134 / 360
ずっと見守っていよう
しおりを挟む
午後の講義の前に皐月に電話してみようと思いつつ、必要な荷物を持ってリビングに向かうと、直くんがスマホを手に嬉しそうに笑っていた。
「楽しそうだね」
「あ、あやちゃん。一花さんからメッセージが来たんです」
嬉しそうに見せてくれる画面を覗くと、一花ちゃんとグリが映っているのが見える。
「ああ、可愛いっ!」
「一緒に動画も送ってくれたんですよ」
直くんが嬉しそうに動画を再生すると、グリが立ち上がって、両手を差し出しちょうだい、ちょうだいと餌を強請っている様子が見えた。
「すごーいっ、可愛いっ!!」
もう可愛すぎて、それしか言えない。
でも本当に可愛いんだからどうしようもない。
「ウサギさんって、こんなにお利口さんなんですね」
「うん、でもグリは特別お利口さんだよ。きっと一花ちゃんと心が通じ合ってるんじゃないかな?」
「ああ、確かにここに来てた時も言葉が通じてるんじゃないかって思うくらい仲良しさんでしたもんね。また一緒に遊びたいなぁ」
食い入るように一花ちゃんとグリの動画を見る直くんを見ながら、やっぱり一花ちゃんと何かできることを考えてやらないとなと改めて思った。
すると、突然玄関がガチャっと開く音がする。
あれ?
卓さんなら今はまだ休憩時間でもないはずだけど……。
直くんも不思議そうにそっちに視線を向ける。
「絢斗」
「あ、やっぱり卓さん」
慌てて玄関に向かうと、真剣な表情の卓さんが立っていた。
「どうしたの、こんな時間に」
「保さんから書類が届いたんだ。だから、今から家庭裁判所に行ってくる」
「えっ、じゃあ直くんは……」
「ああ、直くんの場合は特例として、書類を出して裁判所で確認してもらったらすぐに戸籍に入れるようにしてもらっているから、今日中に私の息子として認めてもらえるよ」
「――っ、そうなんだ。よかった!」
もっと時間がかかると思ってた。
でも、これで正式に卓さんの息子になれば、今の窮屈な生活から少しは自由になれるはず。
直くんにとってはこれが一番最良なんだ。
「だから悪い。今日は昼は戻って来られないから、弁当を頼んでおいた。中谷くんがお昼に持ってきてくれることになってるから受け取ってくれ」
「そんな、私たちのお昼の心配はしなくてもよかったのに」
「いや、それは私が嫌なんだ。二人でしっかりとお昼を食べておいてくれ」
「うん、わかった。ありがとう。直くんには卓さんが帰ってきたら話をする?」
「いや、もう話しておいていいよ。その方が直くんも私が帰ってくるまでに気持ちの整理もできるだろう」
「うん、そうだね。わかった。卓さん、気をつけて」
「ああ、行ってくるよ」
チュッと唇が重なって離れていく。
笑顔のまま卓さんを見送って、私は直くんの元に戻った。
「パパ、もう戻っちゃったんですか?」
「うん、ちょっと報告に来てくれただけだったから」
「報告、ですか?」
「話、聞こえてなかった?」
直くんは私たちの話を意識して聞いていなかったのか、首を縦に振った。
「大丈夫、怖いことじゃないよ。あのね、直くんのお父さんから書類が届いて、卓さんがそれを家庭裁判所に持っていくことになったって報告だったんだよ」
「えっ、じゃあそれって……」
「うん。今日卓さんが帰ってきた時には、直くんは正式に卓さんの息子、磯山直純として新しい人生を過ごしていくことになるよ」
「僕が、磯山直純、として……」
「そう。でも、前にも言ったけどお父さんと縁が切れるわけじゃないからね。直くんに家族が増えただけだよ」
「――っ、あやちゃんっ!! 僕、嬉しいっ!!」
「わっ!!」
突然、直くんが抱きついてきて驚いた。
私から抱きつくことはあっても、直くんがこんなにも感情豊かに抱きついてきてくれることはあまりなかったから。
でも、私の胸で感情を爆発させる姿に、私は少しホッとしたのかもしれない。
「うん、私も嬉しい。戸籍上は兄弟だけど、今まで通りあやちゃんでいいからね」
「はい。あやちゃんっ!!」
目に涙を潤ませたまま、私の名前を呼んでくれる直くんが一生幸せでいられるようにずっと見守っていよう。
そう心に誓った。
「楽しそうだね」
「あ、あやちゃん。一花さんからメッセージが来たんです」
嬉しそうに見せてくれる画面を覗くと、一花ちゃんとグリが映っているのが見える。
「ああ、可愛いっ!」
「一緒に動画も送ってくれたんですよ」
直くんが嬉しそうに動画を再生すると、グリが立ち上がって、両手を差し出しちょうだい、ちょうだいと餌を強請っている様子が見えた。
「すごーいっ、可愛いっ!!」
もう可愛すぎて、それしか言えない。
でも本当に可愛いんだからどうしようもない。
「ウサギさんって、こんなにお利口さんなんですね」
「うん、でもグリは特別お利口さんだよ。きっと一花ちゃんと心が通じ合ってるんじゃないかな?」
「ああ、確かにここに来てた時も言葉が通じてるんじゃないかって思うくらい仲良しさんでしたもんね。また一緒に遊びたいなぁ」
食い入るように一花ちゃんとグリの動画を見る直くんを見ながら、やっぱり一花ちゃんと何かできることを考えてやらないとなと改めて思った。
すると、突然玄関がガチャっと開く音がする。
あれ?
