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おじいちゃんと直くん

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「直くん。カフェオレだよ」

「わぁ! 美味しそう!」

ほんのりと湯気が立つか立たないかというくらいの温かさのカフェオレを小さなマグカップに入れて直くんの前に置くと、直くんは目を輝かせた。
直くんはいつも家で冷たい牛乳と焼いていないパンで朝食を済ませていたようで、ここにきた当初は牛乳を飲みたがらないことに伯父さんが気付き、ほんの少し色づく程度のコーヒーと少し多めの砂糖を入れて、温めてカフェオレと言って飲ませたら喜んで口にしたそうだ。
九割ぐらい牛乳だけど、直くんには全く違うものに感じられただろう。

それ以来、直くんの温かい飲み物といえばこれだ。

火傷をしない程度に温めたが、大おじさんはそのマグカップを取ると少し冷ましてあげてから直くんに持たせた。もちろん片手で補助もつけながら。
その様子があまりにも堂に入っていて、きっと小さな頃の絢斗さんもそうしていたんだろうとすぐにわかった。

「んっ、美味しーい」

「そうか、良かった」

まなじりを下げて直くんを見つめる姿はもう祖父の姿そのものだ。その様子を絢斗さんは隣で嬉しそうにみていた。

小さなカップだったから、直くんはすぐにそれを飲み干した。満足そうな表情におかわりはいらないなと思った。

「おじいちゃんは今日はここにお泊まりするの?」

「今日は急に来たからね。今度は泊まりに来てもいいかな?」

「おじいちゃんがいたら嬉しい」

「――っ、そうか。なら泊まらせてもらおうか。いいかな? 卓くん」

「ええ。家族なのでいつでも泊まりに来てくださって構いませんよ」

「ありがとう」

ほんの少しの時間で、大おじさんはすっかり直くんの心を掴んだようだ。さすが、アフリカで患者と向き合い寄り添って診察してきた人だ。俺の知らない心の傷をまだたくさん持っているだろう直くんには大おじさんのような存在が必要なんだろうな。

「寛さんはもう泊まりに来たのかな?」

「ひろし、さん?」

「直くん、寛さんは卓さんのお父さん。直くんと昇さんのおじいちゃんになる人だよ。寛さんは今、アメリカに行ってて来月帰国する予定になってるんだよ。ねぇ、卓さん」

「そうなんです。だからまだ直くんのことは話ができていなくて……」

「そうか。寛さんもアメリカに行っている間にこんなに可愛い孫ができていたと知ったら喜ぶだろうな」

「喜んでくれますか?」

「ああ。もちろんだよ。寛さんをおじいちゃんって呼んだらこうして抱っこしてくれるよ」

「でも……」

「んっ? 何か気になることがあるかな?」

大おじさんの優しい問いかけに直くんは少し困った顔をしながらゆっくりと口を開いた。

「あの……おじいちゃんもおじいちゃんだし、もう一人おじいちゃんがいたらどっちを呼んでいるのかわからなくなっちゃいそうだなって……」

「ははっ。確かにそうだな。じゃあ、わかりやすくするためにどうしようか?」

「うーん、難しいです……」

直くんは伯父さんと絢斗さんの呼び方を考える時にも悩んでいたもんな。二人のおじいちゃんの呼び方か……。確かになんて呼んだらいいんだろうな。

「まぁ、まだじいちゃんが帰ってくるまで時間はあるし、ゆっくり考えたらいいよ。ねっ、伯父さん」

「そうだな、父も直くんになんて呼ばれたいか、希望してくるかもしれないし」

「ははっ、それありそう!!」

「それまでは賢将さんをおじいちゃんと呼んだらいいよ。直くん」

伯父さんの言葉に直くんは嬉しそうに大おじさんに抱きついた。

「おじいちゃん……」

「直くん……」

ああ、可愛い……と大おじさんの心の声が聞こえたような気がした。

しばらく大おじさんが抱っこしていると、直くんがまた眠り始めた。さっきのカフェオレで身体があったまったのもあるし、ほっとしたのも大きいんだろう。

「昇、部屋で寝かせておいで」

大おじさんは俺に直くんを返してくれて、久しぶりに戻ってきた直くんを優しく腕に抱き、部屋に連れて行った。

<side卓>

昇が直くんを部屋に連れて行くのを見送っていると、

「本当に可愛い子だな。あの子は」

と嬉しそうな声が聞こえた。

「お父さんが直くんのことを気に入ってくれて嬉しいよ」

「あの子は小さい時の絢斗にそっくりだ。だから懐かしさでいっぱいになったよ」

「うん、私もたまに似てるなって思う時があるよ。でもね、あの子はすっごく優しい子で、私にもできるおにぎりの作り方をわざわざ調べて教えてくれたんだよ」

「えっ? 絢斗がおにぎり?」

「ええ。絢斗が作ってくれたおにぎりは美味しかったですよ。絢斗、今度賢将さんにも作ってあげるといい」

「うん。お父さん、食べてくれる?」

「ああ。もちろんだよ。そうか……絢斗が、おにぎりを……。それは秋穂も喜んでるな」

こうして普通に秋穂さんの名前を出せるようになったのか。吹っ切れたというよりは、心の中にずっと一緒にいるとわかったのかもしれないな。
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