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最高の一日

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「あの、先生……ウサギにヤキモチですか?」

なんとか隠したつもりだったが、私の表情に出てしまっていたのか、ウサギに嫉妬してしまったのは気づかれていたようだ。
いつも昇には嫉妬しないように言っているのに恥ずかしいことだ。

ついさっきまで絢斗と直くんがあんなにも喜ぶのなら我が家に迎えてもいいと思っていたはずなのに、あのウサギが絢斗の頬を舐め、絢斗がそれに対して嬉しそうにしているのを見ると、つい我慢ができなくなった。

この分だと我が家にウサギを迎え入れるのは難しそうだ。

「征哉くんはよく我慢していられるな?」

私の率直な疑問に苦笑しながらも、

「まぁ、ヤキモチを妬かないといえば嘘になりますが、一花の心のケアと、自分で歩きたいと希望を持つためにグリの存在は必要だと考えていますから」

と教えてくれた。

心のケアは直くんも同じだろうが、自分で歩きたいと希望を持つためというのは納得できる。

ペットと一緒に散歩できるようにとリハビリを頑張る人もいると聞くからな。

確かにそう考えれば、一花くんにはあのウサギの存在は必要なことだっただろう。
ベッドから動くこともできない一花くんのあの状態では楽しそうに駆け回るウサギを見ていたら、頑張ろうという気になれるだろうし。

「でも、直純くんの場合は家族の存在に諦めて自分を癒してくれる存在を求めていたようですから、新しい家族を得た今は特別必要でもないと思いますよ。もう直純くんは一人ではないんでしょう?」

征哉くんの言葉にホッとする。
直くん自身も私たちがいるから寂しくないと言ってくれた。

今は他に拠り所を見つけるのではなく、新しい家族の中で信頼と愛情を深めていくことが何よりも大事なことなのかもしれない。

ウサギと戯れたいのなら一花くんと直くんを遊ばせてあげることもできると言ってくれた征哉くんの配慮に感謝だな。

「昇、直くんを大切にして、寂しいなんて気持ちを味わせないようにするんだぞ」

「大丈夫です。絶対に寂しいなんて思わせませんから」

そう自信満々に言い切った昇に征哉くんが「ははっ」と笑い声を上げながら、

「なぁ、昇くん、気付いていたか? 直純くん、君への恋心を理解したぞ」

と告げた。征哉くんのその言葉に志摩くんも大きく頷いているのがわかる。

絢斗の様子に夢中で私が気づいていなかったな。
どれだけ絢斗にばかり集中していたかがわかる。

だが、直くんが昇への恋心を理解したのか……。

今までは二人で部屋で過ごすことも一緒に寝ることもそれが直くんの精神を保つためにも大事なことだ思って許してきたが、直くんが昇への思いを理解したとなるとちょっと心配になってくるな。

とはいえ、今更直くんを昇の部屋で過ごさせないなんて言ったら、途端に体調を崩すだろうし、そんなことはできるはずもない、

ここは昇に年上として、しっかりと節度を持って直くんと接してもらうようにするしかないな。

昇もちゃんと分かっているだろうが、あえて

「昇……わかっていると思うが、直くんと思いを通じ合って恋人になったとしても、成人するまでは手を出してはいけないぞ」

としっかり念を押すと、昇は顔を引き攣らせながらも頷いた。
少し強く言いすぎたかもしれないが、直くんを守るためには大事なことだろう。

征哉くんには

「先生もすっかり直純くんの父親ですね」

と笑われてしまったが、その通り。
私は『直くんのパパ』だからな。
絢斗と共に息子の幸せを願うのが私の使命だ。

昇にとっては攻略しがたい父親が直くんについてしまったかもしれないが、私が安心して直くんを昇に任せられるまでしっかり成長してもらおうか。

「征哉くん、一花ちゃんが呼んでるよ」

しばらく経って、絢斗の声かけに征哉くんが迎えにいくと、抱きかかえられた一花くんと一緒に直くんと絢斗もリビングに戻ってきた。

一花くんの手には二つのリースがあり、一つは直くんと一緒に作ったものらしい。
それを未知子さんへの贈り物にすると言っていて、思わず胸が熱くなった。

未知子さんは直くんが我が家に引き取られてすぐの頃から、直くんのことを心配してくれていたから、きっと喜んでくれることだろう。
未知子さんだけは最初から直くんとあの女を分けてみてくれていたからな。
それは、実際に直くんの生活と様子を絢斗から打ち明けられていたからという理由もあるだろうが、あの頃の直くんにとっては未知子さんの存在は大きなものだっただろう。

その未知子さんに二人で作ったリースを送る。
絶対に喜ぶに決まっている。

今度は未知子さんも一緒に直くんと一花くんが楽しそうに遊んでいるところを見せてやりたい。

リースを教えた代わりに今度は編み物を教えてもらうと嬉しそうに話をしている直くんをみて、今日は本当に会えて良かったと思う。

「では、先生。絢斗さん。今日はお邪魔しました」

晴れ晴れとした顔で帰っていく一花くんと征哉くん、そして志摩くんを見送っていると、昇と直くんは下まで見送りに行った。

パタンと扉が閉まって、一気にホッとする。

「卓さん、本当に良かったね」

「ああ、最高の一日になったな」

私も絢斗も嬉しい気持ちが抑えきれずに、玄関先でそのまま抱き合って幸せのキスをした。
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