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早すぎる……
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<side卓>
村山家も加わって、絢斗たちはすっかり盛り上がっているが、その話の中心はフランスに旅立つ二葉さんではなく、私の可愛い息子・直くんだ。
瑠璃さんも最初こそ、二葉さんとの別れを惜しんでいたが、直くんの存在に気づくとやはり直くんと仲良くなりたくて仕方がないらしい。
まぁ、瑠璃さんの気持ちもわからないではない。なんといっても直くんは可愛いのだから。
絢斗と二葉さん、そして直くんと瑠璃さんが話をしているのを、私と毅、そして瑠璃さんの旦那である純弥くんと邪魔をしないように見ていると、
「あの子、本当に卓さんの養子になさったんですか?」
と純弥くんに尋ねられる。
「ああ、特別養子縁組で迎えたから正式に私の実子だよ」
「そうなんですね。素直ないい子なのがよくわかりますね」
「そうだろう」
私の息子が褒められるというのは実に嬉しいものだ。
「お前、せっかく卓さんのところにあんな可愛い息子ができたのに、このタイミングで日本を離れるのは辛いだろう?」
純弥くんが毅に小声でそっと尋ねると、毅は直くんにそっと視線をむけ少しはにかみながらも頷いた。
「はは、まぁな。せっかくなら、二葉のためにももう少し親戚として親睦を深めてからが良かったかなと思ったけど、本社に行くのは昔からの夢だったし、兄さんの息子になったならフランスに遊びにきてもらうのも可能だから二葉ほど悲観はしていないよ。二葉のためにも休暇が取れたら日本に一時帰国するつもりだし、なんとかなるだろう。それより、お前のところに昇がホームスティを頼んだだろう? あれも突然で悪かったな」
「いやいや、お前の転勤自体が突然だったんだから仕方ないし、今日迎えるまでに俺と瑠璃も何度かビデオチャットでカールくんとは話もしているから何も心配はしていないよ。かなり良い子でさ、俺たちも結構楽しみにしているんだ」
「そうなのか?」
確かに直くんとも最初から打ち解けていたし、言葉遣いも悪くないし、気遣いもできる良い子だと私も思った。
ただ絢斗を気に入った様子だったから、大人げなく牽制してしまったが……。
今日会ったら、あの時のことは謝っておいたほうがいいだろうな。
「ああ、実はさ。龍弥が相当カールくんのことを気に入っているみたいなんだよ」
「そうか、やっぱりな」
「お前、知っていたのか?」
「直くんにクマのぬいぐるみを買った昇と一緒に、龍弥くんが犬のぬいぐるみを買っていたんだ。その時の様子が気になっていたからよく覚えていた」
「ああ、あのぬいぐるみか。今日もすぐに渡すからって車の中に連れてきてるよ」
「ははっ。それはかなりのものだな」
「瑠璃もかなりカールくんのことは気に入っていたんだが、龍弥の態度を見てもうすっかり息子にする気満々で、部屋もカールくん仕様に変えてるんだよ。今回のホームスティだけじゃなくて、大学在学中もうちで面倒見る気満々だよ」
「それはすごいな。元々日本の大学に行くつもりだったみたいだから喜ぶだろうが、カールくんの親は大丈夫なのか?」
「ああ、一応カールくんの両親ともビデオチャットで挨拶はしてるんだ。瑠璃が大学に合格したらその時はうちで面倒見るっていったらかなり喜んでくれていたよ」
「そうか。それなら安心だな」
まだ、実際に会ったわけでもないのに、そこまで話が進んでいるのならうまく行くだろうな。
「毅、そろそろ出国手続きに行ったほうがいいんじゃないか?」
ふと時計を見れば、もうそこまでゆっくりしている時間はない。
二葉さんは直くんと絢斗たちを交えながら話に夢中の様子。
可哀想だが、仕方がない。
「二葉。そろそろ時間だよ」
「えっ……」
毅の声に、声をあげたのは二葉自身ではなく、直くんだった。
「もう、行っちゃうんですか?」
「――っ!!」
少し目を潤ませて、毅に問いかける様子に毅も苦しそうだが、仕方がない。
立ち上がって店を出る準備をしている間に、私はサッと会計を済ませておいた。
<side直純>
村山くんのご両親もきて、毅パパとふーちゃんとのお別れを惜しんでいると、そろそろ時間だと声をかけられた。
もうお別れ……。早すぎる。
そっと昇さんを見ると、すぐに僕の視線に気づいてニコッと笑ってくれる。
一生懸命笑顔を見せてくれているけれど、昇さんにとってはパパとママとのお別れ。
絶対に寂しいに決まっている。
それなのに、僕がずっとふーちゃんとお話ししていて昇さんはずっと話を聞いているだけだった。
僕……もっと昇さんとふーちゃんをお話しさせてあげれば良かった……。
僕ったら気が利かないな。
「直くん、父さんたちの出国手続きに行く手前まで見送れるから一緒に行こう」
これが最後のチャンスだ!!
僕はちゃんと昇さんと毅パパとふーちゃんのお別れを見届けて慰めるんだ!!
「はい。あの、昇さん!」
「どうした?」
「僕がついてますから安心してください!! 」
「えっ? あ、うん。ありがとう」
そういって笑う昇さんは少し、寂しげに見えた。
村山家も加わって、絢斗たちはすっかり盛り上がっているが、その話の中心はフランスに旅立つ二葉さんではなく、私の可愛い息子・直くんだ。
瑠璃さんも最初こそ、二葉さんとの別れを惜しんでいたが、直くんの存在に気づくとやはり直くんと仲良くなりたくて仕方がないらしい。
まぁ、瑠璃さんの気持ちもわからないではない。なんといっても直くんは可愛いのだから。
絢斗と二葉さん、そして直くんと瑠璃さんが話をしているのを、私と毅、そして瑠璃さんの旦那である純弥くんと邪魔をしないように見ていると、
「あの子、本当に卓さんの養子になさったんですか?」
と純弥くんに尋ねられる。
「ああ、特別養子縁組で迎えたから正式に私の実子だよ」
「そうなんですね。素直ないい子なのがよくわかりますね」
「そうだろう」
私の息子が褒められるというのは実に嬉しいものだ。
「お前、せっかく卓さんのところにあんな可愛い息子ができたのに、このタイミングで日本を離れるのは辛いだろう?」
純弥くんが毅に小声でそっと尋ねると、毅は直くんにそっと視線をむけ少しはにかみながらも頷いた。
「はは、まぁな。せっかくなら、二葉のためにももう少し親戚として親睦を深めてからが良かったかなと思ったけど、本社に行くのは昔からの夢だったし、兄さんの息子になったならフランスに遊びにきてもらうのも可能だから二葉ほど悲観はしていないよ。二葉のためにも休暇が取れたら日本に一時帰国するつもりだし、なんとかなるだろう。それより、お前のところに昇がホームスティを頼んだだろう? あれも突然で悪かったな」
「いやいや、お前の転勤自体が突然だったんだから仕方ないし、今日迎えるまでに俺と瑠璃も何度かビデオチャットでカールくんとは話もしているから何も心配はしていないよ。かなり良い子でさ、俺たちも結構楽しみにしているんだ」
「そうなのか?」
確かに直くんとも最初から打ち解けていたし、言葉遣いも悪くないし、気遣いもできる良い子だと私も思った。
ただ絢斗を気に入った様子だったから、大人げなく牽制してしまったが……。
今日会ったら、あの時のことは謝っておいたほうがいいだろうな。
「ああ、実はさ。龍弥が相当カールくんのことを気に入っているみたいなんだよ」
「そうか、やっぱりな」
「お前、知っていたのか?」
「直くんにクマのぬいぐるみを買った昇と一緒に、龍弥くんが犬のぬいぐるみを買っていたんだ。その時の様子が気になっていたからよく覚えていた」
「ああ、あのぬいぐるみか。今日もすぐに渡すからって車の中に連れてきてるよ」
「ははっ。それはかなりのものだな」
「瑠璃もかなりカールくんのことは気に入っていたんだが、龍弥の態度を見てもうすっかり息子にする気満々で、部屋もカールくん仕様に変えてるんだよ。今回のホームスティだけじゃなくて、大学在学中もうちで面倒見る気満々だよ」
「それはすごいな。元々日本の大学に行くつもりだったみたいだから喜ぶだろうが、カールくんの親は大丈夫なのか?」
「ああ、一応カールくんの両親ともビデオチャットで挨拶はしてるんだ。瑠璃が大学に合格したらその時はうちで面倒見るっていったらかなり喜んでくれていたよ」
「そうか。それなら安心だな」
まだ、実際に会ったわけでもないのに、そこまで話が進んでいるのならうまく行くだろうな。
「毅、そろそろ出国手続きに行ったほうがいいんじゃないか?」
ふと時計を見れば、もうそこまでゆっくりしている時間はない。
二葉さんは直くんと絢斗たちを交えながら話に夢中の様子。
可哀想だが、仕方がない。
「二葉。そろそろ時間だよ」
「えっ……」
毅の声に、声をあげたのは二葉自身ではなく、直くんだった。
「もう、行っちゃうんですか?」
「――っ!!」
少し目を潤ませて、毅に問いかける様子に毅も苦しそうだが、仕方がない。
立ち上がって店を出る準備をしている間に、私はサッと会計を済ませておいた。
<side直純>
村山くんのご両親もきて、毅パパとふーちゃんとのお別れを惜しんでいると、そろそろ時間だと声をかけられた。
もうお別れ……。早すぎる。
そっと昇さんを見ると、すぐに僕の視線に気づいてニコッと笑ってくれる。
一生懸命笑顔を見せてくれているけれど、昇さんにとってはパパとママとのお別れ。
絶対に寂しいに決まっている。
それなのに、僕がずっとふーちゃんとお話ししていて昇さんはずっと話を聞いているだけだった。
僕……もっと昇さんとふーちゃんをお話しさせてあげれば良かった……。
僕ったら気が利かないな。
「直くん、父さんたちの出国手続きに行く手前まで見送れるから一緒に行こう」
これが最後のチャンスだ!!
僕はちゃんと昇さんと毅パパとふーちゃんのお別れを見届けて慰めるんだ!!
「はい。あの、昇さん!」
「どうした?」
「僕がついてますから安心してください!! 」
「えっ? あ、うん。ありがとう」
そういって笑う昇さんは少し、寂しげに見えた。
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