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三人の可愛い姿
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<side卓>
直くんが晴々とした顔で戻ってきたことにホッとして、征哉くんに目を向けると、直くんに微笑みを向ける可愛らしい存在に気づいた。
彼が征哉くんの大事な子で、櫻葉さんの一人息子・一花くんか。
ずっと話には聞いていたが、直接会うのは初めてだ。
想像以上に小さくて驚いてしまう。
彼の細く小さな身体を目の当たりにすると、征哉くんや櫻葉さんが直くんの母親への怒りを抑えきれないのも理解できる。
彼女が一花くんを両親から引き離したがために一花くんはこれまで過酷な生活を強いられたのだから。
直くんになんの責任もないとわかっていても怒りをコントロールできなかったのだろう。
直くんも一花くんと出会ったことでいろんな思いを理解したことだろう。
なんと言っても直くんは賢い子だからな。
でもそれも今日で全てがうまくいった。
一花くんが直くんの謝罪を受け入れてくれたことで、征哉くんと櫻葉さんの怒りも消え去ったことだろう。
直くんも一花くんも、そして征哉くんもみんなホッとした表情をしているのがその証拠だ。
彼らを中に案内し、飲み物を入れるために昇とともに離れると、絢斗はすぐに直くんとともに一花くんと同じソファーに腰を下ろした。
このソファーを準備している時から、話がうまく進めばこのようになるのではないかと想像していたが思った通りになった。
征哉くんは一花くんと離れて座ることに戸惑っているようだが、流石に絢斗には声をかけられないか。
「伯父さん」
コーヒーを淹れていると上が小声で話しかけてきた。
「なんだ?」
「貴船さんって伯父さん以上に、その……すごいよ」
「ははっ。もしかして牽制されたか?」
「えっ、ああ、まぁ、そうかな」
「征哉くんは元々、人には全く興味がなかったんだ。それが一花くんにだけはあの態度だからな。本能が一花くんだけを求めているんだろうな」
「でも、それは伯父さんも一緒でしょう? 父さんが言ってたよ、伯父さんも絢斗さん以外には誰にも興味を持ったことがなかったって」
「ああ、だから征哉くんの気持ちがよくわかるんだよ。彼らはまだお前と直くんと同じ、清らかな関係だから一花くんに近づく全ての存在が気になって仕方がないんだ。二人が深い関係になれば、征哉くんの執着も少しはおさまるんじゃないか?」
「ああ、なるほど……」
私の言葉に昇はほんのり頬を赤らめながら納得していた。
ふふっ。当分、清らかな関係が続く昇には少し刺激が強かったか。
「でも、そんなに狭量ならよく我慢しているよね? ほら、絢斗さん……一花さんに抱きついてるよ」
「ああ、そうだな。だがきっと心中はとんでもないことになっているよ。それでも絢斗には何も言えないんだろう。もう諦めているのかもしれないな」
そう思えるのは、絢斗には一花くんを取られるという根本的な心配がないからだ。抱きつかれることに関してだけ言えば、あまり見たくはないだろうが、今回は特に直くんと一花くんが仲良くなれたことに喜んでのあの抱きつきだから目を瞑っているのかもしれないな。
これがもし、昇なら一花くんに触れる前に引き離しているはずだ。
征哉くんの様子を見ていると、突然椅子から立ち上がりこちらにやってきた。
絢斗を止めてくれと言いにきたのかと思ったが、
「志摩くんの様子を見てきます」
と声をかけて玄関から出ていった。
「ああ、そういえば志摩さん、一緒に来たのに入ってこなかったな」
「そうか、もしかしたら電話でもしていたのかもしれないな」
今日、一人で留守番しているだろう谷垣くんに直くんと一花くんのことを報告しているのかもしれない。
谷垣くんも一緒にと志摩くんには伝えておいたのだが、大人が大勢でお邪魔してはご迷惑でしょうからと谷垣くんの方から断りの連絡があったんだ。
そういう気遣いも谷垣くんらしい。
だが、今回の成功は谷垣くんの力が大きい。
近いうちに志摩くんと谷垣くんの二人にお礼をしたいものだ。
コーヒーとジュースを淹れて、絢斗たちの元に運んでいると征哉くんが志摩くんと共に戻ってきた。
ようやく全員が揃ったところで、志摩くんが手土産のケーキをテーブルに置いてくれた。
紙袋を見ただけで絢斗の大好きな店だとわかる。
そこの特別なケーキに絢斗も直くんも一花くんも嬉しそうだ。
可愛らしい花のようなケーキに感嘆の声をあげる三人の様子がなんとも可愛い。
「ねぇ、一花ちゃんと直くんはどれにする? どれでも好きなの取っていいよ」
「直くんから好きなの取っていいよ。一番年下だもんね」
「一花さん……ありがとうございます。えっと、じゃあ僕……これがいいです!」
直くんが自分の欲しいものを言えたことに感動しながら、もうすっかり仲良しになっている絢斗たちの様子に、いつものコーヒーがさらに美味しく感じられた。
直くんが晴々とした顔で戻ってきたことにホッとして、征哉くんに目を向けると、直くんに微笑みを向ける可愛らしい存在に気づいた。
彼が征哉くんの大事な子で、櫻葉さんの一人息子・一花くんか。
ずっと話には聞いていたが、直接会うのは初めてだ。
想像以上に小さくて驚いてしまう。
彼の細く小さな身体を目の当たりにすると、征哉くんや櫻葉さんが直くんの母親への怒りを抑えきれないのも理解できる。
彼女が一花くんを両親から引き離したがために一花くんはこれまで過酷な生活を強いられたのだから。
直くんになんの責任もないとわかっていても怒りをコントロールできなかったのだろう。
直くんも一花くんと出会ったことでいろんな思いを理解したことだろう。
なんと言っても直くんは賢い子だからな。
でもそれも今日で全てがうまくいった。
一花くんが直くんの謝罪を受け入れてくれたことで、征哉くんと櫻葉さんの怒りも消え去ったことだろう。
直くんも一花くんも、そして征哉くんもみんなホッとした表情をしているのがその証拠だ。
彼らを中に案内し、飲み物を入れるために昇とともに離れると、絢斗はすぐに直くんとともに一花くんと同じソファーに腰を下ろした。
このソファーを準備している時から、話がうまく進めばこのようになるのではないかと想像していたが思った通りになった。
征哉くんは一花くんと離れて座ることに戸惑っているようだが、流石に絢斗には声をかけられないか。
「伯父さん」
コーヒーを淹れていると上が小声で話しかけてきた。
「なんだ?」
「貴船さんって伯父さん以上に、その……すごいよ」
「ははっ。もしかして牽制されたか?」
「えっ、ああ、まぁ、そうかな」
「征哉くんは元々、人には全く興味がなかったんだ。それが一花くんにだけはあの態度だからな。本能が一花くんだけを求めているんだろうな」
「でも、それは伯父さんも一緒でしょう? 父さんが言ってたよ、伯父さんも絢斗さん以外には誰にも興味を持ったことがなかったって」
「ああ、だから征哉くんの気持ちがよくわかるんだよ。彼らはまだお前と直くんと同じ、清らかな関係だから一花くんに近づく全ての存在が気になって仕方がないんだ。二人が深い関係になれば、征哉くんの執着も少しはおさまるんじゃないか?」
「ああ、なるほど……」
私の言葉に昇はほんのり頬を赤らめながら納得していた。
ふふっ。当分、清らかな関係が続く昇には少し刺激が強かったか。
「でも、そんなに狭量ならよく我慢しているよね? ほら、絢斗さん……一花さんに抱きついてるよ」
「ああ、そうだな。だがきっと心中はとんでもないことになっているよ。それでも絢斗には何も言えないんだろう。もう諦めているのかもしれないな」
そう思えるのは、絢斗には一花くんを取られるという根本的な心配がないからだ。抱きつかれることに関してだけ言えば、あまり見たくはないだろうが、今回は特に直くんと一花くんが仲良くなれたことに喜んでのあの抱きつきだから目を瞑っているのかもしれないな。
これがもし、昇なら一花くんに触れる前に引き離しているはずだ。
征哉くんの様子を見ていると、突然椅子から立ち上がりこちらにやってきた。
絢斗を止めてくれと言いにきたのかと思ったが、
「志摩くんの様子を見てきます」
と声をかけて玄関から出ていった。
「ああ、そういえば志摩さん、一緒に来たのに入ってこなかったな」
「そうか、もしかしたら電話でもしていたのかもしれないな」
今日、一人で留守番しているだろう谷垣くんに直くんと一花くんのことを報告しているのかもしれない。
谷垣くんも一緒にと志摩くんには伝えておいたのだが、大人が大勢でお邪魔してはご迷惑でしょうからと谷垣くんの方から断りの連絡があったんだ。
そういう気遣いも谷垣くんらしい。
だが、今回の成功は谷垣くんの力が大きい。
近いうちに志摩くんと谷垣くんの二人にお礼をしたいものだ。
コーヒーとジュースを淹れて、絢斗たちの元に運んでいると征哉くんが志摩くんと共に戻ってきた。
ようやく全員が揃ったところで、志摩くんが手土産のケーキをテーブルに置いてくれた。
紙袋を見ただけで絢斗の大好きな店だとわかる。
そこの特別なケーキに絢斗も直くんも一花くんも嬉しそうだ。
可愛らしい花のようなケーキに感嘆の声をあげる三人の様子がなんとも可愛い。
「ねぇ、一花ちゃんと直くんはどれにする? どれでも好きなの取っていいよ」
「直くんから好きなの取っていいよ。一番年下だもんね」
「一花さん……ありがとうございます。えっと、じゃあ僕……これがいいです!」
直くんが自分の欲しいものを言えたことに感動しながら、もうすっかり仲良しになっている絢斗たちの様子に、いつものコーヒーがさらに美味しく感じられた。
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