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素晴らしい妙案
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前話でメッセージの送信者が間違っていましたので<櫻葉会長>に訂正しています。
* * *
「卓さん、どこに電話するの?」
まだ寝ていた絢斗を起こさないように離れようとしていたのだが、それに気づいたらしい絢斗が声をかけてきた。
絢斗に隠し事はしないと決めているから、
「櫻葉会長だよ。直くんのことについて話がしたいとメッセージが来た」
というと、
「私も聞きたいからここで話して」
と言われてしまった。
「だが、大丈夫か? 辛いことを聞くことになるかもしれないぞ」
「ううん。だから聞いておきたい。私だって直くんの親なんだから」
そうだな。私の息子として籍を入れる予定の直くんだ。
戸籍上は絢斗の兄弟になるとはいえ、私たちの中では息子という意識を持っている。
「わかった。じゃあ、スピーカーにしてかけるよ」
「うん。静かにしてるから」
そっと私の手を握る絢斗の手は寝起きだというのに冷たくなっていた。
緊張しているんだろうな。
私は絢斗の小さな手を握りながら、櫻葉さんに電話をかけた。
今までどんな相手でも緊張などしなかったのに、もしもしと呼びかける声が震えていることに気づく。
私も緊張しているのだな。
電話口の櫻葉さんは、日曜日の朝なのにと気遣ってくれたが、そちらの話の方が大事なことだ。
ーそれより直純くんのことで話というのは……?
気になって仕方がなくて問いかけると、直くんが一花くんに謝罪したいと言っていることを櫻葉さんも聞いたようだ。
ー私たちも昨日一花に全てを話しました。その上で、直純くんが一花に謝罪したいと言っていることを伝えました。
ーそれで、一花さんはなんと?
ーふふっ。一花は何も悪いことをしていないのだから謝る必要はないと言ってましたよ。
ーえっ……
思いがけない反応に驚きつつも、これは直くんには会いたくないという一花くんの意思表示ではないかと思ってしまった。
隣にいる絢斗もそう考えてしまったのだろう。少し俯いてしまっている。
ーでも……
櫻葉さんの言葉が続くのをじっと聞いていると、
ー彼が先に進むために謝罪が必要なら受けると言ってました。
ー――っ!! それじゃあ……
ーはい。近々、一花と直純くんをどこかで会わせたいと考えています。
直くんが一花くんと会える!
櫻葉さんが発した言葉の意味が嬉しすぎて、脳が理解するまでにしばしの時間を要してしまったけれど、私の隣で絢斗が必死に口を押さえながら涙を我慢しているのが見えて、絢斗を抱きしめた。
あまりにも嬉しい言葉に我慢できなくなったのだろう。
抑えきれない嗚咽が漏れ聞こえる。
ー磯山先生? 大丈夫ですか?
絢斗のその声が櫻葉さんにも聞こえてしまったようで心配されてしまった。
すぐに折り返すと告げて一度電話を切った。
「絢斗、大丈夫か?」
「ごめんなさい……我慢できなくて……」
「いいよ。気にしないでいい。私も泣きそうだったのは同じだ」
「ねぇ、直くんにこのことを話してきてもいいかな?」
「そうだな。櫻葉さんが直接話をしてくれたのだからこの予定が変わることはないだろう。行っておいで。私はその間に櫻葉さんと具体的な話を進めておくよ。呼びにいくまで直くんの部屋で待っていてくれるか?」
「うん、わかった」
嬉しそうに部屋を出ていく絢斗を見送って、私は折り返しの電話をかけた。
ー先ほどは失礼いたしました。
ーいえ、絢斗さんはもう大丈夫ですか?
ーはい。今、直純くんのところに話をしに行っています。
そういうと安堵の声が漏れていたから、もう会えることは間違い無いだろう。
ーそれで、一花さんと会わせていただけるというお話ですが……
ーええ。その場所についてご相談というか、話し合いたいと思ってるんです。直純くんはまだ外には出られない状況でしょう?
そうだ、そのことがあった。
だが、一花くんもまだ外に出られるような状態でも無いだろう。
直くんが正式に私の息子となっているなら外にも連れ出せるだろうが、まだ彼があの母親と繋がりのある状態では外には出したく無いのが本音だ。
そろそろ書類が届く頃だとは思うが、中東からの郵便だ。
まだその時期がいつになるかはなんとも言えない。
ー直純くんが外に出られるようになってから、我が家か貴船家に連れてきていただくのが一番いいかと思いますが、その分だとかなり後になりそうですね。
そう仰ってくれたが、正直櫻葉邸も貴船邸も直純くんは萎縮してしまうだろう。
できれば一花くんと二人っきりの環境で会わせてあげたいというのが我々の気持ちだ。
だがそうなると、会うのはますます遠くなってしまう。
早く会わせたいが、直くんのことを考えると軽はずみな場所は受け入れられない。
すると、少し悩んでいる様子だった櫻葉さんが突然大声をあげて、
ーああっ! もしかしたらいい方法が見つかったかもしれません。
と言い出した。
ー征哉くんに話を通してからになりますが、彼の持っているキャンピングカーの中なら、誰の目を気にすることもなく尚且つ一花の体調も考慮できるでしょう。
キャンピングカー。
まさかそんないいアイディアがあったとは……。
だが、それなら一花くんも疲れないだろうし、直くんも周りの大人に緊張することなく一花くんと話すことができる。
これ以上の妙案はない。
都合の良い日時を聞かれたが、直くんのためだ。
いつだって時間を合わせられる。
ー櫻葉さん……本当にありがとうございます。
ー私は何も……。全ては一花自身の気持ちですから。
その言葉に感謝して何度もお礼を言って電話を切った。
この分なら本当にすぐに会えそうだ。
私は急いでこの結果を伝えに絢斗たちの元に向かった。
* * *
「卓さん、どこに電話するの?」
まだ寝ていた絢斗を起こさないように離れようとしていたのだが、それに気づいたらしい絢斗が声をかけてきた。
絢斗に隠し事はしないと決めているから、
「櫻葉会長だよ。直くんのことについて話がしたいとメッセージが来た」
というと、
「私も聞きたいからここで話して」
と言われてしまった。
「だが、大丈夫か? 辛いことを聞くことになるかもしれないぞ」
「ううん。だから聞いておきたい。私だって直くんの親なんだから」
そうだな。私の息子として籍を入れる予定の直くんだ。
戸籍上は絢斗の兄弟になるとはいえ、私たちの中では息子という意識を持っている。
「わかった。じゃあ、スピーカーにしてかけるよ」
「うん。静かにしてるから」
そっと私の手を握る絢斗の手は寝起きだというのに冷たくなっていた。
緊張しているんだろうな。
私は絢斗の小さな手を握りながら、櫻葉さんに電話をかけた。
今までどんな相手でも緊張などしなかったのに、もしもしと呼びかける声が震えていることに気づく。
私も緊張しているのだな。
電話口の櫻葉さんは、日曜日の朝なのにと気遣ってくれたが、そちらの話の方が大事なことだ。
ーそれより直純くんのことで話というのは……?
