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出会うべくして

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「谷垣くんと志摩くんはこちらに座ってくれ。私たちは四人でこちらに座ろう」

本当なら三人ずつ別れたほうが広々として座りやすいのだろうけど、みんな、大好きな人と離れて食事をしたくないのだから仕方がない。

それがわかっているから、志摩くんも尚孝くんも何も言わずに案内された席に座った。

「わぁ、卓さん。今日はいつにも増して豪華だね」

「ああ、志摩くんが手際よく料理を作ってくれるものだから品数が増えたんだよ」

「ふふっ。そうなんだ。志摩くん、ありがとう」

「いえ、磯山先生に教えていただきながら作るのが楽しくて、ついたくさん作ってしまっただけです」

「でも、尚孝くんは志摩くんの料理が大好きで感謝してるって言ってたよ」

「尚孝さん、本当ですか?」

「ええ。本当です。唯人さんの料理、とっても大好きです。あっ、もちろん料理だけじゃなくて唯人さんも好きですよ」

「――っ、尚孝さんっ!」

嬉しそうに尚孝くんを抱きしめる志摩くんの姿に、卓さんは少し驚きつつも微笑ましそうな表情を見せていた。

「卓さん、どうかしたの?」

その表情が気になって耳元でこっそりと尋ねると、感慨深そうにゆっくりと口を開いた。

「いや、あの志摩くんがこうして最愛の人を前に幸せそうにしている姿を見るのはものすごく新鮮だが、昔の自分や志良堂を見ているようで懐かしく思えただけだ。やっぱり最愛の存在ができると皆同じようになってしまうものだな」

「ふふっ。卓さんも会う人会う人に言われてたよね、そんな表情ができるなんて思わなかったって」

「そうだったか?」

「ふふっ。私も見たかったな」

「それは無理だよ」

「どうして?」

「絢斗に出会った瞬間から、私は一気に変わってしまったんだからな。見せられるわけがないだろう?」

そんなふうに堂々と言い切る卓さんを可愛いと思いながら、楽しい食事の時間は始まった。

「んっ! このお肉、すっごく美味しい!! 直くんも食べてみて!」

タレの香ばしい匂いと艶やかな照りだけで涎がでそうな骨付きのお肉を卓さんに取ってもらって食べて見せると、直くんは驚いていたけれど昇くんが卓さんと同じようにお肉をとって直くんの口に運ぶと小さな口をあーんと大きく開けて齧り付いていた。
ほろっと骨から外れるお肉を昇くんが指で摘んで半分食べさせると、残りの半分は昇くんの口に消えていった。

「んーっ、すごく美味しいです。ねぇ、昇さん」

「ああ、美味しいな」

もう誰がみたって恋人同士そのものの様子に、尚孝くんも志摩くんも微笑ましくみているけれど、実際にはまだこの二人は恋人同士じゃない。
というか、直くんが両思いだとか、恋人だとかの概念がないからそんな関係になっていないだけだ。

今まで恋愛というものに接することなく過ごしてきたのだからそれも仕方がないことだけど、なんとかして直くんにわかってもらえたらもう少し昇くんも楽になるんだろうけど。
まだ中学生の直くんには難しいかな。

「これは志摩くんが作ってくれたんだ。絢斗と直くんがそんなに気に入ったなら、レシピを教えてもらおうかな」

「ええ、喜んでお教えしますよ。これは尚孝さんも好きなメニューで、甘めが好きなので少しマーマレードを多めに入れてるんですが、その辺はお好みに合わせて変えていただいて構いませんよ」

「ああ、そうなのか。なるほど。私の方も勉強になるよ。昇もしっかりと直くんの好みを勉強しておかないとな」

「はい。志摩さん、またいろいろと教えてください」

「ええ。お安い御用ですよ」

和気藹々とした雰囲気の中、私はどうしても気になっていたことを尋ねることにした。

「ねぇ、志摩くんと尚孝くんはいつから付き合ってるの?」

「えっ!」

私の直球の質問に、尚孝くんは一気に顔を赤らめたけれど、志摩くんの方は堂々とした表情で

「まだそこまで経ってはいないんですよ」

と教えてくれた。

「そうなんだ。ねぇ、出会いはやっぱり征哉くんのお家だよね?」

「いえ、実は偶然外で出会ったんです。ねぇ、尚孝さん」

「え、あ、はい。あの……<星彩庵>で……」

「ええー、そうなんだ。もしかして志摩くんが声をかけたの?」

「いえ、あの……」

「こら、絢斗。いきなり深く踏み込んで尋ねてはダメだぞ」

「はーい」

尚孝くんの困った表情に卓さんからそう注意されてしまったけれど、

「あ、いえ。大丈夫です。あの、行列に割り込んできた人とトラブルになっていたところに唯人さんが颯爽と現れて助けてくれたんですよ。その後、貴船邸で再会して……」

と教えてくれた。

「ええー、すごい! 志摩くん、王子さまみたいだね。ねぇ、直くん」

「はい。困ってるときに助けてくれるのって格好いいですね」

「うんうん」

「そんなことないですよ。きっと磯山先生も昇さんも同じ状況ならそうされるでしょうし」

謙遜しているけれど、その時のことを想像するだけでときめいてしまうのがわかる。
もし、卓さんがそんなふうに助けてくれたら、私もきっと一目惚れしてしまうかも……。

やっぱりこの二人って、出会うべくして出会った二人なんだろうな。
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