ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました

波木真帆

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直くんの夢

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一花さんを直くんの部屋に送り届けて貴船さんが戻ってきた。

さっきまで直くんたちがいて華やかだったリビングは、一気に渋みを増した気がするのは気のせいではだろう。

伯父さんと貴船さん、そして志摩さん。

逞しい成人男性たちに、俺。
華やかさなどあるはずがない。

だが、今はこの四人で可愛い直くんたちがリース作りを終えて出てくるのを待つしかない。

カップに残っていたコーヒーを飲み干していると、

「そういえば、昇。征哉くんも志摩くんも、お前の先輩だぞ」

と伯父さんが話を振ってきた。

一瞬、高校の話かと思ったけれど

「二人とも絢斗の教え子だ」

と言われて大学の話だと分かった。

貴船さんは世界的にもかなり有名な貴船コンツェルンの会長をしているのだからてっきり経済学部出身だと思っていたのに、実は医学部で司法試験も突破し、ダブルライセンスなのだそうだ。
志摩さんは法学部出身で同じく司法試験を突破し弁護士資格を持ちながら会長秘書としての仕事をこなしているのだそうだ。

二人のあまりのスペックの高さにただただ驚きしかない。

「会長秘書でも弁護士資格がいるんですか?」

あまりの驚きにそんなバカな質問をしてしまったけれど、志摩さんは笑うこともなく、

「いえ、なくても構わないですがあって便利だったことはよくありますよ」

と教えてくれた。
その表情になんとなく優しさのようなものが見えて、もしかしたら谷垣さんのことで何か力になるようなことがあったんじゃないかと思ってしまった。

俺は法学部に入りたいと思ったのは、昔から伯父さんを尊敬していたし、絢斗さんの授業を受けたいという思いもあったからだけど、直くんと出会ってからは、これから先いつでも直くんを守れるような力をつけたいという気持ちが増えていった。

今は首席で法学部に入学することが目標になってしまっていたところがあったけれど、本気で直くんを守るには入学してからが本当のスタートなんだ。
そのことに気づかせてもらった気がする。

いつまでも直くんを伯父さんに守ってもらうわけにはいかないからな。
しっかりと頑張らないと!

心の中で決意を新たにしていると、直くんの部屋から誰かが出てきた音が聞こえてきた。

「んっ? 絢斗か?」

伯父さんがポツリと呟いてすぐに、絢斗さんが俺たちの前に顔をだす。
足音だけで絢斗さんだとわかる伯父さんの凄さに驚いてしまうが、直くんなら俺もわかるかも……と思うからそういうものかもしれない。

それにしてもまだ部屋に行ってすぐなのに、もうリース作りは終わったのか?
でも絢斗さん一人だけ出てきたのも気になる。
どうしたんだろう。

「征哉くん。一花ちゃんが部屋に来て欲しいって言ってるんだけどいいかな?」

絢斗さんが特に明確な理由もなく貴船さんだけ呼んでいるのが気になって、一花さんのところに向かう貴船さんの後に俺も伯父さんもそれに志摩さんも一緒についていくと、少し開いた扉の向こうから直くんと一花さんの会話が聞こえてきた。

「僕のパパのお家にはね、フランっていう可愛いワンちゃんがいるんだよ。ほら、見て」

「わぁー、可愛い!! 僕、ペットを飼うのが夢だったんです」

直くんは一花さんのスマホを見ながら、優しい笑顔を見せていたけれど、いつも部屋で一人だったから寂しかったと話す表情はその時のことを思い出しているのか、とても辛そうに見えた。

「今はパパもあやちゃんも昇さんも一緒にいてくれるので全然寂しくないですよ」

すぐに笑顔でそう言っていたし、そう思ってくれていることは間違い無いだろうと思うけれど、やっぱり直くんの夢を叶えてあげたいと思ってしまう自分がいた。

そっと部屋から離れて貴船さんが伯父さんに

「磯山先生。もし、先生がお許しになるなら、彼にウサギか犬を贈ることはできますよ」

と言ってくれたけれど、伯父さんはすぐにその話に乗るようなことはしなかった。

直くんの夢は叶えてあげたいけれど、動物にも命がある。
この家にきて、直くんだけでなくその動物も幸せでないと意味がない。
けれど、直くんもいずれ学校に行くようになり、絢斗さんも日常の生活に戻れば、ここは昼間無人になる。

伯父さんは残されてしまう動物のこともちゃんと考えているのだ。
さすがだな。

慎重に考えないといけないと話す伯父さんに、志摩さんがウサギは一人で留守番ができると話し始めると、

「あっ、そのことで征哉くんを呼びにきたんだった!」

と絢斗さんが思い出したように大声をあげた。

そして、話を途中で止めたことを詫びつつ、貴船さんを一花さんの元に連れて行った。

俺たちはその勢いに少し呆気に取られながら見守るだけで精一杯だった。
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