気になって仕方がなくて問いかけると、直くんが一花くんに謝罪したいと言っていることを櫻葉さんも聞いたようだ。
ー私たちも昨日一花に全てを話しました。その上で、直純くんが一花に謝罪したいと言っていることを伝えました。
ーそれで、一花さんはなんと?
ーふふっ。一花は何も悪いことをしていないのだから謝る必要はないと言ってましたよ。
ーえっ……
思いがけない反応に驚きつつも、これは直くんには会いたくないという一花くんの意思表示ではないかと思ってしまった。
隣にいる絢斗もそう考えてしまったのだろう。少し俯いてしまっている。
ーでも……
櫻葉さんの言葉が続くのをじっと聞いていると、
ー彼が先に進むために謝罪が必要なら受けると言ってました。
ー――っ!! それじゃあ……
ーはい。近々、一花と直純くんをどこかで会わせたいと考えています。
直くんが一花くんと会える!
櫻葉さんが発した言葉の意味が嬉しすぎて、脳が理解するまでにしばしの時間を要してしまったけれど、私の隣で絢斗が必死に口を押さえながら涙を我慢しているのが見えて、絢斗を抱きしめた。
あまりにも嬉しい言葉に我慢できなくなったのだろう。
抑えきれない嗚咽が漏れ聞こえる。
ー磯山先生? 大丈夫ですか?
絢斗のその声が櫻葉さんにも聞こえてしまったようで心配されてしまった。
すぐに折り返すと告げて一度電話を切った。
「絢斗、大丈夫か?」
「ごめんなさい……我慢できなくて……」
「いいよ。気にしないでいい。私も泣きそうだったのは同じだ」
「ねぇ、直くんにこのことを話してきてもいいかな?」
「そうだな。櫻葉さんが直接話をしてくれたのだからこの予定が変わることはないだろう。行っておいで。私はその間に櫻葉さんと具体的な話を進めておくよ。呼びにいくまで直くんの部屋で待っていてくれるか?」
「うん、わかった」
嬉しそうに部屋を出ていく絢斗を見送って、私は折り返しの電話をかけた。
ー先ほどは失礼いたしました。
ーいえ、絢斗さんはもう大丈夫ですか?
ーはい。今、直純くんのところに話をしに行っています。
そういうと安堵の声が漏れていたから、もう会えることは間違い無いだろう。
ーそれで、一花さんと会わせていただけるというお話ですが……
ーええ。その場所についてご相談というか、話し合いたいと思ってるんです。直純くんはまだ外には出られない状況でしょう?
そうだ、そのことがあった。
だが、一花くんもまだ外に出られるような状態でも無いだろう。
直くんが正式に私の息子となっているなら外にも連れ出せるだろうが、まだ彼があの母親と繋がりのある状態では外には出したく無いのが本音だ。
そろそろ書類が届く頃だとは思うが、中東からの郵便だ。
まだその時期がいつになるかはなんとも言えない。
ー直純くんが外に出られるようになってから、我が家か貴船家に連れてきていただくのが一番いいかと思いますが、その分だとかなり後になりそうですね。
そう仰ってくれたが、正直櫻葉邸も貴船邸も直純くんは萎縮してしまうだろう。
できれば一花くんと二人っきりの環境で会わせてあげたいというのが我々の気持ちだ。
だがそうなると、会うのはますます遠くなってしまう。
早く会わせたいが、直くんのことを考えると軽はずみな場所は受け入れられない。
すると、少し悩んでいる様子だった櫻葉さんが突然大声をあげて、
ーああっ! もしかしたらいい方法が見つかったかもしれません。
と言い出した。
ー征哉くんに話を通してからになりますが、彼の持っているキャンピングカーの中なら、誰の目を気にすることもなく尚且つ一花の体調も考慮できるでしょう。
キャンピングカー。
まさかそんないいアイディアがあったとは……。
だが、それなら一花くんも疲れないだろうし、直くんも周りの大人に緊張することなく一花くんと話すことができる。
これ以上の妙案はない。
都合の良い日時を聞かれたが、直くんのためだ。
いつだって時間を合わせられる。
ー櫻葉さん……本当にありがとうございます。
ー私は何も……。全ては一花自身の気持ちですから。
その言葉に感謝して何度もお礼を言って電話を切った。
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