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秘密の共有

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<side昇>

直くんをキャンピングカーに送り届けて車の扉が閉まった瞬間、直くんのことが心配でたまらなかった。
出てくるまでここを離れたくたいと思ったけれど、

「部屋で待っていよう」

と貴船さんに声をかけられ従うしかなかった。

後ろ髪引かれる思いでその場を離れると、貴船さんに年齢を聞かれた。

18だと告げると、一瞬虚を衝かれたような表情をしたのが不思議だったけれど、一花さんもおなじ18だと教えてくれたあとで

「見た目は直純くんと同じくらいにしか見えないよ」

と言われて、さっきの表情に合点がいった。

直くんは14歳と言っても同年代の子よりは格段に身体が小さい。
おそらく幼い頃から栄養状態が悪かったせいで成長が早々に止まってしまったんだろう。
この家に来て、健康的になってきてはいるけれど、これ以上の成長は期待できないのだそうだ。

そんな直くんと18歳の一花さんがおなじくらいにしか見えないのなら、俺がおなじ18だと聞いてあんな表情になってしまうのも無理はない。

直くんも辛い生活をしていたのだと思っていたが、それ以上に一花さんは過酷な日々を過ごしていたのだろう。
貴船さんはそれを知っているからこそ、直くんの母親が事件に関わっていたことが許せなかったんだ。

「一花だけが辛い目に遭っていたと思っていたから、直純くんへの当たりを強くしてしまったことを今では申し訳ないと思っている」

貴船さんは俺にそんな胸の内を教えてくれた。

「一花たちの話が終わるまで、聞かせてくれないか? 直純くんのことを。きっと君が一番よくわかっているんだろう?」

ほんの少し表情に柔らかさが見えて、俺は驚いた。
貴船さんは直くんへの俺の気持ちを知っている?

驚いて尋ねてみれば、

「簡単なことだよ。私も一花のことを同じように思っているからな。直純くんを見る目を見たらすぐにわかる」

とさらに笑顔を返してくれた。

ああ、この人になら直くんの全てを話しても大丈夫かもしれない。
そんな気持ちにさせられた。

<side直純>

あの日、未知子さんが食べさせてくれたプリンとおなじプリンを一花さんと食べた。
これは僕にとってとても幸せな時間だった。

あの時のプリンよりもずっと美味しく感じられたのは、一花さんの笑顔を見られたからかもしれない。

今までプリンの名前を聞くのも嫌だったのに、幸せだと感じられるようになるなんて不思議。
でもそれも

「直純くんのお母さんが作ってくれてたものは、多分プリンじゃなかったんだよ。ねっ、そう思っておこう」

と優しい言葉をかけてもらえたからかもしれない。

本当に優しい人だ。

気になるのは、一花さんの怪我のこと。
事故に遭ってすぐは一生歩けないかもしれないとお医者さんに言われたと尚孝さんは言っていた。
少しでも元に戻れるようにリハビリに励んでいるのだとも言っていた。

これで一花さんが歩けるようになったら、きっと尚孝さんも安心するだろう。

でも目の前の一花さんはまだ動けそうには見えない。
大怪我だったのだから、そんな簡単なことではないのだろうけど、一花さんのためにも尚孝さんのためにも早く歩けるようになったらいい。

そんな気持ちを込めて、足の怪我の状態を尋ねてみると、

「まだ一人で歩き回ったりするのは難しいけど、いつか歩けるようになるために毎日頑張って練習してるよ」

と笑顔で教えてくれた。
だから僕は先日尚孝さんが来て一花さんの怪我について話を聞いて、一花さんのことが優しいと思ったと伝えると、一花さんは謙遜しながら、

「尚孝さんのことは本当に不運な事故だったし、わざと僕を怪我させようとしたわけじゃないから謝ってもらうことじゃなかったんだよ。僕は事故に遭って病院に運ばれたおかげで、辛い生活から抜け出せたし、パパとも会えたし、むしろ感謝しているくらいだよ」

と笑顔を見せた。
その笑顔が本物なのは僕だけじゃなくて、誰が見たってそう思うだろう。

本当にこの人は、本当の気持ちしか言わないんだ。
尚孝さんが僕に言ってくれたことがよくわかる。
一花さんは、本当に優しいんだな。

「事故に遭ったばかりの時はもう歩けないかもしれないって言われたんだけどね、尚孝さんと一緒にリハビリをがんばったおかげで、実は立てるようになったんだよ」

少しいたずらっ子のような笑顔でとんでもない秘密をサラッと伝えられて驚いてしまう。

「まだ歩行器がないと立てないから、一人で立てるようになるまで内緒にしてるんだよ」

そう言われて、僕も内緒にしておくと伝えた。
きっと突然一花さんが一人で立ち上がったら、貴船さんも櫻葉さんも未知子さんもみんな驚いて喜ぶと思うから。
それを僕が邪魔したくない!

約束はちゃんと守って見せる!!

そう心に誓っていると、

「ふふっ。ありがとう。二人の、あっ尚孝さんもだから三人の秘密だね」

と笑顔で言ってくれた。

三人の、秘密……。
そんなのを共有できるなんて!!

すごい! なんだか、友だちみたいだ!

そんな図々しいことは言葉にはできないけど、自分で思ってるだけはいいよね。
一花さんとお友達になれたかもしれない……それだけで僕は天に昇るほど嬉しかった。
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