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一花さんの優しさ
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「もう泣かないで。ねっ。グリが心配しちゃう」
一花さんのその言葉に反応するように、腕の中にいたウサギさんが僕の頬をぺろぺろと舐めてくれた。
このウサギさん……僕を慰めてくれるんだ。
嬉しいな。
「グリの頭をよしよししてあげて。喜ぶよ」
そう言われて、僕はドキドキしながらウサギさんの頭に触れた。
もふっとした感触に思わず声が出てしまった。
ふわふわでとっても可愛い。
僕はずっと一人だったからずっとそばにいてくれるペットがいてくれたら……なんて思っていた時もあった。
絶対に叶わない夢だったから諦めていたけれど、その時想像していたペットにはウサギさんはいなかった。
ウサギさんをペットにできるなんて知らなかったから。
こんなにもふもふでふわふわだったなんて感動する。
僕が頭を撫でていると、ウサギさんから
「ぷぅぷぅ」
という鳴き声が聞こえる。
ウサギさんって鳴くんだな。それも知らなかった。
「これ、すごく喜んでいる時の鳴き声だよ」
そうなんだ……可愛すぎる。
あまりの可愛さに謝罪しにきたことも忘れてしまって、頭を撫でていると、
「あっ、そうだ! 直純くん、プリン食べよう」
と一花さんが誘ってくれた。
突然のお誘いに驚いたけれど、
――うちの子、プリンが好きなの。
と未知子さんがお話ししていたのを思い出す。
あの時、食べて初めてプリンが美味しいものだったんだって知ったんだよね。
それまでは母さんの作ったあの水で薄くなった卵を固めただけみたいなボソボソのがプリンだと教えられてたから、恐る恐る口に入れた時びっくりしたんだったな。
僕の椅子のすぐ近くにある冷蔵庫を開けると、プリンが二つ並んでいて、それがあの時食べたプリンと同じものだったことに気づいて思わず笑みが溢れた。
それを見られて、
「ふふっ。プリン好きなんでしょう? 僕もなんだ」
と話しかけてくれた。
なのでつい、
「実は、僕……プリンが苦手だったんです」
と思い出していたことが口から出てしまった。
僕がそんなことを言ってしまったから、一花さんが申し訳なさそうにごめんねと言い出して、慌てて僕の知っていたプリンとは全くの別物だったから、初めて食べた時にあまりの美味しさにびっくりしたというと、一花さんは少し悲しげな表情をして
「とりあえず、食べようか」
と優しく言ってくれた。
ああ、余計なこと言っちゃったな……。
一花さんは何も悪くないのに、謝らせちゃった……。
ああ、僕はバカだ……。
自己嫌悪に陥りながらも、柔らかなプリンを掬って口に運ぶと蕩ける甘さに一気に顔が綻んだ。
「すっごくおいしいです!」
その言葉に一花さんは嬉しそうに笑ってくれた。
それが嬉しくてぱくぱく食べているうちにあっという間にプリンが空っぽになってしまった。
ああ、もっと大切に食べれば良かったな……。
空の容器をじっと見つめていると、
「おいしかったね。プリン、最近好きになれたの?」
と尋ねられた。
パパのお家で暮らすようになって……と言いかけて、慌てて磯山先生と言い直したけれど、一花さんはパパのままでいいと言ってくれた。
本当に優しいな。
僕は正直にパパのお家で初めてプリンやケーキを食べさせてもらったこと、家で食べていたプリンはボソボソして美味しくなかったけど吐きそうになりながらも一生懸命食べていたことを話した。
すると、一花さんは信じられないと言った表情をしながら
「磯山先生のお家で他に初めて食べたものってある?」
とさらに尋ねてきた。
パパの家で初めて食べたもの……それは全部だ。
初めての夜に食べたハンバーグももちろんスープだって初めて。
あの日から、ほとんど毎日初めてのものを口にしていると言っても大袈裟じゃない。
それくらい家では僕が食べていいものが限られていたから。
パパの家に来て初めてこの世界にこんなにも美味しいものが溢れていたことを知ったんだ。
一花さんは僕が話しているのをただじっと聞いていて、ずっとびっくりした顔をしていた。
正直に話しすぎたかもしれないと思いつつ、名前を呼びかけると、
「あ、ごめんね。僕も同じだよ。征哉さんのお家に行ってから、初めて食べさせてもらうものばっかりでびっくりしたよ。僕たち、お揃いだね」
と言ってくれた。
僕たちが、お揃い……。
でも本当だったら一花さんは僕とはお揃いになるはずじゃなかったのに。
そう考えると本当に申し訳ないけれど、一花さんはそれを責めることなく
「僕、征哉さんにいっぱい美味しいもの教えてもらったから今度また一緒に食べよう」
と誘ってくれた。
今度、一緒に?
その言葉が今日だけじゃないってことを教えてくれて、僕は興奮が抑えられなかった。
一花さんとこれからもまた会えるんだ。
それだけで僕はとてつもなく幸せな気分になれた。
一花さんのその言葉に反応するように、腕の中にいたウサギさんが僕の頬をぺろぺろと舐めてくれた。
このウサギさん……僕を慰めてくれるんだ。
嬉しいな。
「グリの頭をよしよししてあげて。喜ぶよ」
そう言われて、僕はドキドキしながらウサギさんの頭に触れた。
もふっとした感触に思わず声が出てしまった。
ふわふわでとっても可愛い。
僕はずっと一人だったからずっとそばにいてくれるペットがいてくれたら……なんて思っていた時もあった。
絶対に叶わない夢だったから諦めていたけれど、その時想像していたペットにはウサギさんはいなかった。
ウサギさんをペットにできるなんて知らなかったから。
こんなにもふもふでふわふわだったなんて感動する。
僕が頭を撫でていると、ウサギさんから
「ぷぅぷぅ」
という鳴き声が聞こえる。
ウサギさんって鳴くんだな。それも知らなかった。
「これ、すごく喜んでいる時の鳴き声だよ」
そうなんだ……可愛すぎる。
あまりの可愛さに謝罪しにきたことも忘れてしまって、頭を撫でていると、
「あっ、そうだ! 直純くん、プリン食べよう」
と一花さんが誘ってくれた。
突然のお誘いに驚いたけれど、
――うちの子、プリンが好きなの。
と未知子さんがお話ししていたのを思い出す。
あの時、食べて初めてプリンが美味しいものだったんだって知ったんだよね。
それまでは母さんの作ったあの水で薄くなった卵を固めただけみたいなボソボソのがプリンだと教えられてたから、恐る恐る口に入れた時びっくりしたんだったな。
僕の椅子のすぐ近くにある冷蔵庫を開けると、プリンが二つ並んでいて、それがあの時食べたプリンと同じものだったことに気づいて思わず笑みが溢れた。
それを見られて、
「ふふっ。プリン好きなんでしょう? 僕もなんだ」
と話しかけてくれた。
なのでつい、
「実は、僕……プリンが苦手だったんです」
と思い出していたことが口から出てしまった。
僕がそんなことを言ってしまったから、一花さんが申し訳なさそうにごめんねと言い出して、慌てて僕の知っていたプリンとは全くの別物だったから、初めて食べた時にあまりの美味しさにびっくりしたというと、一花さんは少し悲しげな表情をして
「とりあえず、食べようか」
と優しく言ってくれた。
ああ、余計なこと言っちゃったな……。
一花さんは何も悪くないのに、謝らせちゃった……。
ああ、僕はバカだ……。
自己嫌悪に陥りながらも、柔らかなプリンを掬って口に運ぶと蕩ける甘さに一気に顔が綻んだ。
「すっごくおいしいです!」
その言葉に一花さんは嬉しそうに笑ってくれた。
それが嬉しくてぱくぱく食べているうちにあっという間にプリンが空っぽになってしまった。
ああ、もっと大切に食べれば良かったな……。
空の容器をじっと見つめていると、
「おいしかったね。プリン、最近好きになれたの?」
と尋ねられた。
パパのお家で暮らすようになって……と言いかけて、慌てて磯山先生と言い直したけれど、一花さんはパパのままでいいと言ってくれた。
本当に優しいな。
僕は正直にパパのお家で初めてプリンやケーキを食べさせてもらったこと、家で食べていたプリンはボソボソして美味しくなかったけど吐きそうになりながらも一生懸命食べていたことを話した。
すると、一花さんは信じられないと言った表情をしながら
「磯山先生のお家で他に初めて食べたものってある?」
とさらに尋ねてきた。
パパの家で初めて食べたもの……それは全部だ。
初めての夜に食べたハンバーグももちろんスープだって初めて。
あの日から、ほとんど毎日初めてのものを口にしていると言っても大袈裟じゃない。
それくらい家では僕が食べていいものが限られていたから。
パパの家に来て初めてこの世界にこんなにも美味しいものが溢れていたことを知ったんだ。
一花さんは僕が話しているのをただじっと聞いていて、ずっとびっくりした顔をしていた。
正直に話しすぎたかもしれないと思いつつ、名前を呼びかけると、
「あ、ごめんね。僕も同じだよ。征哉さんのお家に行ってから、初めて食べさせてもらうものばっかりでびっくりしたよ。僕たち、お揃いだね」
と言ってくれた。
僕たちが、お揃い……。
でも本当だったら一花さんは僕とはお揃いになるはずじゃなかったのに。
そう考えると本当に申し訳ないけれど、一花さんはそれを責めることなく
「僕、征哉さんにいっぱい美味しいもの教えてもらったから今度また一緒に食べよう」
と誘ってくれた。
今度、一緒に?
その言葉が今日だけじゃないってことを教えてくれて、僕は興奮が抑えられなかった。
一花さんとこれからもまた会えるんだ。
それだけで僕はとてつもなく幸せな気分になれた。
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