ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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直くんの優しさ

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<side昇>

父さんと伯父さんたち。
母さんと直くんたち。

それぞれ最後の時間を惜しむように楽しく話をしているのを村山と邪魔をせずに二人で待っていると、

「お前、両親と別れるのに全然寂しそうじゃないな」

と村山に笑われた。

「いや、これが今生の別れだっていうならそりゃあ俺だって涙の一つも流すだろうけど、数年で帰ってくるんだし、父さんと母さんのことだから休暇のたびに帰ってきたり俺たちを呼び寄せたりするだろうしな。小学生の子どもでもあるまいし、両親と離れ離れだからって別に寂しくはならないだろう。お前だって、今両親が海外赴任になったからって寂しいか?」

「いや、特にないな」

「だろう? 同じだよ。それに今は、直くんのそばにいられる方が嬉しいからな」

「はいはい。恋人になったんだもんな」

呆れたように言っているが、きっとカールと会った後の村山も今の俺と同じようになるだろう。

そろそろ出国手続きに向かう時間だなと思っていると父さんもそれに気づいたようで、母さんに声をかけていた。ギリギリまで声をかけなかったのは、父さんの優しさだろう。

けれど、寂しそうな声をあげたのは母さんではなく、隣にいた直くんだった。

楽しそうに話していたからな。きっと別れるのが寂しいのだろう。直くんの方が母さんたちの本当の子どもみたいだ。

きっとここでお別れと思っているだろうから出国手続きに向かうギリギリまで連れて行こうと思い、

「一緒に行こう!」

と声をかけると、なぜかやる気に漲った顔で、

「僕がついてますから安心してください!! 」

と言い出した。

正直言って、直くんがどうしてそんなことを言い出したのかは全くわからない。
けれど、きっと俺のために言ってくれているんだと思うと嬉しかった。

店を出ると、直くんは俺の手をとって保安検査場まで歩いていく父さんたちに駆け寄った。

「あ、あの毅パパ、ふーちゃん……いつでも、連絡してください。僕たち、待ってますから。ねぇ、昇さん」

「んっ? ああ、そうだね」

「直くん……ありがとう」

「昇さんもパパとママに何か言わなくていいですか?」

直くんにそう言われたら何か言葉をかけないわけにはいかない。

「えっ? ああ、まぁ……頑張ってきてよ。フランス、寒くなるだろうから体調には気をつけて」

すぐに寒くなるだろうから、とりあえず体調だけ気をつけてもらえればそれでいい。

「ええ。そうするわ。ありがとう」

母さんは俺が困惑しながらも直くんの手前、なんとか絞り出した言葉に笑っていた。
父さんは俺の肩をポンと叩き、笑顔を見せていた。

そうして、あっという間に保安検査場の入り口までやってきた。この検査を受けると出国審査が待っている。
ここでお別れだ。

伯父さんと絢斗さん、村山の両親が父さんたちとの最後の別れをして、最後に俺たち。

「直くん、昇。しばらく離れるけれど二人とも頑張ってね」

「昇、しっかりやるんだぞ。不合格だったらフランスに連れて行くからな」

母さんと父さんから声をかけられて、俺は少し照れ臭い。

「ああ、わかってるよ」

そんなぶっきらぼうに返す俺を直くんは少し潤んだ目で見つめた。

「毅パパ、ふーちゃん。あの……昇さんは、寂しくてうまく言えないだけなんです。だから、昇さんのことは心配しないでください! 僕がそばにいますから!!」

「「「えっ?」」」

突然の直くんの言葉に俺も父さんも母さんも驚くことしかできない。

「直くん……」

「昇さん、本当に無理しなくていいですよ。寂しい時は寂しいって言っていいんです。ちゃんと僕がそばにいますから。ねっ」

「――っ!!!」

直くんのその言葉に、さっきまでの直くんの態度や言葉の意味がわかった気がした。
直くんの優しさが身にしみる。

「直くん、ありがとう。直くんがいてくれるから安心してフランスに行けるわ。昇をよろしくね」

「はい!!」

母さんは最後に直くんをギュッと抱きしめると、父さんと一緒に保安検査場に入って行った。

「ふーちゃん! 毅パパ!! いってらっしゃーいっ!!」

さようならじゃなく、行ってらっしゃい。その言葉に父さんも母さんも笑顔を見せていた。

直くんは二人の姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。
二人の姿が完全に見えなくなって、直くんはゆっくりと手を下ろした。

「直くん、ありがとう。おかげで母さんたちも喜んでいたと思う」

「昇さん……あの、ちょっと屈んでもらっていいですか?」

「えっ? こう?」

「はい」

直くんと同じくらいに屈んでみせると、スッと直くんの小さな手が俺の頭を撫でる。

「大丈夫、寂しくないですよ。僕がついてますから」

「――っ!!!」

俺を慰めようとしてくれているのか……。
俺は、その直くんの優しさに涙が潤んでしまっていた。
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