卓さんなら今はまだ休憩時間でもないはずだけど……。
直くんも不思議そうにそっちに視線を向ける。
「絢斗」
「あ、やっぱり卓さん」
慌てて玄関に向かうと、真剣な表情の卓さんが立っていた。
「どうしたの、こんな時間に」
「保さんから書類が届いたんだ。だから、今から家庭裁判所に行ってくる」
「えっ、じゃあ直くんは……」
「ああ、直くんの場合は特例として、書類を出して裁判所で確認してもらったらすぐに戸籍に入れるようにしてもらっているから、今日中に私の息子として認めてもらえるよ」
「――っ、そうなんだ。よかった!」
もっと時間がかかると思ってた。
でも、これで正式に卓さんの息子になれば、今の窮屈な生活から少しは自由になれるはず。
直くんにとってはこれが一番最良なんだ。
「だから悪い。今日は昼は戻って来られないから、弁当を頼んでおいた。中谷くんがお昼に持ってきてくれることになってるから受け取ってくれ」
「そんな、私たちのお昼の心配はしなくてもよかったのに」
「いや、それは私が嫌なんだ。二人でしっかりとお昼を食べておいてくれ」
「うん、わかった。ありがとう。直くんには卓さんが帰ってきたら話をする?」
「いや、もう話しておいていいよ。その方が直くんも私が帰ってくるまでに気持ちの整理もできるだろう」
「うん、そうだね。わかった。卓さん、気をつけて」
「ああ、行ってくるよ」
チュッと唇が重なって離れていく。
笑顔のまま卓さんを見送って、私は直くんの元に戻った。
「パパ、もう戻っちゃったんですか?」
「うん、ちょっと報告に来てくれただけだったから」
「報告、ですか?」
「話、聞こえてなかった?」
直くんは私たちの話を意識して聞いていなかったのか、首を縦に振った。
「大丈夫、怖いことじゃないよ。あのね、直くんのお父さんから書類が届いて、卓さんがそれを家庭裁判所に持っていくことになったって報告だったんだよ」
「えっ、じゃあそれって……」
「うん。今日卓さんが帰ってきた時には、直くんは正式に卓さんの息子、磯山直純として新しい人生を過ごしていくことになるよ」
「僕が、磯山直純、として……」
「そう。でも、前にも言ったけどお父さんと縁が切れるわけじゃないからね。直くんに家族が増えただけだよ」
「――っ、あやちゃんっ!! 僕、嬉しいっ!!」
「わっ!!」
突然、直くんが抱きついてきて驚いた。
私から抱きつくことはあっても、直くんがこんなにも感情豊かに抱きついてきてくれることはあまりなかったから。
でも、私の胸で感情を爆発させる姿に、私は少しホッとしたのかもしれない。
「うん、私も嬉しい。戸籍上は兄弟だけど、今まで通りあやちゃんでいいからね」
「はい。あやちゃんっ!!」
目に涙を潤ませたまま、私の名前を呼んでくれる直くんが一生幸せでいられるようにずっと見守っていよう。
そう心に誓った。
1,552
お気に入りに追加
2,256
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話
天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。
レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。
ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。
リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★


愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる