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貴船さんの謝罪
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マンゴーのプチタルトを食べ、美味しいと感嘆の声をあげる直くんをみているだけで胸がいっぱいになる。
自分でどれが欲しいかを選ぶことができて、楽しそうに食べる。
そんな当たり前の姿を目の当たりにできることが何よりも嬉しい。
一花さんがいるだけで、いつもと違った直くんを見ることができて楽しくなる。
満足そうにケーキを食べ終え、絢斗さんと一花さんと楽しく会話をしている直くんに
「直純くん、少しいいかな?」
と貴船さんが声をかけた瞬間、直くんは誰がみてもわかるほど身体をびくつかせた。
けれど、怯えているという感じはない。
ただ、大人にというよりは、人に話しかけられることに慣れていないだけだ。
けれど、貴船さんにしてみれば声をかけてこんなに怯えられると、申し訳ない気持ちになってしまうのだろう。
直くんが少し落ち着くのを待ってから、さっきよりもさらに優しい声をかけていた。
「今日は、直純くんと一花を会わせることが一番の目的だったが、それと同時に君と初めてこの事務所で会った日のことを詫びたいと思ってきたんだ」
貴船さんはここに来てからずっと直くんに謝りたいと言っていた。
けれど、こんなにみんながいる前でしかもこんなに丁寧に言葉をかけるとは思ってなかった。
「申し訳なかった」
とただ一言謝るのかと思っていた。
それでも、貴船コンツェルンの総帥が14歳の子どもに謝罪をするのはすごいことだと思っていたのに……
「一花が誘拐されて不幸な生活を余儀なくされてしまったことは、君にはどうにもし難いことであったにもかかわらず、彼女の息子というだけで、私は君を、一花を不幸に追いやった仲間のように思ってしまっていた。一花が両親と引き裂かれて虐げられながら生きてきたことばかりを不憫に思うあまり、何も悪いことをしていない子どもの君が両親と離れてそれからどうして生きていくかを考えることもできず、磯山先生に全てを任せてしまった。親の罪と子どもは切り離して考えるべきだとわかっていたはずなのに本当に申し訳なかった。ひどいことをした私が許しを請う立場にないことはわかっているし、傷ついた君が私を許せないと思うならそれでいい。ただ、大人として、人として、自分に非があった事を詫びたい。直純くん、本当に申し訳なかった」
としっかりと理由を述べた上で、頭まで深々と下げる姿に俺はただただ驚きしかなかった。
と同時に、貴船さんの行動が大人として格好いいと思ったんだ。
直くんは目の前で貴船さんに深々と頭を下げられて目をぱちくりさせて驚いていたけれど、震える声で頭を上げてくださいと声をかけ、その後はどうしていいかわからない様子を見せていた。
俺はさっと直くんの元に駆け寄り、
「大丈夫だよ。直くんが今の貴船さんの言葉を聞いて思ったことを言えばいい。誰がどう思うとか何も考えなくていいよ。直くんの思った通りのことを言ってごらん」
と囁いてやると、直くんは小さく頷いて貴船さんを見つめた。
「僕……何も傷ついてません。一花さんがどれだけ苦しい思いをしたか貴船さんが知っていたら怒るのも当然だと思うし、それが、好きな人なら……その人が苦しんだ分、同じくらい苦しくなると思うので、もし、僕が貴船さんの立場でも同じことを思ったと思います。だから、僕……何も、傷ついてません」
そうキッパリ言い切った時の直くんの表情は、今まで見たことがないほど晴れやかで清々しく感じられた。
直くんの嘘偽りのない、心からの気持ちに貴船さんはほっとした表情を見せ、
「ありがとう。直純くん、これからも一花と仲良くしてくれるか?」
と笑顔で問いかけた。
それが直くんにとってどれだけ嬉しい言葉だったか。
その時の直くんの表情を見れば誰でもわかるだろう。
「僕、一花さんとずっとお友達でいたいです」
直くんの言葉に一花さんが嬉しそうに笑う。
この笑顔を見るだけでもうとっくに二人が友達になっていることは明らかだった。
伯父さんは貴船さんにお礼を言い、
「私たちは一歩踏み出せた。これからは家族ぐるみで仲良くしていこう」
と声をかけると、二人でガッチリと握手していた。
これから貴船家と家族ぐるみの付き合いか……。
直くんと一花さんのように俺と貴船さんが友達になる……というのは難しいかもしれないが、頼りになるお兄さん的存在と思っておこう。
周防さんに続いて、貴船さんもお兄さん的存在か……。
考えてみたら俺……高校生のくせに、とんでもない交友関係じゃないか?
周防さんと貴船さんから呆れられないように、俺も将来のためにしっかり頑張っておかないとな。
「ねぇ、一花ちゃん。おやつも食べたし、よかったら直くんと一緒に早速リース作ってみない?」
貴船さんの謝罪になんとも言えない空気になっていたリビングに絢斗さんの声が響き、また一気にリビングが明るい雰囲気に戻っていく。
さすが絢斗さんだなと思っている間に、直くんの部屋でのリース作りが決定したようだ。
一花さんが貴船さんの名前を呼ぶと、さっと一花さんの元に向かい、軽々と一花さんを抱きかかえる。
いや、実際に一花さんは軽そうだけど足を怪我している人に痛みを与えないように抱き抱えるのは結構大変なことだろう。
それを微塵も出さずに軽々と抱きかかえる姿にすごいなと純粋に思う。
俺もいつでもさっと直くんを抱きかかえられるようにもっと鍛えておかないとな!
マンゴーのプチタルトを食べ、美味しいと感嘆の声をあげる直くんをみているだけで胸がいっぱいになる。
自分でどれが欲しいかを選ぶことができて、楽しそうに食べる。
そんな当たり前の姿を目の当たりにできることが何よりも嬉しい。
一花さんがいるだけで、いつもと違った直くんを見ることができて楽しくなる。
満足そうにケーキを食べ終え、絢斗さんと一花さんと楽しく会話をしている直くんに
「直純くん、少しいいかな?」
と貴船さんが声をかけた瞬間、直くんは誰がみてもわかるほど身体をびくつかせた。
けれど、怯えているという感じはない。
ただ、大人にというよりは、人に話しかけられることに慣れていないだけだ。
けれど、貴船さんにしてみれば声をかけてこんなに怯えられると、申し訳ない気持ちになってしまうのだろう。
直くんが少し落ち着くのを待ってから、さっきよりもさらに優しい声をかけていた。
「今日は、直純くんと一花を会わせることが一番の目的だったが、それと同時に君と初めてこの事務所で会った日のことを詫びたいと思ってきたんだ」
貴船さんはここに来てからずっと直くんに謝りたいと言っていた。
けれど、こんなにみんながいる前でしかもこんなに丁寧に言葉をかけるとは思ってなかった。
「申し訳なかった」
とただ一言謝るのかと思っていた。
それでも、貴船コンツェルンの総帥が14歳の子どもに謝罪をするのはすごいことだと思っていたのに……
「一花が誘拐されて不幸な生活を余儀なくされてしまったことは、君にはどうにもし難いことであったにもかかわらず、彼女の息子というだけで、私は君を、一花を不幸に追いやった仲間のように思ってしまっていた。一花が両親と引き裂かれて虐げられながら生きてきたことばかりを不憫に思うあまり、何も悪いことをしていない子どもの君が両親と離れてそれからどうして生きていくかを考えることもできず、磯山先生に全てを任せてしまった。親の罪と子どもは切り離して考えるべきだとわかっていたはずなのに本当に申し訳なかった。ひどいことをした私が許しを請う立場にないことはわかっているし、傷ついた君が私を許せないと思うならそれでいい。ただ、大人として、人として、自分に非があった事を詫びたい。直純くん、本当に申し訳なかった」
としっかりと理由を述べた上で、頭まで深々と下げる姿に俺はただただ驚きしかなかった。
と同時に、貴船さんの行動が大人として格好いいと思ったんだ。
直くんは目の前で貴船さんに深々と頭を下げられて目をぱちくりさせて驚いていたけれど、震える声で頭を上げてくださいと声をかけ、その後はどうしていいかわからない様子を見せていた。
俺はさっと直くんの元に駆け寄り、
「大丈夫だよ。直くんが今の貴船さんの言葉を聞いて思ったことを言えばいい。誰がどう思うとか何も考えなくていいよ。直くんの思った通りのことを言ってごらん」
と囁いてやると、直くんは小さく頷いて貴船さんを見つめた。
「僕……何も傷ついてません。一花さんがどれだけ苦しい思いをしたか貴船さんが知っていたら怒るのも当然だと思うし、それが、好きな人なら……その人が苦しんだ分、同じくらい苦しくなると思うので、もし、僕が貴船さんの立場でも同じことを思ったと思います。だから、僕……何も、傷ついてません」
そうキッパリ言い切った時の直くんの表情は、今まで見たことがないほど晴れやかで清々しく感じられた。
直くんの嘘偽りのない、心からの気持ちに貴船さんはほっとした表情を見せ、
「ありがとう。直純くん、これからも一花と仲良くしてくれるか?」
と笑顔で問いかけた。
それが直くんにとってどれだけ嬉しい言葉だったか。
その時の直くんの表情を見れば誰でもわかるだろう。
「僕、一花さんとずっとお友達でいたいです」
直くんの言葉に一花さんが嬉しそうに笑う。
この笑顔を見るだけでもうとっくに二人が友達になっていることは明らかだった。
伯父さんは貴船さんにお礼を言い、
「私たちは一歩踏み出せた。これからは家族ぐるみで仲良くしていこう」
と声をかけると、二人でガッチリと握手していた。
これから貴船家と家族ぐるみの付き合いか……。
直くんと一花さんのように俺と貴船さんが友達になる……というのは難しいかもしれないが、頼りになるお兄さん的存在と思っておこう。
周防さんに続いて、貴船さんもお兄さん的存在か……。
考えてみたら俺……高校生のくせに、とんでもない交友関係じゃないか?
周防さんと貴船さんから呆れられないように、俺も将来のためにしっかり頑張っておかないとな。
「ねぇ、一花ちゃん。おやつも食べたし、よかったら直くんと一緒に早速リース作ってみない?」
貴船さんの謝罪になんとも言えない空気になっていたリビングに絢斗さんの声が響き、また一気にリビングが明るい雰囲気に戻っていく。
さすが絢斗さんだなと思っている間に、直くんの部屋でのリース作りが決定したようだ。
一花さんが貴船さんの名前を呼ぶと、さっと一花さんの元に向かい、軽々と一花さんを抱きかかえる。
いや、実際に一花さんは軽そうだけど足を怪我している人に痛みを与えないように抱き抱えるのは結構大変なことだろう。
それを微塵も出さずに軽々と抱きかかえる姿にすごいなと純粋に思う。
俺もいつでもさっと直くんを抱きかかえられるようにもっと鍛えておかないとな!
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