164 / 314
私の孫だ!
しおりを挟む
<side賢将>
――直くんが起きた。
そんな昇の声に振り向けば、昇の腕の中でタオルケットに包まった小さな子が一瞬体を震わせながらこちらを見ていた。
なんの曇りもなく澄み切った黒い瞳が絢斗と卓くんに向いたあとで私を見た。その瞬間、なんとも言えない感情が心の中に湧き上がった。
急いで立ち上がって彼の元に近づくと、彼の瞳に私だけが映っていることに気づく。ああ、なんて綺麗な瞳で私をみてくれるんだろう。彼の目を見ているだけで幼い日の絢斗を思い出す。
――パパーっ、おかえりなさい!! あのねー、あやと、きょう、ようちえんでおままごとしたのー!
無邪気な笑顔を見せて玄関に駆け寄ってくれたあの頃。本当に懐かしい。
直くん……そう呼ぼうとした瞬間、
「おじいちゃん……?」
小さな口がそう告げた。
ああ、この子は私の孫だ。血のつながりなどどうでもいい。この子が私をおじいちゃんと思ってくれるのなら私の孫に違いない!
「ああ……そうだよ。直くんの、おじいちゃんだ……」
この上ない笑顔で両手を差し出すと、直くんは私の目をじっと見たまま私に向かって両腕を伸ばした。
本当になんて可愛いんだろう。あまりの愛おしさに震えそうになるのを必死に抑えながらこの子を腕に抱く。
昇はそんな私たちの様子に微笑みながらそっとその場を離れた。
「ああ、熱は下がったようだな。よかった」
先ほどまでの熱さもなく、落ち着いていることにホッとする。
「おじいちゃん……嬉しい?」
「ああ。嬉しいよ。熱が下がったのも、直くんと会えたこともね」
「――っ、僕も嬉しいです……」
「そうか、お揃いだな」
「――っ!! はい、お揃いです!!」
やっぱり絢斗と同じだな。幼い絢斗もお揃いというと喜んでいた。本当に愛らしい。
それにしてもこの子の軽さは異常だな。寝ている状態でも痩せすぎだとわかったが、抱きかかえるとさらによくわかる。中学生だと話していたが、健康的な小学生より身長も低いし、体重もずっと軽い。
アフリカで栄養失調の子どもたちをたくさん診てきたが、彼らと変わらないくらいだ。この飽食の国日本でそのような子がいるとはな。驚きというよりも衝撃と言った方が正しいかもしれない。
「あっちに座って少し話をしながら診察してもいいかな?」
「診察……」
その言葉にビクッと身体を震わせた。ほんの一瞬だが、不安げな表情もしていたし、この子が何かトラウマを持っているというのはすぐに理解した。絢斗たちはこれを知っていたから病院に連れて行かず私に往診を頼んだのか?
そっと絢斗たちに視線を向けると、彼らもまた戸惑っている様子が見える。どうやら知らなかったようだな。それなら、絢斗も一緒にいた方がいいだろう。
「絢斗、こっちにきてくれないか? 卓くんは、直くんに何か温かいものでも用意してあげてくれ」
私の言葉に二人はサッと動き、絢斗は笑顔で私たちのもとにやってきた。昇はキッチンに向かった卓くんについて行ったようだな。
広々としたソファーに直くんを抱きかかえたまま腰を下ろし、絢斗は直くんのすぐそばに座った。それだけで直くんの表情が和らぐのがわかる。どうやら相当心を許しているようだ。
「どうかな? 最近はよく眠れているかな?」
「はい。昇さんがぎゅって抱きしめてくれるのでよく寝れます」
昇が抱きしめる……? そうか、だからあんなにも愛おしそうに抱きかかえていたか。
「でも……」
「でも? 何かあったかな?」
「昨日は、緊張してなかなか眠れなくて……」
「緊張?」
「お父さん、今日みんなで空港に行ったんだ。二葉さんと毅さんがフランスに行くことになって見送りに行ったの。その後、昇くんの友人たちとも会う予定になっていたからそれにちょっと緊張しちゃったんだよね?」
「はい。ドイツからお友だちが来てくれて、僕楽しくて、はしゃいじゃって……」
「そうか、それで少し疲れが出たのかもしれないな。ちゃんと休んでいたらすぐに元気になるよ」
私の言葉に笑顔を見せる直くんとそれを愛おしそうな目でみる絢斗。周りから見れば、私たち3人は本当に家族のように見えているに違いない。
<side昇>
「伯父さん……俺、ちょっとびっくりしたよ。まさか直くんが大おじさんをおじいちゃんって呼びかけるとは思わなかった」
「ああ、私もだ。お前が話をしたのか?」
「うん。診察をしてもらおうっていったら、急にパニックになって青褪めたから絢斗さんのお父さんだから大丈夫って声をかけたんだ。直くんのおじいちゃんになる人だからって……」
「そうか。だからおじいちゃんと呼びかけたか。だが、それよりもさっきも診察と聞いただけで少し動揺していたのが気になるな」
「やっぱり伯父さんも気づいたんだね」
「ああ。もちろん賢将さんもな。でもあそこまで怖がるとは……何か嫌なことをされたとしか思えないな。直くんに無理やり聞き出すことはしないが、何があったかは調べておいた方が良さそうだな」
そう話す伯父さんの目は俺の知っている目とは全然違って、怒りに満ち溢れていた。
――直くんが起きた。
そんな昇の声に振り向けば、昇の腕の中でタオルケットに包まった小さな子が一瞬体を震わせながらこちらを見ていた。
なんの曇りもなく澄み切った黒い瞳が絢斗と卓くんに向いたあとで私を見た。その瞬間、なんとも言えない感情が心の中に湧き上がった。
急いで立ち上がって彼の元に近づくと、彼の瞳に私だけが映っていることに気づく。ああ、なんて綺麗な瞳で私をみてくれるんだろう。彼の目を見ているだけで幼い日の絢斗を思い出す。
――パパーっ、おかえりなさい!! あのねー、あやと、きょう、ようちえんでおままごとしたのー!
無邪気な笑顔を見せて玄関に駆け寄ってくれたあの頃。本当に懐かしい。
直くん……そう呼ぼうとした瞬間、
「おじいちゃん……?」
小さな口がそう告げた。
ああ、この子は私の孫だ。血のつながりなどどうでもいい。この子が私をおじいちゃんと思ってくれるのなら私の孫に違いない!
「ああ……そうだよ。直くんの、おじいちゃんだ……」
この上ない笑顔で両手を差し出すと、直くんは私の目をじっと見たまま私に向かって両腕を伸ばした。
本当になんて可愛いんだろう。あまりの愛おしさに震えそうになるのを必死に抑えながらこの子を腕に抱く。
昇はそんな私たちの様子に微笑みながらそっとその場を離れた。
「ああ、熱は下がったようだな。よかった」
先ほどまでの熱さもなく、落ち着いていることにホッとする。
「おじいちゃん……嬉しい?」
「ああ。嬉しいよ。熱が下がったのも、直くんと会えたこともね」
「――っ、僕も嬉しいです……」
「そうか、お揃いだな」
「――っ!! はい、お揃いです!!」
やっぱり絢斗と同じだな。幼い絢斗もお揃いというと喜んでいた。本当に愛らしい。
それにしてもこの子の軽さは異常だな。寝ている状態でも痩せすぎだとわかったが、抱きかかえるとさらによくわかる。中学生だと話していたが、健康的な小学生より身長も低いし、体重もずっと軽い。
アフリカで栄養失調の子どもたちをたくさん診てきたが、彼らと変わらないくらいだ。この飽食の国日本でそのような子がいるとはな。驚きというよりも衝撃と言った方が正しいかもしれない。
「あっちに座って少し話をしながら診察してもいいかな?」
「診察……」
その言葉にビクッと身体を震わせた。ほんの一瞬だが、不安げな表情もしていたし、この子が何かトラウマを持っているというのはすぐに理解した。絢斗たちはこれを知っていたから病院に連れて行かず私に往診を頼んだのか?
そっと絢斗たちに視線を向けると、彼らもまた戸惑っている様子が見える。どうやら知らなかったようだな。それなら、絢斗も一緒にいた方がいいだろう。
「絢斗、こっちにきてくれないか? 卓くんは、直くんに何か温かいものでも用意してあげてくれ」
私の言葉に二人はサッと動き、絢斗は笑顔で私たちのもとにやってきた。昇はキッチンに向かった卓くんについて行ったようだな。
広々としたソファーに直くんを抱きかかえたまま腰を下ろし、絢斗は直くんのすぐそばに座った。それだけで直くんの表情が和らぐのがわかる。どうやら相当心を許しているようだ。
「どうかな? 最近はよく眠れているかな?」
「はい。昇さんがぎゅって抱きしめてくれるのでよく寝れます」
昇が抱きしめる……? そうか、だからあんなにも愛おしそうに抱きかかえていたか。
「でも……」
「でも? 何かあったかな?」
「昨日は、緊張してなかなか眠れなくて……」
「緊張?」
「お父さん、今日みんなで空港に行ったんだ。二葉さんと毅さんがフランスに行くことになって見送りに行ったの。その後、昇くんの友人たちとも会う予定になっていたからそれにちょっと緊張しちゃったんだよね?」
「はい。ドイツからお友だちが来てくれて、僕楽しくて、はしゃいじゃって……」
「そうか、それで少し疲れが出たのかもしれないな。ちゃんと休んでいたらすぐに元気になるよ」
私の言葉に笑顔を見せる直くんとそれを愛おしそうな目でみる絢斗。周りから見れば、私たち3人は本当に家族のように見えているに違いない。
<side昇>
「伯父さん……俺、ちょっとびっくりしたよ。まさか直くんが大おじさんをおじいちゃんって呼びかけるとは思わなかった」
「ああ、私もだ。お前が話をしたのか?」
「うん。診察をしてもらおうっていったら、急にパニックになって青褪めたから絢斗さんのお父さんだから大丈夫って声をかけたんだ。直くんのおじいちゃんになる人だからって……」
「そうか。だからおじいちゃんと呼びかけたか。だが、それよりもさっきも診察と聞いただけで少し動揺していたのが気になるな」
「やっぱり伯父さんも気づいたんだね」
「ああ。もちろん賢将さんもな。でもあそこまで怖がるとは……何か嫌なことをされたとしか思えないな。直くんに無理やり聞き出すことはしないが、何があったかは調べておいた方が良さそうだな」
そう話す伯父さんの目は俺の知っている目とは全然違って、怒りに満ち溢れていた。
1,548
お気に入りに追加
2,182
あなたにおすすめの小説
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる