上 下
97 / 314

大丈夫だから……

しおりを挟む
<side絢斗>

「お帰りなさい、卓さん」

「ああ、ただいま」

今日はいつもにも増して嬉しそうな笑顔の卓さんに私から唇を重ねに行くと、背伸びをした私の腰にさっと腕を回してくれて、チュッと甘い音がした。

こうして玄関先で帰ってきたばかりの卓さんの愛を感じられるのは、やっぱり嬉しい。

「遅くなって心配したか?」

「ううん、中谷くんから昇くんと事務所で話をしてるって連絡が来てたから私は大丈夫だったんだけど、直くんに伝えてもいいのかわからなくて……直くんが、ずっと時計を見てソワソワしてて……」

「そうだったか。申し訳ないことしたな」

「何か重要な話だった?」

「いや、そうじゃないよ。明日の話だ」

「ああ、そうか。もう明日だもんね」

「直くんの様子はどうだった? 緊張はしていないか?」

「うーん、未知子さんが訪ねてきてくれた時よりは、安心してるかも。多分、あれから私たちの関係も変わったし、直くん的にも落ち着いているし、何より卓さんのことを信頼しているから、卓さんの友だちだって聞いているからあまり緊張はしてないみたいだよ。今日もずっとあのおにぎりの話で盛り上がってたし」

「そうか。それなら、あまり私たちが気を揉むのはやめたほうがいいかもしれないな」

ふふっ。本当のパパみたい。
直くんのこと、真剣に考えてくれる卓さん……かっこいいな。

「今日のおにぎりのお礼にとびっきり美味しい夕食を作るよ」

「わぁー、嬉しいっ!」

「その前に着替えを手伝ってくれ」

「ふふっ。はい」

一緒に部屋に行き、着替えを手伝ってキッチンに行く卓さんを見送ると、すぐにリビングから昇くんも手伝いにきた。

それから、あっという間にダイニングテーブルの上には美味しそうな料理でいっぱいになった。

おにぎりだけで大満足の私には、こんなものすごい料理は魔法でも使わないと無理なくらいだけど、

――絢斗が作ってくれたあのおにぎり! 最高に美味しかったよ!!

お昼休みに帰ってきた時に、私の顔を見るなりそう言ってくれた。
卓さんにとってはどんな料理かじゃなくて、私が作ったものが嬉しいんだとわかって余計に嬉しかったんだ。

今日の夕食は直くんの好きなハンバーグと私の好きなエビフライ。
あのおにぎりを作れたのが直くんのおかげだってちゃんとわかってくれているからこそのメニュー。
だから卓さんが好きなんだ。

直くんがここに来て、最初の夕食もハンバーグだった。
あれから何度か食べて、その度にソースを変えて、直くんが一番好きなのが照り焼きソースに大根おろしをかけた和風なもの。
あれだといつもより多めに食べられるとわかって、うちの定番になりつつある。
実のところ、私もこの照り焼きソースと大根おろしの組み合わせが一番好き。
だから、直くんと一緒ですごく嬉しいんだ。

サクサクで真っ直ぐな大きなエビフライをパクッと食べると、

「ふふっ。衣がついてる」

と言って卓さんがキスをするように唇で取ってくれる。
直くんの手前、最初は手で取ってくれていたけれど、玄関でのキスを解禁した時から、夫夫なら当たり前のことなんだよと伝えると、直くんはなんでも納得してくれるようになった。

まぁ、皐月たちだって、伊織くんたちだって、それに二葉さんたちも普通にやってることだから、直くんも今から覚えておくのは悪いことじゃない、よね……。

「ふぅ……パパ、すごく美味しかったです」

「そうか、よかった」

直くんが完食できるようにサイズも考えて作られたハンバーグ。
今日はエビフライもあったから、いつもよりももっと小さめだったけれど、直くんは満足そうにお腹をさすっていた。

残しても、昇くんが食べるから大丈夫って言ってるから、無理はしてないと思うけどね。
ふふっ、昇くんの方は直くんの食べかけが食べられなくて残念そう。


食後、みんなでソファーに座っていると、

「あの、パパ……」

と直くんが卓さんに声をかけた。

「直くん、どうした?」

「あの、明日……パパのお友達が来られるんですよね?」

「ああ、そうだよ。でも優しい人たちだから心配しないでいいよ」

卓さんの笑顔に直くんはホッとしているように見えた。


そして、当日。

お昼を軽く済ませて、一息ついた頃、玄関チャイムが鳴り、彼らがやってきた。

<side直純>

どんな人が来るんだろう?
僕と話がしたいってなんの話だろう?

気になることはたくさんあるけれど、聞いたところでわからないしその時が来るのを待つしかない。

少し前の僕なら、きっとこの家を追い出されてどこかに連れて行かれるのかもしれないと考えただろうけど、今はパパとあやちゃんと昇さんと家族になったって自信があるから、そんな怖いことは考えないようにした。

だって、僕のことを考えてくれているパパが大丈夫って言ってくれたんだから。

それでもその時が近づくと緊張してしまっている自分がいた。

指が震える。
止めようと思っても自力では止められない。

どうしよう……。

その時、僕の手を大きな手が包み込んだ。

「昇さん……」

「大丈夫。俺がついてるよ」

その言葉はまるでお薬のように、僕の震えを止めてくれた。

大丈夫、大丈夫。
自分でもそう言い聞かせていると、とうとうパパのお友だちがやってきた。
しおりを挟む
感想 435

あなたにおすすめの小説

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...