迎えることにしました。

ーな――っ、養子? 絢斗くんもそれを了承したのか?

ーはい。絢斗も彼……直くんというのですが、直くんを可愛がっていて、今では本当の親子のように過ごしています。

ーそうか。卓が決めたことで絢斗くんも賛成しているなら私が反対することはないが。彼を引き取ったのは数ヶ月前と言ったか?

ーは、はい。

ーその間、私にはなんの知らせもなかったな?

ーすみません。正式に養子縁組が決まったら報告しようと思っていたんですが、毅たちの見送りやらいろいろと予定が重なってしまって……。

ーということは、毅たちには彼……直くんを紹介したということか?

うわ……やっぱり怒ってるな……。ここは潔く謝るしかない。

ーはい。すみません……。

ー賢将さんには連絡を入れたのか?

ーあ、いえ。実は……つい先日、アフリカから帰国なさっていて、直くんが今日熱を出したので往診に来ていただきました。

ーなに? じゃあ賢将さんに先に報告したということか?

ーすみません……。

ーはぁーっ。私が最後だったというのは許し難いが、聞けば事情もあったようだから今回は許すとしよう。その直くんの写真と動画はないのか?

ーたくさんありますが……

ーじゃあそれをすぐに私に送ってくれ。すぐにだぞ。

ーわ、わかりました。

一旦電話を切り、保管アプリの中から絢斗の桜守の制服を来た直くんの写真と、毅たちとお祝いをした時にケーキを前に大喜びしていた動画を送った。

すると、すぐに父からメッセージが送られてきた。

<来週末には帰国する。その時は家に泊めてくれ>

とだけ書かれていたけれど、予定を前倒ししてしかも我が家に泊めてくれと言ってくるなんて今までの父の行動では絶対にあり得ない。

どうやら、直くんは賢将さんに引き続き、私の父までメロメロにしてしまったようだ。
まぁあれだけ可愛いのだから当然か。

<わかりました。気をつけて帰ってきてください>

それだけ送り、スマホをテーブルに置いた。

「絢斗、電話終わったよ」

絢斗は気を遣って私たちの部屋の奥にある書斎スペースで本を読んでいた。だが、きっと気になっていたに違いない。

「すみませんっていっぱい聞こえてたけど、お義父さん、怒ってた?」

「まぁ、自分への報告が最後だってことは怒っていたというよりは呆れていたのかもしれないな。でも事情があったってわかってくれたからよかったよ。直くんの写真と動画が欲しいっていうから送ったら、なんて言ってきたと思う?」

「なんだって?」

「来週末には帰国するから、うちに泊めてくれって」

「えっ、まだあとひと月近くあるのにそんなに早く?」

「もともと、ちょっと手伝いを頼まれて休養がてらアメリカに行っていただけだったから帰国日なんてあってないようなものだよ。それより泊まりに来たいって言い出した方がびっくりしたよ」

「うん、確かに。今まで泊まりはなかったもんね」

「絢斗に気を遣わせるな」

「そんなことないよ。お義父さん、すっごく優しくていい人だし。私、好きだよ」

「絢斗……嬉しいが、少し嫉妬する」

「卓さんったら……」

どれだけ狭量だと思われてもいい。絢斗の愛は私だけのものにしていたい。

「絢斗……いいか?」

「うん、きてぇ……」

いつだって私を受け入れてくれる絢斗を抱きしめて、そのまま私たちはたっぷりと愛し合った。
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